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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
田舎の日常は都会の非日常
15/36

 捜査局の悪魔。


 そんな悪名高い人物についてクリスは顔見知りだった。

 現在の状況で言うならもと職場になるが、その元職場で時々強制的に参加させられていた講習会。

 その講習会で壇上にあがり何度か見たことがある。

 あとは、捜査局の局長が外回りするときに連れまわしていた金髪の女顔の、局員。

 どこかの貴族のパーティーで、上司のお供をしていたクリスは会釈くらいしたかもしれない。

 だからクリスはその人物について顔だけは知っていた。

 その人物と、昔馴染みが知り合いだったことを知って驚いた。

 リューがジルと呼んだ長い金髪の麗人と顔を合わせたのは、幼女を保護した翌日のことだった。

 仕事のシフトの関係上、昼からの出勤だったリューはやってきたジルを簡単に紹介すると仕事に向かった。

 ちなににリューの家は小屋があるこの場所より少し離れている。


 お互い、簡単に自己紹介をして本題に入る。



***


 お兄ちゃんに抱き締められた。

 また、会えるから。

 絶対に、また会えるからと。

 私にと言うよりはお兄ちゃんは自分に言い聞かせていたんだと思う。

 お父さんやお母さんの顔は、正直よく覚えていない。

 覚えているのは、気づいたらとても大きな建物で暮らしていたこと。

 そこにはいろんな人たちが一緒に暮らしている場所で、見張りの人たちが何人もいた。

 ご飯が出て暖かい布団もあって、お兄ちゃんがいた。

 時々ある検査が嫌だった。

 お兄ちゃんとはずっと一緒だった。

 お兄ちゃんは何も話さなかったけれど、他の絵本で見るような動物の耳が生えたおじさんやおばさんが言っていた。

 教えてくれた。

 ここに住んでいる、見張り以外の人たちは全員お金で買われたらしい。

 そして、飼われているのだという。

 私たちは、アイガン動物なのだという。

 別の人たちは、金持ちたちのオモチャだと言っていた。

 意味はよくわからなかった。


 わかったのは、ここにいる人たちは私を含めて全員誰かのペットだと言うこと。

 順番に卒業していくと言うこと。

 卒業すると、外に出て鬼ごっこができるらしい。

 仲が良かった友達も、優しくしてくれたお姉さんもみんな卒業していった。

 卒業するとどこに行くんだろう?

 私はずっと不思議だった。

 それをお兄ちゃんに聞いてみると、お兄ちゃんは泣きそうな顔になった。

 泣きそうな顔で、教えてくれた。


 「天国にいくんだよ」


 そう、いつも以上に優しい声で教えてくれた。

 ある日、私の方が先に卒業して天国に行く日がやってきた。

 見張りの人とは別の人たちがきて、私に天国に行くための格好をさせた。

 冷たい鎖、首と手にも鉄の輪っか、綺麗な靴。

 連れ出される私にお兄ちゃんは抱きついた。

 私を連れて行こうとした人たちに、すぐ殴られ蹴られてしまう。

 そんなお兄ちゃんに。

 目の前の光景に。

 私は泣いてしまった。

 お兄ちゃんと、離れたくなかった。

 お兄ちゃんが、殴られるのを見たくなかった。

 お兄ちゃんは、私に言った。


 「絶対にまた会えるから」


 そう言った。

 無理矢理引き離されて、それでも叫ぶお兄ちゃんは見張りの人がきて棒で叩かれて静かになった。

 動いていなかった。

 私はお兄ちゃんに駆け寄ろうとしたけれど、迎えにきた人によって無理矢理その場所を出た。

 泣きながら外に出ると、他にも私と同じ飼われていた人たちがいた。

 外は木がたくさんあった。

 ひょっとしたら、この世界は木で埋めつくされているんじゃないかなって思うくらいたくさんの木に囲まれていた。

 そこで、私たちは鬼ごっこの説明を受けた。

 この木の中を走り回って逃げるように言われた。

 言われた通りに、私たちは逃げた。

 バラバラに、あちこちに逃げた。

 少しして、パンっという火薬が弾けたような音が聞こえてきた。

 なんだか怖くなって、私は薄暗いそこを滅茶苦茶に走ったと思う。


 パンっ、パンっと音が近づいてくる。

 一瞬腕に何かがかすって、次にはヒリヒリ痛くなった。

 でも、止まっちゃいけないと思った。

 止まったら何故かダメだと思った。

 そうしていると、なんとも言えない臭いの毛玉にぶつかった。

 毛玉は黒くて、大人の人よりも大きかった。

 のっそりと毛玉がこちらを向いてくる。

 私は思わずそれの視界に入らないように、横にあった藪の中に飛び込んだ。

 直後、またパンパンっと音がすぐ近くでした。

 こっそりと毛玉にぶつかったところを見ると、綺麗な服をきて細長い筒を持った知らない顔の人たちが巨大毛玉と鉢合わせしていた。

 筒を構えて毛玉に攻撃しているように見えるけど、そんなのは効いていないようだ。

 巨大毛玉はとても大きな声で叫んだあと、口から火を吐いた。

 筒を持っていた人たちが、あっという間に火に包まれる。

 怖くて歯がカチカチと鳴った。

 逃げなきゃ、逃げなきゃ!

 私は、また滅茶苦茶に木の中を走り回る。


 そして、気づいたらたくさんの毛玉達に囲まれていた。


 「あ、あ」


 たくさんの毛玉達が唸っている。

 火で焼かれるのは嫌だ。

 逃げようとしたら、毛玉の一つが飛びかかってきて、私は思わず目を瞑ってそのまま転んでしまう。

 すると、またあのパンっという音が近くで聞こえた。

 でも、もう怖くて目を開けたくなかった。

 そうしていると、私は大きくて温かい人におんぶされた。

 土と汗と、少し独特な臭いの人だった。

 少しだけ、何故だろう安心してしまう。

 お兄ちゃんの背中より大きくて、お兄ちゃんと同じくらいあたたかい。

 そのまま、目を瞑っていたらいつのまにか私は寝てしまったみたいで。


 いつものように目を覚ますと、白衣の優しそうなお兄さんとお姉さんが私の横で、私の顔を覗きこんでいた。


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