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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
田舎の日常は都会の非日常
13/36


 捜査局。

 警察組織とは別の魔法関連の犯罪を取り締まる組織だ。

 前身は個人経営の探偵事務所だときいたことがある。

 それが中央大陸に存在する国々が認める巨大組織となるのだから、人生と歴史は何が起きるのかわからない。

 二十年前のテロ事件もこの組織が水際で食い止めた。

 警察の事情聴取は、正直、国のことが頭にちらついてあまり気分は良くなかった。

 クリスへの追求は当たり前だが、無かった。

 山に入って熊に襲われる、普通の熊か混血ハイブリッドかの違いはあるが、それはここではよくある事だからかクリスへの聴取はほとんど形式的なものだったのだ。

 少し身構えていたので、肩透かしをくらった気分である。


 「いやぁ、リューさんの小屋んとこから連絡あったときは驚いたが」


 そう言ったのは、リューを含め、ノエルやファルとも熊関連のトラブルでよく顔を合わせている警察官だった。

 彼は人の良さそうな笑顔を浮かべて、現場検証を終えると話しかけてきた。

 なにしろ、同じ場所で二度の襲撃があったと思われたのだ。

 クリスが通報したとき、凶悪事件が発生したときのような緊張が警察署に走ったのだと、冗談目かして教えてくれた。

 きっと、そう間を置かず熊に襲われたクリスに気を使ったのだろう。


 「ほんと、死人がでなくてよかったて」


 「本当にそう思います」


 「でも、これからしばらくは出来れば山に入らん方が良いが」


 「やっぱりそうですよね」


 クリスが狩猟免許を持っていれば話は別だろうが、そうではないのでこの指示というか注意には従った方が良いだろう。


 「どうしても入るときは、冒険者に護衛依頼を出すことも出来るが、あんまおすすめはしねーて」


 そりゃそうだろうと、クリスは妙に納得してしまった。

 この数日生活して、他者と交流してみてわかったことがある。

 リューの説明があったというのもあるが、この集落や近隣の部落では冒険者に対する心象は良くない。

 ど底辺と言っても過言ではない。

 依頼の受注が少ないというより、不法侵入者達の存在が大きいだろう。

 

 山に不法侵入して依頼を受注したわけではなく、自己中な理由でレア魔物を狩り、私有地を荒らし回る上罪悪感がない。

 プラスして、他の畑では、獣や魔物に混じって農作物を盗む者もいるのだという。

 クリスが任されている畑には、今のところ畑泥棒は獣と魔物以外出ていないが、他の集落では度々そうしたヒトからの被害を受けているらしい。

 いっしょくたにされたくはないが、余所者のクリスもそういう目で見られているのは否めない。


 「あ、そういや、こん前また賽銭泥棒が出たが」


 注意喚起もかねているのだろう。

 まだ若い警察官は、世間話の体で最近流行っているらしい無人の神社の賽銭泥棒と空き巣の話をしてくれた。


 「罰当たりがいるものですね」


 「ここらは、ウカノ様達が目を光らせてるが、もし罰当たりが出たらその手がもげるっけ」


 ウカノ様と言うのは、少し有名な神殿ーー神社に奉られている二柱の神、その一柱の名だ。もう一柱はダキニという。

 どちらも女神で、五穀豊穣と商売繁盛を司る神である。

 罰当たりの手がもげるというのもあながち間違いではない。

 ここの神は旧世界から存在する、少なくとも【本物】であるからだ。

 この中央大陸において、旧世界の神々をそうとは知らず祀っている場所をもうひとつ知っている。

 約束の島と呼ばれるロミプス島がそれだ。

 縁結びの島ともよばれ、結婚式を挙げる者達が多い島である。

 クリスもそこで式を挙げたのだ。

 こんな事になったが少なくともご利益はあったと思う。

 出なければ、とっくの昔に妻との縁は切れていたと思う。


 「頼もしい神様がいて安心です。

 今度おこわをお供えしないと」


 「それよりも、あぶらげの方が神様は好きらがーて」


 「では、こんどそれをお供えに行こうと思います」


 神の特徴だからか、この辺には犬や狼の魔物は存在しない。

 クリスが警察官と話している横ではノエルが猟友会の者と話していたが、それも一区切りついて、その場は解散となった。

 熊襲撃からまだ二日だが、クリスのこういう信心深いところが少しずつ近隣住民に伝わり、本当に少しずつだが受け入れられつつもあるのだ。

 そうで無ければ、キリカが古着をわざわざ取りに行くことはなく、話を聞きにきただけで終わっていたはずだ。

 警察は、また後日話を聞きにくるらしい。

 小屋に戻ってくると同時に、ノエルの腹が鳴った。

 クリスも空腹を感じたので、待っていたファルと共に遅めの昼食となったのだった。



***


 リューが住む異国の町は国境に程近い。

 道路の設備等を管理している会社にリューは勤めていた。

 例えば交通事故等が起きたあと、壊れたり破損したりした箇所を直したりするのである。

 あとは、周辺にポイ捨てされるゴミの後始末だったり、それこそ旅人用の寝泊まりだけができる小屋の掃除などが職務内容である。

 この仕事、実はそれなりに危険が伴う。

 全員が全員というわけではないが、職務内容上どうしても血気盛んな冒険者を相手にすることが多い。

 正直、交通事故よりも冒険者同士のいざこざで壊れる道路や設備が多いのだ。

 警察がくるまでの間、喧嘩の仲裁に入ることもしばしばである。

 そうでもしないと、本来の仕事が進まないからだ。

 冒険者を相手にすることになるので、怪我をしないよう従業員には会社から制服と一緒に作業着代わりの甲冑が貸与される。


 「クリスの式か」


 道路脇に設置された簡易休憩所で休憩していると、友人の式が窓にへばり付いていた。

 窓を開けて式に触れると、友人からのメッセージに変わる。


 「おー、式なんてまだ使ってる子いるんだー」


 弾んだ声が掛けられる。

 見れば窓の外に腐れ縁の、長髪金髪男がニコニコ顔で、リューを見ていた。



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