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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
強姦の冤罪着せられて国外追放されちった(笑)
2/36

短編の方にも書きましたが、自分はスローライフというものに夢は見れないタイプです。

でも、こんなファンタジー世界の田舎なら夢が有るかなと、ファンタジー要素に夢を詰めました。よろしくお願いします。

 「着の身着のまま国外追放になった、と」


 彼は今や珍しくなった伝書鳩で手紙を友人に送る。

 救助要請である。

 年の頃、四十代半ば。髪には白いものが混じりどこか疲れた色が顔に浮かんでいる。

 彼は数時間前に、ずっと仕えていた職場から追い出された。

 ついでに国外追放を言い渡されてしまったのだ。


 「あー、空が青い」


 街道沿いを歩きながら、のんびりと呟く。

 黒のコートに通勤用に使っていたショルダーバッグ、バッグの中には何とか持ち出せたへそくりの入った財布。

 外国の銀行のキャッシュカードやら、もうずっと使っていないバイト時代からの身分証明書を初めとした、諸々。

 そして、念の為に人質代わりの機密書類。

 妻に内緒で別の銀行で口座を作っておいて正解だった。

 これが彼の持ち物の全てであった。


 「頑張って働いてきたんだけどなぁ」


 魔道高等学校を出て四半世紀近く、学生時代は荒れていたものの就職してからは部署移動などもあったが今の職場でずっと頑張ってきたのだ。

 先輩の嫌がらせも、上司のよくわからない八つ当たりにも堪えてきたというのに、これである。

 結婚し、子宝には恵まれなかった。それが原因なのか妻との関係は冷えきっていた。

 それでも、こんなのは何処にでもある話だ。

 しかし、である。

 

 「疲れた」


 この数時間。正確にはお日様が昇ってちょっと傾きつつある現在までの約八時間ちょい。

 もうすぐ人生の折り返し地点だというのに、残りの一生プラス来世分のどたばたを経験した気がする。

 

 彼ーークリス・ヴェクター・ドラグノフは今日一日に起こったことを思い出す。


 まず、普通に出勤した。

 鞄には情報漏洩を防ぐため幻術や封印術式をかけた、新しい企画のアイディアやその他もろもろの重要書類が入っている。

 朝礼の後、いつも通りの書類整理をしていると上司がやってきて、クビを告げてきたのだ。

 理由を求めれば、問題事を起こす人間は要らないとのこと。

 クリスはなんのことかわからず、詳しい説明を求めた。 

 しかし、それを聞く暇もなく今度は警察がやってきた。

 何でも、クリスには性目的での婦女暴行ーーつまりはレイプ容疑がかけられていることを告げられた。

 これが解雇の理由であった。

 青天の霹靂である。

 まったく身に覚えがない。

 警察署に無理矢理連れていかれ、事情聴取と言う名の拷問が始まるかと思えば、罪を認めて国を出れば帳消しになるというツッコミどころ満載の提案をされた。


 「証拠不十分で普通は釈放だろ」


 呟いたところで記憶は止まらずに再生を続ける。

 どうしてそんなものが警察署に届いていたのか興味はあったものの、しかしあまり深く考えずに受け取ったのは、妻からの手紙だった。

 その内容は。


 ・犯罪者の妻になりたくないので離縁する。

 ・今後の生活資金もあるので、今回の件によって受けた心の傷への慰謝料として、家財一式全てもらっていく。


 というものだった。

 本当、埋蔵金を作っておいて正解だった。

 しかし用意周到すぎる。

 手際が良すぎる。

 もう一度、空を仰ぐ。

 快晴だ。

 泣きたくなってくるほどの快晴だ。


 妻とは見合い結婚だった。

 子供は何度か作ったが、生まれてくることはなかった。

 そして、仕事にかまけていたのもあるのだが、妻は他に男を作っていた。

 クリスは冷えきっていたとはいえ、妻のように他に恋人を作るという不誠実は働いていなかった。

 愛していたのかと聞かれればよくわからない。

 浮気というか、不倫というか、不誠実を働かれて怒りを覚えていないということはどうでもよくなっていたのだと思う。


 妻がクリスの表向きの財産を全てかっさらっていったのは、きっと遺産目当てだったのだろう。

 両親が孫が生まれた時にでも使ってくれと遺していた、莫大なコツコツ貯金。

 それを生前分与で、渡されていた。

 結婚前の話だったので、絶対に必要になるまで使わないと決め、これも埋蔵金口座とは別の、友人に勧められて利子とか当時条件の良かった外国の口座を作って、そこにいれていた。

