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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
田舎の日常は都会の非日常
22/36

13

少年が痛い目にあってます。苦手な方は注意してください。


 「お腹鳴った?」


 ファルがノエルを見て、もう一度、寝転がっている少年を見る。

 ノエルが、雑炊をすすって肯定する。


 「鳴ったね。ファル、そこの七味とって」


 「ん」


 ファルとノエルがそんなやり取りをしている横で、クリスが少年の分も使い捨ての器に雑炊をよそう。


 「腹へってんなら食うか?」


 少年の顔の前に器を置く。

 少しして、少年が口と目を開いた。


 「体動かねー」


 「よし、ファル。お前食わせてやれ」


 クリスの言葉にファルが声をあげる。

 もちろんブーイングだ。


 「えー!?なんでさー!」


 「んじゃ、ノエル」


 「はぁ、まぁ良いですけど」


 「おっさんがやれば良いじゃん」


 ノエルが快諾すると、あからさまに少年の体がびくついた。

 脂汗もすごい勢い出ているが、クリスは見てみぬ振りをする。


 「こう言うのはムサイおっさんがやるよりも、華のある女の子がやった方が良いんだよ」


 「男女差別だー!セクハラだー!」


 ファルが楽しそうに言う。


 「んじゃ、男の方が腕力あるから力仕事は男の仕事ってのも区別じゃなくて差別だな」


 クリスがそう返した時だった。

 ノエルが少年に近づいて、用意されていたスプーンで雑炊を掬って食べさせようとする。


 「口開けてください」


 「・・・・・・」


 「仕方ないですね」


 やれやれといった感じでノエルは、動けない少年の顔、鼻に触れ、指でできるだけ鼻の穴を広げるとそこに雑炊を注ぎこもうとする。

 さすがに、危険を感じて少年は叫んだ。


 「自分で食べれる! 食べれるから、拷問はやめろぉぉぉおおお!」


 少年が悲痛な叫び声を上げた。


 「さっきみたいに逃げたり、こいつらに危ないことしないか?

 誓えるか?」


 誓約の魔法を使ってクリスが問えば、少年は必死に訴える。


 「しない!誓う! あつっ!いたいいたい! 壊れる、俺の穴がこわれるぅぅぅうう!」


 ノエルは容赦しない。


 「よし」


 指をぱちんと鳴らして、クリスは少年の拘束を解いた。

 が、しばらく少年はのたうち回っていた。

 鼻に異物感があるととても痛いのだ。


 (魔道兵、にしてはちゃんと自我があるんだよなぁ)


 自我を保ったままあの年まで生きている。

 その事実に、研究職として大変興味がわいてくる。

 赤ん坊のころに魔道兵となっても、生きていられるのは理論上は長くて五才までだ。

 しかし、少年はその倍以上を生きていると思われる。

 外見だけで判断するならば、だが。

 不意に、クリスはあの紙より薄い画面を出して、少年のデータを映し出した。

 少年が寝ている間に、彼の負担にならないように仕込んだ術式によるものだ。

 少年は気づいていないようだ。

 確認したところ、とくに異常な数値は見られない。

 それが、かえって異常である。

 普通であること、それが異常なのだ。

 どこかしらに、あの年頃らしからぬ数値が出ても良さそうなのに、見る限り異常はない。

 どこにでもいる十代半ばの少年の、平均的な数値が示されている。


 息を吐き出して、クリスが考えようとした時だ。

 なんとか鼻の痛みというか異物感がとれたのだろう、半泣きで少年が雑炊を啜っているのが見えた。


 「ゆっくり食えよ」


 言ったそばから穴違いをしたのだろう、少年は咳き込んだ。

 指を振って空中から井戸水を召喚して、紙コップに入れて渡してやる。

 それを美味しそうにごくごく飲み干す。

 そして、すぐにガツガツと雑炊を平らげると、物欲しそうな目で鍋を見てきた。


 「おかわり、いるか?」


 聞きつつ、器を受け取ろうと手を出せば、おそるおそるといった感じで器を渡してきた。

 先程よりは、少し多目に入れて渡してやる。


 「そういや、お前名前なんていうんだ?」


 ノエルはお役御免を悟ったのか自分でおかわりを盛ってファルと並んで、テレビを見ながら二人して笑っている。


 「は、ハガネ」


 「ハガネな。

 んじゃハガネ。その雑炊、うまいか?」


 こくんと頷いて少年ーーハガネはまたガツガツとうまそうに雑炊を食べる。


 「そうかそうか」


 よしよしと軽く少年の頭を撫でる。

 すぐに手を離して、


 「まだたくさんあるから遠慮すんなよ」


 クリスはそう言った。

 その直後のことだ。


 「あー、いい匂い」


 ようやっと戻ってきたジルが、我が物顔で雑炊を食べ始めた。


あ、サラダ出してなかった。

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