1 ミョルニルが盗まれた!
北欧神話でも有名な、トールの女装ネタです。
ここは神々の住まう地、アスガルドです。
ある日、神々の中でも最強の雷神・トールが血相を変えて、巨人ロキの下に怒鳴り込んできました。
「大変だロキ! 俺のミョルニルが盗まれたッ!」
ロキは巨人族ですが、何故かアスガルドに住んでいます。
アスガルドの主神オーディンと義兄弟の契りを結んだ事もあり、目端の利く知恵者です。
「トールのミョルニルが……盗まれた? ハハッ。ナイスジョーク」
「ジョークじゃねえよ! どうせ盗んだのお前だろロキ!?」
「オイオイ、その難癖つける為にボクの所に来たってのかい。残念ながら濡れ衣だ」
「何だとォ……アスガルドで厄介ごとが起きたら、大体ロキのせいだろ! 常識的に考えて……」
トールの言い分は決して的外れとは言えません。
いたずら好きのロキは、これまでも何かしらトラブルの種を振り撒いてきたからです。
「主神オーディンに誓って、盗んだのはボクじゃないよ。
第一さあ、ミョルニルってアレだろ? 使わない時はお前の懐に小さくしまわれてるハズだろう?
どっかに落っことしちまった、とかじゃあないのかい?」
ロキの問いかけに、トールは怒って答えました。
「懐から取り出したミョルニルは元の大きさに戻って、真っ赤に燃えはじめるんだ。だからうっかり落としても見失う事はない。にも関わらず!
俺の懐にはなかったし、辺りにミョルニルの影も形も見当たらなかった!」
ミョルニルはとてつもなく強い万能チートな金槌です。
投げたら必ず敵に命中し、しかも手元に戻ってきます。
ミョルニルのパワーは凄まじく、例え巨人族が相手でも一撃で命を奪います。「必殺と書いて必ず殺すハンマー」という奴です。
ですがミョルニルは真っ赤に焼けている上、とんでもない重さがありました。
その為雷神トールといえど、熱に耐える鉄の手袋と、力を2倍にするベルトを使用して、ようやくミョルニルを扱えるのです。
「お前が寝ている間に、あのミョルニルを盗むなんて……
盗むどころか、持ち運ぶのも一苦労だろうに。
いったい盗まれたのはいつだ? トール」
「今朝起きたらなかったんだよ。昨日の晩まではあった!」
「じゃあ、昨日の晩に何があった? 心当たりはないか?」
「そういや昨日、巨人族の奴らが俺の所に来て、酒と肉を差し入れにやってきて盛大に酒盛りをしたな。
いやー楽しかった! 樽ごと酒を一気飲みしてな! 浴びるように飲みまくったぜ!」
「……どう考えてもその、酒盛りに誘ってきた巨人連中の仕業だろう……」
「なん……だと……?」
トールは乱暴者で脳筋の神様です。よもや酒盛りがミョルニルを盗むために仕組まれたものだとは、思いもよらなかったのでしょう。
不思議そうにショックを受けるトールを見て、ロキは頭を抱えましたが。
困り果てている彼を見捨てる事もできず、ロキはミョルニルを盗んだ犯人探しに出かける事にしました。