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「ノエル、ノエル」
午後の授業中。
席替えで隣通しになってから、ファルはよくコソコソとノエルに話かけるようになった。
ノエルは、声をかけてきたダークエルフの友人を見る。
それから、ルーズリーフをメモ用紙のように切ってそこにメッセージを書いて折り畳むと、教師に気づかれないようファルに渡す。
『なに?』
そのメッセージを受け取って中を確認するとファルは返事を書く。
『甘酒ばーちゃんが作ったけどいる?』
『いるー!♪ヽ(´▽`)/』
『じゃ、今日うち来なよ』
『いくー!(о´∀`о)』
『ついでにおっさんにもおすそわけしようと思う』
『良いんでない?』
『じゃ、また遊びにいこ』
『いこいこ! んー、じゃあ帰る途中にうち寄っていって!
この前の熊の燻製肉二人にあげるよー』
ファルの家のほうが山よりで、ノエルの家のほうが町よりなので帰宅する場合ノエルの家に寄った方が都合が良いのだ。
ちなみに、同じ集落内ーー地域内なので学校よりは二人の家の距離は近い。
そうして、学校が終わるとチャリをこいで帰宅し、まずノエルの家で燻製肉を
回収する。
それからファルの家で、密封できる袋に入った甘酒を回収し、ファルの家の分の燻製肉を置いて、それから更に奥にある山小屋へと向かう。
基本平日は登下校があるので対害獣と魔物の装備は二人とも整えている。
チャリをさらに漕いで山を登り、小屋にたどり着く。
そこには、事故でもあったのだろうか。
まるで人か魔物か、それなりの大きさの動物でも轢いたかぶつかったのか見慣れた大型トラックのフロントガラスが盛大に割れている。
「おっさん、ドラゴンでも轢いたのかな?」
「うーん、どっちかっていうとぶつかったんじゃない?」
「でも、ノエル、変じゃね?」
「そうだね、血も肉片もないし」
この辺ではたまに低空飛行していた子竜が、車のフロントガラスにぶつかるという事故が起きる。
「運転席も綺麗だな」
ここまで盛大な事故だと運転席にいる者も、場合によっては『体を強くうちつけて死亡』なんて例もある。
そんな場合、乗っていた者の体液ーー主に血で汚れていたりするのだがそれもない。
「あれかな? 竜じゃなくて、竜の巣作りようの材料が落ちてきたとかかな?」
「かな?」
二人してチャリを降りて、小屋の前に置く。
それから玄関の戸を開けて、声をかけた。
「ごめんくださぁい!」
ノエルが声を張り上げ、ファルが続く。
「おっさん、いるー!?」
その声に答えるかのように、どたどたと激しい足音が奥からこっちに向かってやって来たかと思うと、その足音の主はノエルを人質にとったのだった。
それは、見知らぬ同年代ほどの少年だった。
基本、同じ村の者たちは顔をお互い見知っている。
子供同士なら、他に遊び友達もいないので知らないものはいないと言っても過言ではない。
(誰?)
ファルがきょとんとノエルを拘束して人質にしている、まるで怯えた犬のような少年に首を傾げる。
「え、だれ?」
ノエルもノエルで戸惑った声を出した。
慌てた様子で、ファルとノエルの目的の人物であるクリスが現れた。
「おいおい、落ち着けって、おい、お前らなんでいるんだ?」
前半は少年へ、後半はファルたちに向かってクリスは言う。
「えっと、うちのばーちゃんが甘酒作ったからお裾分けにきた」
ファルが答えて、ノエルも、
「私も熊の燻製肉をお裾分けに」
言いつつ二人してそれぞれお裾分けが入っているスーパーの半透明のビニール袋を見せてくる。
そんな二人を無視して少年が切羽詰まった声を出した。
「この女を死なせたく無かったら妹の場所を教えろ!」
「だから落ち着けって」
「早く言え!」
そんな少年はよほど焦っていたのか、ノエルの動きに気づかなかった。
ノエルは少年の鳩尾に肘を叩き込んだあと、顔面にむけて頭突きを食らわせたかと思うとすかさず腕をつかんで玄関との段差に彼を背中からたたきつけたのだった。
「えっと、ドラグノフさん。この人強盗かなにかですか?」
ノエルは戸惑ったままクリスを見る。