 恐らく、今ごろ妻は給料と月々の引きおとしようの口座の残高をみて愕然としているに違いない。

 家財の方は正直そこまで値打ちのあるものはないし。

 異国の言葉で言うところの二束三文にしかならないだろう。


 それよりも、である。

 クリスは、自分に強姦されたという被害者を聞いて思わず笑いそうになった。

 やんごとなき血筋の令嬢だというのだ。 

 ではどこの令嬢なのかと聞いたところ、警察官は教えられないと言ってくる始末。


 怪しすぎる。本当に存在するのかそんな令嬢は。


 エア彼女ならぬエア令嬢とは。

 とりあえず、外国の口座があることはしばらく知られることはないだろうし、知られたところで、国家を挟むとなるとさらにめんどくさい手続きがまっている。

 国際指名手配されていれば、話は別だろうが。

 国の関所を抜けて、隣国の領へ入る頃にはすでに日は落ちていた。

 しばらく穏やかな街道を、光源魔法で照らして進んでいくと、宿が見えてきた。

 入れば、よくある一階が食堂兼酒場、二回が宿泊施設になっている宿だった。

 幸いというべきか、部屋は空いていた。

 両替もできるようで、助かった。

 宿の受付で手続きを済ませて持っている現金の一部を両替する。

 それから酒を頼んで、食事をして、部屋に入って待っていると、やがて空間が歪んで黒い甲冑姿の友人が現れた。


 「久しぶりだな、クリス」


 兜はしていなかったので、すぐに友人だとわかった。


 「あぁ、久しぶりだなダチ公」


 友人の名前は、リューリク・オライオン

 学生時代からの付き合いだ。

 昔は美男子と言われた美貌は、歳を重ねてさらに磨きがかかったようだ。

 見事な黒髪には、クリス同様白いものが混じっている。

 染め直しの時期なのだろう。この前飲み会をしたときは白髪はなかった。


 「学生の頃のヤンチャはしてないんじゃ無かったか?クリス?」


 「してなかったんだけどなぁ。今日は朝からツイてなかった」


 「いたいけな少女を襲ったのがバレて嫁さんに財産全部とられるとか、すごい経験だよな」


 「まぁ、表向きのお金だけだけど」


 「お前、昔からそういう所は小賢しいよな」


 「なにかしら先々の備えってのは大事だしな」


 「悪知恵が働くっていうんだよ。それにしても、国はよくお前を手放したよな」


 「うーん、たぶん。上層部にまで話はいってないな。

だからこそ、簡単に国外へ出られたわけだし」


 クリスの職場は魔法開発研究所というお役所直属の機関である。

 クリスはそこで事務職と研究員の二役をこなしていた。

 というのも、彼には魔法研究と技術開発について類まれなる才能の持ち主であった。

 上層部は彼のそんな才能を見込んで雇用していた。

 そして、ヘッドハントをおそれて彼を表向き事務員の立場にしていた。

 給料はそれなりにもらっていたので、クリスに不満はなかった。

 彼が今まで開発してきた魔道技術はこの半世紀で、庶民にまで浸透するまでに至った。

 その最たるものが魔法電話の開発だ。

 それまで魔道士にしか扱えなかった魔法を、魔力のない一般市民にも使えるようにした道具の開発だ。

 もちろん、彼だけの功績ではないが。それでも彼がいなかったら開発されなかった技術は多い。

 そして、その能力故に国の闇の部分にクリスは多かれ少なかれ触れていた。

 国家機密を握っている人間を外に出すバカはいない。 

 組織の上層部も、国の上層部もそれを知っているはずなのだ。

 それを知らない人間が今回のことを仕組んだのだろうと思われる。

 

 「んじゃあ、上層部からそのうち連絡くるだろ。わざわざ俺に助け求めなくても良かったんじゃ」


 「まぁ、そうなんだけどさ。いつ来るかわからない連絡をぼうっと待つのもあれだし。なんか仕事あったらリューに紹介してもらおうと思って。

ほら、俺動いてないとダメなタイプだし」


 「あぁ、なるほど。つってもなぁ、紹介できるのって冒険者用の採集依頼とあとは俺の山の管理かな」


 「山の管理?」


 「そ、俺の土地なんだけどさ最近色んな魔物が住み着きはじめてて。

それは別に良いんだけど、いや正確にはよくないんだけど。一番の問題はその魔物がけっこうレアなやつなんだよ。

そのレア魔物を狙って一部の冒険者が不法侵入してくるんだ。ボコるんだけど手が足りないし罠も全然間に合わないし。

二番目の問題は畑も作ってて、魔物が畑を荒らすんだ。この前なんて熊と竜が白菜とキャベツの美味しいやつ全部持っていきやがった。

 俺も勤め人だから一日中山と畑の監視するわけにもいかないしさ」


 「なるほど」


 「もうひとつ問題がある。正直、お前の今までの給料の基準でいくなら、かなり少なくなるんだ。仕事量のわりに薄給なのはどこの百姓でも同じだよ。まだ採集依頼の方が稼げるだろうつっても個人的な考えでいうならどっこいどっこいだと思うが」


 「ちなみに、山の管理の方はどれくらい出せるんだ給料?」


 「日給でこれくらいか」


 指をふってリューリクは紙とペンを出すと、金額を提示する。


 「たしかに少ないな」


 「色々管理費さっぴいて、残った金額で人件費を出すとなるとこれが限界なんだよ」


 「ん?

ということは、山の管理費を給料として丸々渡して、俺がぜんぶやれば問題なくね?」


 「いや、まぁそうなんだけどさ。お前帳簿とか」


 「つけれるよ。一応事務職してたしそっちの資格もとったし」


 「マジか。思ったより有能になったんだな。

でも全体で見れば、やっぱり薄給だろ?」


 「まぁそうだけど。山でのんびり仕事も良いかな、と。この歳になって思えてきたんだよ」


 「あぁ、流行りのスローライフってやつか。でもなぁ体力仕事だぞ。

 デスクワークだったやつにできるかどうか」


 「何事もやってみなくちゃわからないだろ」


 「そりゃそうだ。

 あ、じゃあ研修期間ってことで最初の三ヶ月は始めに提示した給料で、仕事ぶりで三ヶ月以降は管理費を全部渡して仕事して貰うってのはどうだ?

 国の上層部からの連絡がそれまでにくるだろうし、そうしたら研修期間だけで終わる可能性が高いだろ。

 衣食住は完全に補償するってのでどうだ?」


 衣食住の補償に、クリスは食いついた。


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