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「おやつ? 昼ご飯じゃなくて?」
週末。
週休二日であるので、仕事が関係ない子供達がわらわらとクリスが管理する畑へやってきて、適当に遊んでいく。
さすがに自分達の家でも畑をしていて、時おり手伝っているためか荒らさないように手のひらサイズの昆虫や魔物の幼虫を見つけて、その大きさなどを競っていた。
時刻はすでにお昼を過ぎた午後三時。
いわゆる間食をする時間である。
遊びに来ていた子供達は各々が持ち寄った間食を、畑の隅に御座を敷いて遠足のように食べ始めた。
駄菓子にジュース、袋に入ったポテチに混じって何人かはタッパに入った漬け物、ビニール袋に薄切りにしたジャガイモを揚げたやつーー手作りのポテチを持ってきている者、そしてラップに包まれたおにぎりを持っている者と様々だ。
一部、明らかに食事のメニューだろというものを持参しているのでてっきり弁当だと思ったのだが、おやつらしい。
「そ、俺は味噌おにぎり好きだから、作ってもらったんだ!」
言って、何人かはどういうわけかキラキラとした目でクリスを見てくる。
「なんだ?」
クリスの疑問に、ダイが代表して言ってきた。
「おっさん、魔法で火だしてマシュマロの時みたいに!」
「なんで?」
意味がわからず聞き返したクリスに、おにぎりを持参した子供達は口を揃えて言った。
「「「これあぶって焼おにぎりにする!」」」
たぶん、一番平和な火魔法の使い方だろう。
苦笑しつつ、クリスは指を振る。
すると、子供達の持っていた味付けおにぎりがその手を離れ、包まれていたラップやアルミから抜け出す。
宙に舞ったおにぎりは形を崩すことなく、そのまま静止する。
次に、クリスは指をぱちんと鳴らした。
けっして派手ではない、むしろ地味な火が同じように宙を舞っておにぎりを炙る。
味噌と米のこげる良い匂いが漂う。
焼き色の頃合いを見て、クリスは火を消すと良い感じに焼けたおにぎりを子供達に返してやる。
「やっぱりすげぇな、魔法って!」
「あつあつ、うまうま」
わいわいと、子供達がおやつを食べる様をみて、今日の夕飯は焼おにぎりにしようとクリスは決めた。
「ごみは持って帰れよ」
そう一言、言いおいてクリスは作業に戻る。
ちなみに、マシュマロの時と言うのは子供達が初めてクリスに魔法を見せてもらったときの話である。
その日、徳用の大袋に入ったマシュマロを食べながらここにきた子供達に、マシュマロも焼くとうまいんだと話して、ちょっとした手品感覚でいま焼おにぎりにしたのと同じ光景を見せて、マシュマロを焼いてやったのだ。
ついでにクリスはマシュマロをもらって炙ったあと、その時自分のおやつとして持ってきていたクッキーに挟んで食べるという食べ方を教えてやった。
これがかなり好印象だったようで、一気に子供達の間でクリスの知名度が上がったのである。
子供達が美味しそうに、おやつを貪るさまを見ながら作業を再開させようとした時、その映像が届いた。
直接、式から届いた映像に、クリスは瞳を閉じた。
同居人である少年ーーハガネは、今日、バイトの面接らしい。
面接というよりも、正確には試験があるらしくジル曰く数日かかるかもということだった。
数日かかるバイトの試験など聞いたことがない。
いや、クリスが今まで育った国では無かっただけで、捜査局や他国であるこの国だと普通なのかもしれない。
深くは突っ込まず、そうかと言ってジルとともに今朝出掛けていった。
面倒を見る時間が少ないのは気が楽である。
ハガネの妹も捜査局の保護下にあり、聞いた話では保護プログラムなるものを受けて、養子だか里子に出されるらしい。
養子、もしくは里子に出されるまではしかるべき場所で、一般教養などを再教育あるいは訓練をするようだ。
カウンセリング等も受けるのだとか。
ちなみに、養子と里子の違いは引き取る保護者の親権の有無によって変わってくる。
養父母の場合は親権があり、里親の場合は親権がない。
ハガネ達の場合は当てはまらないが、なにかしらの理由で本来の親ーー産みの親が子供達を育てられない場合、孤児院等の施設に預けられる。
この施設では親の代わりとなる職員が子供達の面倒を見るが、普通の家庭のように見られるわけではない。
なので、一般家庭に子供を引き取って育てて貰うのである。
養子の場合は本来の親は親権を手放すことになる。
クリスがジルから聞いた話によると、育てられず子供を施設に預け収入などが安定したら迎えにくる親もいるが中には様々な事情によって中々それが出来ない親がいるらしい。
施設の職員や自治体としては、そう言った子供のためにも家族との時間を経験させたいらしい。
しかし、その話に乗り気でない親もいるのだとか。
子供のことを考えるなら、やはり家族の中で育てた方が良いのだろう。
しかし、本来の親は子供を手放せないらしい。
里親に出すのも、自分以外の他人に心が移るのではないかと心配して頷かないらしい。
家族というものが、家庭というものがどういうものなのかすら経験できない子供達がいるのだそうだ。
血の繋がりの有無で子供が幸福か否か判断する、クリスにはそれがよくわからない。
孤児は、本当に全員が全員不幸で可哀想なのだろうか?
養子に出される子供は、血の繋がらない他人に育てられて哀れなのだろうか?
捨てられた子供、その全員が漏れなく不幸なのだろうか?
クリスに分かるのは、ケースバイケースという事くらいだ。
少なくとも、荒れはしたものの自分は不幸ではなかったし、ダイの姉であるファルも不幸そうには見えない。
元妻は、妻と彼女の愛する相手との血の繋がった子供しか欲しなかった。
だから、不自然なくらい子供が流れ続けた。
それを、もっと早く知っていたらと思う。
その事にもっと早く気づけていたなら、流れる命は少なかったに違いない。
「それでもさ、お前はその子達にとっての母親なんだよ」
ゆっくりと、閉じていた瞳を開ける。
時間にして数秒。
それでも、クリスの不可解な行動と呟きに子供達は気づいたようだ。
首を傾げながら、それでもまたおにぎりを焼いてくれと頼んでくる。
クリスは仕方ないなぁと言いたげに、でもどこか父親の顔をしてまた魔法を披露する。
今しがた元妻が持っていった式から届いた、元妻が惨殺された場面とその妻の魂を迎えにきた子ども達の映像を忘れるかのように、笑った。
うちはオニギリがおやつでした(о´∀`о)




