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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
田舎の日常は都会の非日常
21/36

12

 万能薬だな、としみじみ思った。


 ノエルによって、叩きつけられた少年の背中から、してはいけない音がした。

 背骨が天に召された音だ。

 再び意識を失った少年。

 その背中に、今度は服を無理矢理脱がしてエルフの妙薬を塗ったくった。

 音は悲惨だったが、打ち身による内出血だけで済んだようだ。

 普通の人間だったら、折れていたかもしれない場所が治っていく。

 そもそも魔道兵だから体はとても頑丈という思い込みがあったのだが、違うのだろうか?

 いや、この場合ノエルが規格外なのかもしれない。


 「そう言えば、人でしたね」


 ノエルが、なんか怖いことをぽつりと呟いた。

 いつもは魔物や熊を相手にしているので、力の加減をそちらに合わせていたようだ。

 と、なるとこの呟きは、『そう言えば、人(っぽく見える犯罪者)でしたね』だろうか。


 「万が一後ろから食べられそうになったときの対処で、今は亡くなったんでいないんですけど。

 死んだ曾お祖父さんに教えてもらったんです。

 さすがに一頭しか倒せないし、私スタミナも無いんで何頭も相手することは出来ないんですけど」


 彼女の曾祖父は、過剰防衛を曾孫に教え込んでいたようだ。

 むしろ、その曾祖父が熊とかゴリラなんじゃないかという説がクリスの中で出てくる。

 そこで、ノエルはクリスを見る。


 「それで、何なんですか? この子?」


 「俺が知りたい」


 「妹がどうとかいってたようですけど」


 「ま、まさか、おっさん、その子の妹を誘拐して軟禁してるとか」


 「泣くぞ」


 さすがに、このご時世では笑えない冗談だ。


 「冗談だよ」


 頭をガシガシかいてクリスは考えを巡らせる。

 恐らく、この少年が先日保護した幼女の関係者なのだろうとは思う。

 あの幼女が少年が言う妹なのかは、きちんと確認しなければなんとも言えない。

 なにしろ、兄弟姉妹のような、血の繋がりが全くない関係の他人も存在するのだから。


 「事件性があるようですし、警察に通報した方が良いんじゃないですか?

 そう言えば、表のトラックも派手に壊れてましたけど」


 「もう連絡はしてある」


 警察ではないが。

 ジルは、クリスの連絡を受け取っている。だが、今のところ返信はない。


 「今は連絡待ちだ」


 言いつつ、二人がお裾分けとして持ってきたビニール袋を見る。

 それから、時間を確認する。


 「あれ? 腕時計買ったんですか?」


 ノエルが聞いてくる。

 女性は細かいところを見ているというのは本当のようだ。 


 「時間が確認できないと不便だからな」


 「車でラジオかければいいのに」


 「バッテリー上がるだろ」


 車でラジオを流し、それをBGMに農作業をする人がいる。

 時報があるので時計がわりになるのだ。

 しかし、色々勿体ないのでずっと流している人はいない。

 ある程度のところで携帯ラジオに切り替えるのである。

 ほとんどが、土や泥で汚れて音割れしてる壊れかけのラジオを使っていたりする。

 それとは別に、決まった時間になるとまるで警報のようなサイレンが響きわたる。

 それが時報であると聞いたときは本当に驚いた。

 なんでも、腕時計が広まる前の時代からの名残なのだとか。

 初めて聞いたとき、クリスは緊急警報かと思って少しビビってしまったのだ。

 似たような警報を、国にいた時、災害時に少し聞いたことがあったためだ。


 「じゃあ普通に携帯ラジオ買えば?」


 「ま、そのうちな」


 とりあえず、ファルが持ってきた甘酒を温めて二人に出す。

 クリスもそれを飲みつつ、


 「お前ら夕飯どうする? 食べてくか?」


 お裾分けの礼として言ってみれば、二人の目が輝いた。

 と言ってもバタバタしていたし、これでも精神的に疲れているので有り合わせのものを鍋にぶちこんだ雑炊くらいしか出せないが。


 「食べるー!」


 「おっさんのご飯おいしいからすきー!」


 燻製肉は明日にして、鶏肉があったので、それを雑炊にいれて先に使ってしまおうと決める。

 野菜だけなら文字通り腐るほどあるので、おかずはサラダか野菜炒めにしようと決める。

 念のため、少年にはもう一度拘束魔法を掛けなおす。

 今度は少し強力なものにしておく。

 先程のように自力で抜け出せないように。

 ある程度拘束力を弛めておくと、抜け出せるようなのだ。


 (それにしても)


 クリスは台所にたって、勝手にテレビをつけて寛いでいる女子高生をそれとなく見る。


 (母親ってこんな感じなのかな)


 クリスの父親は料理をする人では無かった。

 どちらかというと幼い頃、クリスはお母さんっ子だったのでよく手伝いをしていた。

 料理や家事で独り暮らしの時も、そこまで困らなかったのはその辺が関係しているのだろう。

 いや、この場合、どっちかというと犬猫の餌やりに近い気がするが、あまり考えないようにした。


 (ジルからの連絡はなし。

 リューは明日の朝まで仕事だしなぁ)


 ジルはともかく、リューは式を使えないので連絡が取れない。 

 ひょっとしたら、この小屋に設置してある家電の方に休憩時間にでも電話がくるかもしれないが。


 (腹へった)


 野菜をざく切りにして、炊き出しようかと思われる大きな鍋で煮込んでいく。

 出汁や調味料で味付けをして、最後に炊いておいた白米を投入して溶き卵をいれて完成である。

 使い捨ての容器を出してきて、二人によそう。


 「食器ないんですか? この前も紙皿だったし」


 ノエルがまた質問してきた。


 「いつまでここにいるかわかんないから、とりあえず使い捨てのやつ使ってるんだ」


 本格的に住むなら食器を用意した方が良いのだろうが、今のところクリスに永住の予定はない。

 とりあえず、リューが用意したものを使っているにすぎない。


 「え、そうなの?」


 「仕事の関係で一時的にいるだけだ」


 ファルが目を丸くしたところを見るに、クリスにまつわる噂ーー嫁に逃げられたとか追い出されたとかの話を信じているようだ。

 それもあながち間違いでは無いので訂正はしないでおく。

 仕事の関係というのも嘘ではない。

 国でのことがもう少し詳しくわかるまでの、繋ぎとして働いているのだ。

 何しろ、元妻の動向だけではわからないことばかりである。

 雑炊を啜りながら、いまだ眠っている少年を見る。

 不本意ながら巻き込まれてしまった厄介事ではあるものの、他からの情報が得られるというのは、クリスにとってはありがたいことなのだ。


 その匂いで、少年の腹が鳴ったのは数秒後の事だった。

一応、電波は入ってます。


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