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4 そうだ、女装しよう

”最強の雷神トールの武器・雷槌ミョルニルが盗まれる!”


 この噂は瞬く間にアスガルド中に知れ渡りました。

 アスガルドの神々もこれは一大事とばかりに、神族一同を呼び集め、緊急会議を開く事になりました。


「そんな……ミョルニルのないトールなんて、ただの大飯喰らいのヒゲ親父じゃないか!」

「今までずっと、アスガルドの防衛はトールに任せっきりにできてたのになー」

「そうなるともう、これから戦が起きた時には主神オーディン様のグングニルを毎回使うしかないな!」

「えー、嫌じゃよ面倒臭い! 他人同士争わせるのは大好きじゃが、自分で戦うのはなぁ……働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!」


 会議は紛糾し、良い考えが浮かぶどころかロクでもない会話しか聞こえてきません。

 トールとロキも、このままではまずい、と思った矢先の事。


「あ~ら遅れちゃったわァ。ごめんあそばせオホホホホ」


 会議場の入り口から、ナヨナヨとした野太い声と共に、七色の虹を纏った派手な男神が姿を見せました。

 彼の名はヘイムダル。神の国と人間および巨人族の国を繋ぐ虹の橋(ビフロスト)の番人です。


「ヘイムダルか……よく来てくれた」オーディンが言いました。


「いや~何しろねェ、虹の橋からアスガルドまで来るの、それなりに距離あるし大変なのよォ!

 ちょうどアタシのお姉さん達の相手もさせられてたし、話を切り上げるのにも時間食っちゃってさァ」


「そうか……ではヘイムダル。何故ここに皆を集めたかというとな――」

「大丈夫! 話はちゃーんと聞かせて貰ったわ。

 トールちゃんの武器・ミョルニルが盗まれちゃって大変!

 盗んだ犯人の巨人・スリュムの要求は、美の女神フレイヤを嫁に差し出す事……でしょう?」


 今しがたやってきたばかりのヘイムダルが、これまでの経緯を正確に把握していたので、アスガルドの神々から驚きの声が上がりました。


「すげェなヘイムダル! まるで見てきたかのように……!」トールは感心しました。


「アタシを誰だと思ってるの? 虹の番人ヘイムダルよ?

 アタシの目と耳は、夜中でも百マイル(註:約160km)先のモノまで見通せるし、聞き取れるのよ!」


 ヘイムダルは得意げに鼻を鳴らしました。


「んでもってね、ここに来るまでの間に……ミョルニルを返して貰うためのナイスアイディアも、思いついちゃったわ」

「ほ、本当かヘイムダル! 是非とも聞かせてくれ……!」


 半ば絶望しかけていたトールは、一縷の望みを抱いてヘイムダルの考えをせがみました。

 しかし、ヘイムダルは……トールをまじまじと、頭のてっぺんから足の爪先にかけて、値踏みするように見て回りました。


 そして彼は「……ま、何とかなるでしょ」と呟きます。そして満面の笑顔です。

 そんなヘイムダルの様子を見て、ロキは何だか嫌な予感がしました。


「トールちゃん……アナタ、女装なさいな。

 んで、フレイヤの代わりに花嫁のフリをして、巨人スリュムの下に行くのよ」

「……………………へ?」


 虹の番人ヘイムダルの、とんでもない提案に。

 その場にいた神々から再び、驚きの声が上がったのは言うまでもありません。


「え……ちょ……な、何で俺が女装!?

 しかも嫁になれってどういう事だァ!?」


 恥ずかしい作戦の矢面に立たされる予定のトール、当然ながら抗議の声を上げます。


「フレイヤの協力が得られない以上、ミョルニルを返してもらうには、フレイヤ以外の嫁が必要よ。

 でもさァ、考えてもご覧なさい。首尾よく返してもらったとしても……アレを持ち運んで懐にしまえるの、トール。アナタぐらいでしょう?」

「んぐッ……た、確かに……!」


「他の女神や、非力な男神じゃあ到底、偽の花嫁役は務まらないわ。

 てな訳でトール! アナタの出番よ! 女装メーキャップはアタシに任せて!

 第一、自分の招いた不始末なんだから……自分で落とし前をつけるのがスジってもんでしょ」


 ここぞとばかりに押しの強いヘイムダルの提案に、トールは勢いで押され頷いてしまいました。

 絶望感で顔が真っ青なトールとは対照的に、面白くなりそうと思ったロキはニヤニヤしています。


 かくして、ヘイムダル主導によるトールの花嫁修業(笑)が始まってしまうのです。

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