香織:第四話 師匠って何者!?
電車の中で、香織はネタを練っています。
今、私は電車の中にいて、小説仙人とのやり取りを終えて、早速小説を書こうとしているところだ。
えっと……何書くんだっけ? う〜ん……、あ、そうそう、思い出した!!
テーマは、行きはよいよい帰りは恐いで、思わず裏社会に手を出してしまった主人公が、その世界から足を洗おうとするけど出られないっていう話よね。
『やぁ、こんにちは。僕は今日からあなたのナレーターをします!! 名前は……考えてね♪』
えっと……主人公の名前はう〜ん、……私の名前からとって薫でいいか! 最初に考える主人公の名前だもんね。
『あの……聞いてる? というか、読んでる?』
やっぱりシリアスなんだから、すっごく緊迫させたいなぁ……。どんな場面だったら緊迫するだろう?
『お〜い! 気づいて!! 僕の存在に気づいてくださ〜い!!』
えっと、裏社会は……
『ム、こうなったら、――香織が小説のネタを考えていると、突然、指につけていた指輪の赤い石の部分が光だして、香織の指をしめちゃった。』
う〜ん……よし! 主人公の突っ込んだ世――い、いててててててっ
何これ!? 突然指が締め付けられるように、いや締め付けられてる! 痛い痛いいった〜い!! 折角人が頑張って考えてるってのに、なんで指輪が締め付けてくるの!?
「いったーーーーーい!!!! ちょっと何、この指輪!? なんで光ってんの!? ってか、え!? なんで何も打ってないはずなのに、画面に文章が書かれてるの!?」
あ、思わず大声出しちゃった! ていうか、なんでこんなに勝手に文章が!?
パソコンの画面には、まだ何も打ってないのに文章が書かれている。どういうことなの?
それに、何か視線を感じるような……。周りをキョロキョロ見回してみると……こわっ 今の大声のせいで、周りの人が白い目でこっちを見てくるんだけど!? どうしよう!? 取り合えず誤魔化せないかな。
『よかったー! やっと気づいてくれたんだね。』
「あ、アハハハハ、いや、ちょっと違うんですよ、指輪がちょっとね? きつかったんです。いやいや、決して変人じゃないですよ! 誓って大丈夫です!!」
『うぅ……見てくれない。でも、ナレーションしなきゃ――香織は、突然叫びだしたせいで周りの人に白い目でみられているよ。だから必死で弁解している。でも、多分周りの人の目は変わらないだろうねぇ。だって、今の香織の奇声のおかげで、赤ちゃんが3人くらい泣き出したんだもん。赤ちゃんのお母さん達、すっごく怒ってるね。なんか恐いよ。』
お、おばさん達の視線が怖い!! 全然赦してくれる気配もないし……、どうしよう?
「ちょっと、アンタのせいでうちの子が泣いちゃったじゃないの!」
「すいません! ほんっと赤ちゃん泣かせてすいませんでした!!!」
怖い、すごい剣幕だわ……、本当に逃げ出したいくらいよ。もう、どうしろって言うのよ!?
『――頑張って謝っているけど、すっごい顔で睨まれてるよ……。あ、香織も諦めたみたい。アハハハ、なんかすっごいビックリしながらこっち見てるよ♪ あ、こっちってパソコンの画面のことだよ。』
え!? なんでなんで!? どうしてパソコンに、勝手に文字が浮かぶの!? しかも、なんで今の私を実況してるの!?
『なんか色々気になるみたいだね。お話してあげようか?』
え!? なんで考えてることがわかるの!? プライバシーも何もないじゃない!
『エヘへへ、だって僕、ナレーションだもん!』
えぇ!? ナレーションってあの小説の!? 有りえないわよ!
『有りえないことなんてないよ。僕はナレーションだよ。改めましてこんにちは。僕は今日からあなたのナレーション、名前はないから付けてくれると嬉しいな♪』
え? な、なななななな、なんで? なんで現実にナレーションがいるのよ!? もう何もわからないわ!
『アハハハハハ、それは訊かない約束だよ〜♪ でも、説明しなきゃいけないこともあるよね? じゃぁ、説明するから読んでね〜♪』
な、なんかマイペース?なナレーションね。
『えっと、まずは香織の考えがわかる理由〜♪』
何よそのテンション!? なんかバラエティ番組のお題発表みたいじゃない!
