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「お前、よく村を抜け出しているようだが、何処に言っているんだ?お花畑捜しか?」

 彼は茶化すように言ってくる。

 最近、村を抜け出して、黒髪黒眼の少年の下に通っていた。村人達にはばれないようにはしていたが、彼女の兄である彼にだけは気付いているようだった。

「外の友達に逢いに行っているんです」

 彼には嘘を言っても、しつこく訊かれると思うので、正直に言う。流石に、黒髪黒眼であることと、精霊であることは隠す。

「へえ。外の友達ねえ。外の友達とやらは四大元素の因子達によっぽど好かれているんだな?」

 と、彼は疑わしそうに俺を見る。確か、彼は魔力を視ることのできる瞳を持っていたんだったか。おそらく、数時間前より、俺の身体に因子達がたくさん付いていたのだろう。俺も好かれやすい体質だが、あいつはそれ以上だ。何せ、あいつは精霊さんだ。本人は気付いていないようだが。

「まあ、おかしな奴ですから」

 おかしな奴だ。一度、あいつの里に伝わる剣術を見せてもらったが、かなりのものだった。本人曰く、練習だけで、人を相手にしたことがないそうだ。幼い頃から、身体が弱く、家の外に出たことがないらしい。剣術を操る一族の出身なのだから、基本的、身体は丈夫に作られているはずだ。とは言え、精霊様が入れるようには設計されていないと思うが。

「おかしな奴ね。一度会ってみたいな」

 お前が変と言うのだから、よほど変なのだろう?と、彼は言う。とは言え、彼を村の外に連れて行くことなどできないし、あいつを村に連れてくることなど出来るはずがない。

「会うことができましたら、紹介します」

 今はそれしか言えない。おそらく、あいつは彼、そして、彼女には関わりのない人物だから。

「その時、お願いするかな」

 彼の言葉を聞いて、俺は礼をして、出ていこうとすると、

「お前って、やっぱり不器用だよな」

 そんな呟きが聴こえて来たような気がした。


 聖女ソフィアと共に執務室に戻ると、精霊達が姿を現す。属性別に、作り上げた、いわゆる人工精霊だ。彼には、偽物と言われそうだが、本物よりは精霊らしい。俺のお気に入り達で、家族みたいなものだ。あの男に出会い、村で管理されていた書を解読して、自分なりに組み立てて作った。

 話すこともできないし、温もりを感じることができない。それでも、やはり、俺の家族だ。彼らがいてくれたからこそ、俺は寂しさを紛らわすことができた。彼らには感謝してもしきれない。

「精霊一同が集まっちゃって、国でも滅ぼしに行くの?」

 アルが姿を現す。その後ろにはシロがいる。こいつは可愛い男の子が大好きなちょっとおかしな性癖を持っている。別に、俺がそう言う風に作ろうとしたわけではないが、作る際に、少し失敗してしまったようである。だが、本人は気にしていないようなので、そのままにしている。

「ベッドの上で休んでいろと言っただろう?それとも、眠くなったのか?」

 アルは普通に眠ることができない。アルが眠ることは、同時に、死を意味する。その為、特殊な魔法を施している。

「いいや。まだ大丈夫。黒犬と聖焔セラフィムの戦いの引き金を作った者としては、最後まで見届ける義務があると思って」

 こいつが黒犬に余計なことを吹き込まなければ、ここには来なかっただろう。だが、あの子の為、それが必要だから、そうしたのも分かる。アルはアルなりに考えてやっていることなのだから、文句は言わない。彼が見届けたいと言うなら、そうするといい。

「好きにすればいい。ただし、身体がおかしくなったら、ちゃんと言うんだぞ?」

 黒犬との闘いよりも、アルの命の方が大切だ。

「分かっているよ。前のように無理はしないから、安心して」

 アルはニコニコと言ってくる。アルはそう言ってくるが、あまり信用できない。無茶をしないと言う約束で、黒犬の所に連れて行ったのに、約束を破って、無茶をした。流石に、俺の目の前で、無茶な真似はしないと信じたい。されたら、正直困る。

聖女ソフィア、訓練場の方を解放してくれ。僧兵や執行者達を入れても構わない」

 俺がそう言うと、彼女は怪訝そうに言う。執行者はとにかく、僧兵まで開放するのが分からないらしい。彼らに改めて、俺の実力を焼きつけて貰った方がいい。もういい歳したおっさんだと舐められるのはいいものではない。格の違いを見せつけるのもいいだろう。

