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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
田舎の日常は都会の非日常
25/36

16

 翌日。

 最早、体が勝手に動いてしまう。

 日が上る前に目を覚ましたクリスは、抱き枕よろしく魔道兵の少年によって拘束されていたがそれからするりと抜け出すと洗面所へ向かう。

 いつもよりすべてが大きく見える世界で、ようやく寝ぼけていた頭が覚醒する。

 指をパチンと鳴らして、暫しの違和感と苦しみに堪え元の姿に戻る。

 洗面台の鏡には、寝間着の上だけというむさ苦しく見苦しい初老の男が映る。

 とりあえず部屋着に着替える。 

 軽く顔を洗って、それから朝食の準備をする。

 といっても米の入った炊飯器のスイッチを入れるだけだ。

 味噌汁はめんどくさいので今日はインスタントである。

 なので、ポットに水を入れてこれもスイッチを押す。

 次に、外へ出て罠のチェックをし不届きな泥棒がいたら、とりあえず今日は軽トラの方へ積んでいく。

 大型トラックは昨日のことがあり、走れはするが危ないので動かせない。

 実は、この早朝が一番泥棒が捕まるのである。夜に畑に忍び込んで一網打尽になっているのだ。

 今日は二人だけで少なかった。

 魔物は珍しくかかっていない。

 そうして、朝にチェックする場所を見終えると日が上ってきたので小屋に戻る。


 ハガネはまだ起きてきていない。


 とりあえず、野菜炒めを作っておく。

 自分だけならご飯と汁だけで良いが昨夜の食べっぷりを見るに、ハガネはきっと足りないはずだ。

 ついでに貰った燻製肉もハガネの分だけだしておく。残りは昼に食べることにする。

 三十を越えてからあまり重いものはたべられなくなった。

 年々食べられる量が少なくなってきている。

 別に病気とかではなくそう言うものなのだ。

 こう言うとき、意外と魔法薬ではなく漢方などが重宝したりする。

 独身の頃と違い、長年の習慣で癖がついてしまい煙草も吸わなくなってしまった。

 口寂しい時はガムや飴、チョコなどでまぎらわせている。

 そうこうしていると、ハガネが起きてきた。

 やはり食べる年頃なのだろう。

 ガツガツととてもいい食べっぷりである。見ていて気持ちがいい。


 「お代わりは自分で盛れよ」


 言うや、すぐさま山盛りにして食べる。

 先にクリスが食べ終わる。

 布団を片付けて、食器をシンクに持っていき洗う。

 それから洗面台へ行き、今度は歯磨きと髭を剃って調え身嗜みをチェックする。


 (ジルがくるまで、待ってた方が良いんだろうか?)


 目を離した所で、どうなるわけでもない。何故なら少なくともハガネの動向は把握出来ているのだ。

 いつもだったら朝食を終えた後、別の場所の罠のチェックに向かうのだが、やはり把握出来るとはいえ目を離すのはまずいだろうか?

 考えながら、こちらに来てすっかり着なれてしまったツナギに袖を通す。

 一番安かったという理由でリューが用意したものだ。

 ド派手な赤色のツナギである。


 「ご馳走さまでした。

 美味しかったです」


 仕事の準備をしているクリスに、ハガネは言ってきた。

 見れば野菜炒めが山盛りになっていた皿が空になっている。

 昼はもう少し多く量を用意した方がよいのかもしれない。


 「ん。皿はシンクに出しとけ」


 さて、どうしたものかと考えているとジルがやってきた。

 ちょうど良かった。

 下手に罠を弄らせるわけにはいかないし、クリスも農業初心者であり、ハガネも農家出身というわけではないというのは、昨夜簡単に話してくれていた。

 ハガネの前の人格の記憶では、物心がつき始めた頃に父母とともに人買いによって売られ、施設で生きてきたらしい。

 両親は、妹やほかの者と一緒に外に出され帰ってこなかったらしい。


 「おはよー、あ、起きてるね。

 関心関心。

 それじゃ、はいこれ。着替えだよ。

 着替えたらすぐに君の妹ちゃんのいる病院に連れていってあげる。

 あ、クリス君もきてね」


 「俺もかよ」


 「だって、ハガネ君を保護したのは君だよ。重要参考人の一人なんだから話を聞かないと」


 それに、とジルは笑みを深めて続けた。


 「君には、懐いたみたいだしね?」


 ハガネを見れば、迷子の子犬のような目をしてクリスを見ていた。


 (ただ食事を作っただけなんだけどなぁ)


 「まぁ、どうしても嫌だって言うなら無理強いはしないけど」


 所謂、餌付けであったことにクリスは気づいていない。

 そして、クリスもジルも知らないことであったが、このハガネはそれこそ人格もある程度成長し学習している少年ではある。


 しかし、生まれたての赤ん坊とそう変わらない人格でもあった。

 なので、大人であり優しくしてくれたクリスに対して、無意識に保護を求めていた。

 もちろん、ただ優しくされただけが理由ではない。

 施設でハガネ達を監視し、管理していた者達では為す術がなかったハガネを圧倒的な力で捩じ伏せたのである。

 それも、ハガネがクリス自身に危害を加える前にである。

 本人は眠そうにしていて、いまいちそう強そうには見えないし。

 はっきりいって枯れた、冴えないおっさんにしか見えない。

 施設にもそれなりに強い者はいた。

 でもクリスはその誰よりも強い。

 何よりも魔法の発動速度が化け物並みなのである。

 あんなに早く魔法を発動させる者を、ハガネは見たことなかった

 得たいの知れない強さだけで言うなら、ジルから漏れでる気配もかなりのものだ。

 ジルは気を許してはいけない部類で、クリスは提示された決まりさえ守ればハガネに危害を加える人物ではないと考えたのだ。

 実際、ハガネはクリスに何か危害を加えられると言うことはなかった。

 少し不安そうにしているハガネを見て、クリスは大きく息を吐き出すとジルの申し出を了承したのだった。

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