『そんなこと気にしなくていいよ〜。それより、答えはその指輪だよ〜、源蔵に貰ったヤツ、赤い石がはめ込まれてるヤツだよ。』
え!? これ!? なんで!? それになんでアンタが私と師匠のなま――、ナレーションだもんね。訊くまでもないか。
『あれ!? 質問する前に納得しちゃったの!? いや、まぁ確かに僕はナレーションだけど、神様じゃないんだからなんでもわかるわけじゃないよ!』
じゃぁ、なんで名前を知ってるの? 辻褄が合わないじゃない。
『エヘへへ、だって、さっき小説仙人に名前教えてたでしょ♪』
え!? それで知ったの? じゃぁ小説仙人の正体は、あなたなの!?
『違うよ、小説仙人は小説仙人、僕は僕だよ! あのね〜、これ言ったら驚くかもしれないけど、このパソコンもその指輪の赤いところも、源蔵が作ったんだよ♪』
え、師匠が!? ……って、騙されるとでも思ったの?
騙されるわけがないじゃない。なんか嘘を見抜けたようで嬉しい♪ 多分今の私は不敵にニヤッと笑ってるわよ。
『え? 信じてくれないの? まぁ、無理もないかぁ。あの源蔵だしね! でも、本当に源蔵が作ったんだよ!』
嘘よ、騙されないから諦めなさい! 大体無理がありすぎるのよ。だって、あんなにハイテンションで、ハゲで……、
『アハハハハ、でも、頭はよかったでしょ♪ だって、科学者だし♪』
科学者ですって!? 嘘だ!! 絶対嘘だ、ありえない!! 確かにいろんなことを知ってたけど、科学者なんて、そんな知的なの、師匠に似合わないわ!! 馬鹿なんだもん!
『う〜ん……、ホントなんだけどなぁ。あっ、じゃぁ、これ言ったら信じるかもしれないね♪ この、「小説仙人に、不可能はない!!」も源蔵が作ったんだよ!』
え!? この、ソフトも?
『うん! この仙人のキャラ、覚えなぁい?』
うーん……確かに師匠に似てるのよね。
あれは、私が弟子になって一週間たったころ……
――――丘――――
『し、師匠、なんでこんなとこに連れてきたんですか?』
私は、師匠に2山向こうの丘に連れてこられていて、しんどかった。地面は獣も通ってないような、草がぼうぼうで道が全くない道ばっかり歩いて、しかもお茶は1時間ほど前に飲み干してしまったし、嫌だったわぁ。
『フッ、わしの弟子なら、これくらいの体力がないといかんのぅ。』
余裕そうにムカつく笑みを浮かべながら言う師匠に、マジこのジジイどんな体力してんの!? とか思ってたんだっけ。思い出すだけでも、なんか負けた感じがして悔しい。
『私は小説家になりたいんです! 体力なんていりません!!』
『じゃぁ訊くが、もしお前がジャングルの話を書きたいと思ったとき、どうするんじゃ?』
『どうするって……書きたいなら書きますよ!』
『じゃのうて、実際のジャングルに取材に行くじゃろう?』
『ム……別に、本とかでも調べられます!!』
『それではリアルな話は書けんのう。やはり、自分の目で見ることが一番じゃ! 百聞は一見にしかず、じゃ。』
はぁ、時々まともなことを言うのよねぇ。 それからちょっとして、師匠は私に尋ねてきた。
『香織、これの言葉はなんじゃ?』
師匠は、丘にある岩の近くに咲いている薔薇を指して、訊いてきた。
『……薔薇でしょ?』
『おう、これの言葉は「薔薇」じゃって、それは名詞じゃろうが! 言葉はなんじゃ?と訊いておるのじゃ、言葉!』
『それならそうと言ってくれないと困ります……』
なんだか常に主語が足りないのよ。よく会話にも食い違いがいっぱいあったしね。
『いいから答えぃ!』
気合を込めてイキイキ言ってくる師匠。正直面倒くさかったけど、自分なりに頑張って考えて答えたの。
『う〜ん……言葉? ……バラバラ?』
『バラバラ? ……はて、これはなんとツッコンでいいのやら……うむ。』
突然師匠が悩みだして、可笑しかったなぁ……。
『バラバラ? うむ、確かにこの花びらはバラバラに離れておる。よくわかったな、とでも言うと思ったかぁぁぁぁぁああ!!!』
このツッコミ、確かに小説仙人ね。
『え? バラを使って言葉を作れっていう意味じゃなかったんですか?』
『違うわぁぁあ!! 花言葉じゃ、は・な・こ・と・ば!!』
『そんなの、言ってくれないとわかりません!!!』
『いいから答えい!!』
『……情熱の愛? でしたっけ?』
『さぁ、知らん。』
ケロっと言う師匠を見た時、あのときは殺意が初めて沸いた瞬間だったわ。
確かに、この小説仙人と似てるわね。変なところでツッコムとことか、説明不足なとことか……。
『納得した?』
う〜ん……まぁ、小説仙人のことは納得かな?
