5
まるで女優と見紛うほど綺麗な顔立ちの、地面を引きずりそうなほど長い金髪を持つ、男性。
彼のファミリーネームを略してリューはジル、もしくはイルと呼んでいた。
イルはファーストネームの略だ。
だいたいはジル呼びが基本だが。
ジルは頬杖をついて窓の外から、式でリューに送られてきた内容を読もうとする。
不躾だとは思わない。
何故なら、彼がこうやって姿を現すのは意味があると知っているからだ。
「相変わらず、昔のままなんだなお前は」
ジルは人間族の魔法使いだ。
【最古の魔法使い】と呼称されるほど長い時を生きている。
外見は二十代半ばだが、旧世界より前、神話時代から生きている化け物爺である。
「そういう君だって、昔と変わらない、いいや昔よりもっと綺麗になったよ。羨ましいよ」
「世辞はいい。それより何の用だ?」
そこで、ジルは声を潜める。
「んー、君さ【殺戮兵器開発研究者】を匿ってるでしょ?」
「それが?」
ジルに隠し事は無意味であるし、これは問いかけではなく確認だ。
それを理解しているので、リューは普通に返す。
「どこまで話を聞いてるのかな?」
「冤罪で、国をよくわからないまま追い出されたことだけだ」
「なるほど」
「ジル、お前はあの国の指示で動いてるのか?」
「いいや。まぁ、君だから言うけど彼どさくさに紛れて下手すると世界を滅ぼしかねない魔術式の研究データ全部持ち出したみたいなんだよね~。
彼の場合それを売り飛ばすなんてことはないと思うけど、この情報が少しずつあちこちに流れ始めてる。
彼を手に入れようとする組織は多いよ。なにしろ大きな金を動かせる。
彼と彼の研究にはそれだけの価値がある。
戦争っていう市場を数百年ぶりくらいに開拓できる可能性があるからね」
「世界征服じゃなくて?」
リューの言葉を、ジルは鼻で嗤う。
「賢いやつらはそんな面倒くさいことしないよ。
まぁ現状できないだろうけど。
そもそも世界征服するよりも、世界を混乱させて武器を売ったりする方が建設的だからね。
部屋を片付けるよりも散らかす方が簡単だったりするだろ」
「で?」
「国としては国際的に禁止されてる禁忌系の魔法も彼にそうと知らせず研究させてたみたいだから、大々的に探すことはできない。
彼は、その事に気づいてたみたいだけど。
だからと言ってこそこそ探すのは無理。
で、捜査局に泣きついてきたってわけ。
でも彼を探す担当は僕じゃない」
「······」
「僕には僕の仕事が割り振られてる。
その仕事ってのが、見たところそのメッセージの内容に繋がるかな。
僕はたまたま、魔法にくわしい君の友人の手を借りるだけだ」
この男が持ち込む厄介事は、本当に厄介だ。
基本的に世界規模の厄介事が多い。
リューは手紙の形になったそれに、もう一度視線を落とす。
そこに書かれているのは、山で幼女を保護したこと。
ノエルが熊を殺処分したこと。
そして、幼女に関しては事件性があるということが書かれていた。
「それじゃあ、その手を借りたい仕事ってのはなんだ?
お前ほどの奴が、他人の手を借りるほどの厄介事ってのはいったい何なんだ?」
そもそも知識や知恵でジルに勝る存在など、彼の師匠くらいだろう。
世界規模の大変なことにクリスが駆り出されるのはわかってはいるが、他にもっと適任がいるはずだろう。
なのに、何故ジルはクリスを頼ろうとしているのか?
それが、わからなかった。
「僕はね。非人道的な研究は極力避けてきた。
それでも知識として知っている。
けど、それは知っているだけで実際に触れている存在よりは劣る知識なんだ。
そして、僕には敵が多い。だから中々協力者が見つからなくてね。
どうしようかと悩んでたら、君達のことを思い出した。
最初は意見だけを聞くつもりだったけど、その相手は国外で行方不明中で、でも僕の知り合いのところにいるかもしれないと思った。それでドンピシャだったってわけ」
クリスが関わっていたのはそういうことだ。
それは彼が選んだ道だ。リューには何も言えない。
どんなに後ろ指を指される仕事だったとしても、それで家族を守っていたのだ。
恐らくクリスを非難出来るのは、その研究でこれからでるだろう被害者達だけだ。
出来ることなら、被害者が出ないことを願うしかないが。
「蛇の道は蛇ってやつだよ」
やはり、ニコニコと笑顔は崩さずにジルはそう言った。
貨幣とか、設定考えるのがめんどかったのでとりあえず出てくる価値は銅貨一枚=百円、銀貨一枚=千円、金貨一枚=一万円ってなってます。




