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3 ビッチな女神フレイヤさん

 ヨーツンヘイムから戻ってきたロキの話を聞き、トールは青ざめました。


「犯人は巨人族のスリュムか。んでミョルニルを返して欲しくば、フレイヤを嫁にって……一応アイツ、旦那いるだろ。オーズの奴が。

 浮気性のフレイヤとは、しょっちゅう喧嘩ばっかしてるけどな」


 フレイヤは美と愛を司る女神で、それはそれは美しい女性でした。

 しかし貞操観念のカケラもなく、性に奔放で、夫と子がありながら、主神オーディンや兄である豊穣神フレイとも肉体関係があったと言われています。


「まあとにかく、フレイヤの下へ向かおう。

 借りた羽衣も返さなきゃならんし……」


 そんな訳でトールとロキは、女神フレイヤの家を訪れ、巨人スリュムの嫁になってくれ、と頼み込む事にしました。

 しかしフレイヤはカンカンに怒って言いました。


「巨人の嫁なんてお断りよ!

 もしそんな事になったらあたし、淫乱女だと思われちゃうじゃない!」


「えっ」

「えっ」

『…………』


 このフレイヤの返答に、トールもロキも真顔になって衝撃を受けました。


『それはひょっとしてギャグで言っているのか!?』


**********


「おいフレイヤ。言うに事欠いて断る文句がソレかよ!?」

 さすがのロキもこの言い草が納得できないのか、不満げに言い返します。

「お前この間、小人どもが作っていた美しい首飾り欲しさに、アイツらの『オレたち全員と寝たらくれてやるよ』って言い分飲んでただろう!?

 お宝目当てで小人全員と一夜を共にするような女神サマは、淫乱だと思われないのかぁ。知らなかったなァ!?」


「バ、馬鹿やめろロキ! 今よりによってその話をここで持ち出すか!?」


 フレイヤの顔が見る見る真っ赤になり、癇癪(かんしゃく)を起こす寸前となったのを見て、トールは二人を止めようとしました。

 しかしフレイヤもロキも一歩も退きません。


「なんですってェ!? 首飾りで思い出したわ! ロキ、よくもアンタ、あの時の事をオーディン様に告げ口したわね!?

 アンタのせいで、苦労して手に入れた首飾りは盗まれるわ、地上の王に干渉して永遠に戦争(ドンパチ)させる羽目になるわ、大変だったんだから!!」

「ハン! 徹頭徹尾何から何まで自業自得ってヤツじゃあねえかよ!」


「あーそっかぁ。ロキって女どころか男でもオッケーだし、巨人族だから巨人の悪口言われるのが気に食わないんだぁ?

 女の巨人と寝たり、わざわざ雌馬に変身して八脚軍馬(スレイプニル)孕んだり……アンタだって(ひと)の事言えた義理じゃないじゃないのよ!」

「それの何が悪いってんだこの売女(ばいた)がァ!? 絶対に許さんぞ、絶対にだッ!!」


 売り言葉に買い言葉。壮絶な罵詈雑言がフレイヤの家の中に飛び交いました。

 結局その日は喧嘩別れ。巨人の嫁を頼むどころか、罵り合うだけで一日が過ぎました。


 翌日、再びトールとロキがフレイヤの家を訪れると、中には誰もいません。

 見つかったのは二通の手紙だけです。


 一通目は、フレイヤの夫オーズのものでした。


『妻の度重なる浮気にもう耐えられません。僕って一体何のためにいるんだろう……旅に出ます。探さないで下さい』


 二通目はフレイヤがしたためた、家を留守にするお知らせでした。


『夫が家を出ていってしまったわ……なんと悲しい事でしょう!

 これまでの非礼を全部詫びるため、夫を探しに行きます。必ず連れ戻すわ!』


 どちらの手紙にも、文字のインクが涙でにじんだ跡がありました。


 性に奔放な女神フレイヤでしたが、そんな彼女でも夫オーズの事は真剣に愛していたのです。

 トールもロキも、彼女がスリュムの嫁になるのを拒んだ理由をなんとなく、分かった気がしました。


「……もう、フレイヤに協力は頼めないな……」

「……ああ、そうだな……」


 トールとロキは仕方なく、ミョルニルが盗まれた事件を、アスガルドの神々に報告しに行く決意を固めました。

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