『よかったぁ。でも、指輪もホントだし、パソコンもホントだよ!』
それはいくらなんでも信じらんないわ。
『じゃぁ、僕のキャラは覚えなぁい?』
アンタのキャラクター?
……あ、このおっとりした話し方、似てる。師匠がおねだりするときにそっくりよ。
『せいかーい♪ エヘへへ、僕ね、源蔵の中のナレーションの1人だったんだ!』
へ?
『言ってみれば、脳内キャラクター? でね、おねだりするときは僕のキャラが一番あっていたから、おねだりは僕の仕事だったんだ♪』
へ? 師匠の脳内キャラクター? 確かに、このキャラには覚えあるけど……。
『その指輪の赤い石にはねぇ、僕の性格がインプットされてるんだよ。その指輪の人がパソコンを開いたとき、僕は源蔵の中から消えて、指輪の持ち主のナレーションになるようになってるんだ♪ 指輪を通して、考えてることもわかるんだよ♪』
え? どうゆうこと!?
『だからぁ、僕は今日から香織のナレーションをやるってこと♪』
え? 意味がわからない、なんで師匠はわざわざそんな風に仕向けたの?
『ん〜、知っても怒らない?』
断定はできないけど、努力する!
『う〜ん、怒らないでね♪ 源蔵の中にはぁ、あと、え〜っと……6、7人くらい脳内キャラクターがいるんだよ。それで、源蔵はお年寄りでしょ? だからキャラが多くて疲れたらしいんだ。そして困っているときに、香織が弟子入り志願したから、調度いいなと思って、弟子にしたんだ♪』
な、何が調度いいの!?
なんだかとんでもなく嫌な予感がする。
『え〜? だからぁ、脳内キャラクターを押し付けるのに調度いいな〜って♪』
あっんのクソジジイがぁぁぁぁぁあああ!!!!! 3ヶ月間ロクにナレーションとか教えてくれない、と思ったら、利用しようとしてたのね!?
ホンットウにあのジジイはいらんことしいなんだから!!
次に、怒りの矛先はナレーションとやらに向かう。
それに、アンタ、押し付ける? 押し付けるですって!? 自分で言ってて悲しくないの!?
『え〜? だって、僕も一応源蔵の一部だしぃ。』
あぁ、図太い性格なのね?
『というか、能天気で楽観的なの!! それに、源蔵の一部ってのは結構疲れるよ?』
自分のキャラにまで嫌がられるなんて……、なんか師匠が可哀想になってきた……。
『とまぁ、そういうわけで僕は今日から香織のナレーションだからね♪』
……うん嫌!! ……って言ったって、どうせ無理なんでしょ?
『勿論だよ♪』
はぁ……、私に選択権はないのね……。
『でもいいじゃん! だって、住むところも用意してあるし、お金も援助してもらえるし、ね?』
まぁ、ねぇ……。あ! そういえば、なんで師匠はアンタを押し付けたかっただけなのに、3ヶ月も修行期間があったの? しかも、あんまりなにも教えてもらってないし……。
『え? それはねぇ、香織が弟子入りしてから指輪を作り始めたからだよ!! 指輪ができるまでかかったのが3ヶ月なの♪』
あぁ、微妙に辛かった3ヶ月間が、なんかむなしいわ……。
『――そう思って香織は少し、落ち込むのでしたー!』
やけにテンションの高いコイツもちょっとイラつくわ。
読んでくださって有り難うございます!
あの、話の意味、わかりますか? うまく説明できてるか、不安です(汗) もしわからなかったら訊いてください!