 それに、おそらく、あの男もこの戦いを見に来るだろう。なら、堂々と見せてやればいい。

「分かりました」

 彼女はそれだけを言って、姿を消す。

「………聖焔セラフィム、久々の本気モード?」

「そう言われれば、そうだな。本気を出すのはいつ振りだろうか?」

 あの男と殺し合い以来だから、およそ20年だ。

「じゃあ、腕がなまってたりしない?」

 確かに、20年も本気を出してなければ、腕が錆び付いていそうだ。

「それはそれで、ハンデになるだろう」

「手加減はしないの?」

「手加減?そんなことをするつもりはないさ。もし手加減しているように見えたら、腕がなまってしまっただけさ」

 俺はそう言って、肩をすくめると、アルは薄笑いをしている。

聖焔セラフィムって、不器用だって言われない?」

 アルの言葉に、俺はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。


***

 俺は親父から借りてきた刀を肩にかけて、部屋を後にし、聖焔セラフィムの執務室に行くと、とある場所を案内された。

「ここは教会が保有する訓練場だ。一応、いろいろな魔法が施されているから、結構頑丈だ。おそらく、俺達がドンパチしても、滅多なことでは壊れないだろう」

 彼はそう言って、扉を開く。すると、観客席のようなところにはたくさんの人でごったかえしていた。そして、最前列を見ると、執行者御一行(鏡の中の支配者(スローネ)は奥さんのご機嫌取り中)や再生人形リバースドール、カニスがいる。アルは俺に気づくと、手を振ってくる。

「………観客までいるんですか?」

 これは試合ではない。この人は俺の無様な姿を大衆にさらせたいのだろうか?

「ん?ルーキー魔法使い・黒犬の闘いなど滅多に見れるもんじゃないだろう?それに、俺は滅多に戦わないから、物珍しさにやって来たんだろうな」

 俺が弱っているその隙を狙っている連中もいるかもしれないが、と彼はそんなことを呟く。そこまで、コンビクトの人間は不意打ちをしてでも勝ちたいのだろうか?

「絶望の底を知っている奴はそこから這い上がりたくて、必死なんだ。そこは大目に見た方がいい」

 彼はそう言って、訓練場に入っていく。絶望の底、か。今まで、平和を謳歌してきた俺には無縁のものかもしれない。そう言ったものを経験したら、どんな人間でも手段を選んでいられなくなるのだろうか?もし俺がそれを経験したら、彼らのようになってしまうのだろうか?

「さて、オープニングセレモニーはド派手にいくとするか」

 小手調べと行くか、と彼がそう言うと、魔法陣を展開し、火柱が現れ、俺を襲う。

 俺は魔法陣を素早く展開し、俺の周りに水の壁が出現させ、その火柱から俺を守ってくれる。どうやら、最初は魔法陣破棄をする気はないらしい。

 すると、今度は特大雷が俺を襲ってくる。今度は土のドームを作って、どうにか防ぐ。

「こんなもので、精一杯だとこの先がしんどいぞ?」

 聖焔セラフィムの余裕のある声が聞こえてくる。確かに、彼はオープニングセレモニーと言っており、小手調べともいっていった。これで、実力のほとんどを出し切っていないと言いたいのだろう。

「俺は貴方と違って、まだ人を捨てていませんから」

 こう言った人こそ、化け物と言うのがふさわしい。

「………それは心外だな。化け物と言うのはお前の父親を言うんだ」

 彼はそう言って、魔法陣を展開させて、氷の矢を飛ばしてくる。俺は素早く魔法陣を展開し、自分の周りに風を起こし、氷の矢の軌道を変える。

「親父の場合、人類と言うカテゴリーに入っていないので、考える必要はないと思います」

 親父を人類のカテゴリーに入れてしまうと、人外の生き物まで人類に入れなくてはならない。青い鳥?あれは人類と人外の狭間だな。

「そう言われれば、そうだ、なっと」

 彼はそう言うと、根が俺を襲う。俺は炎で焼き払う。何とか、彼の攻撃を凌いでいる。これがまだ本気でないと言うと、実力を出した時が一番恐ろしく思う。

「これまで凌ぐとは流石だな」

「貴方にそう言われても、褒め言葉になりませんよ」

 彼が褒め言葉を言っても、皮肉にしか聴こえない。

「まあ、そう言うな。ここまで頑張ったご褒美だ。お前が欲しているピースを一つ見せてやる」

 彼がそう言った瞬間、漆黒の闇に呑みこまれる。しまった。彼の魔法にかかったのか?

「そんな警戒するな。お望みの物を見せてやるだけだ」

 漆黒の闇から彼の声が聴こえてくる。お望みの物?彼は何のことを言っている?

『   、用が済んだら、遊んでくれるって言ったでしょう?』

 突然、視界が漆黒の闇から、何処かの村に変わる。そして、目の前には青い鳥のそっくりな少女が現れる。だが、彼女が来ている服には見覚えがない。それどころか、目の前に映る風景も見覚えがない。

『   様、村長や守護の方々が守ってくださっているのに、そこから抜け出すのはよくありません』

 あどけなさが残る少年の声が聴こえてくる。その方向を見ると、赤い髪に、青い瞳が特徴的な少年である。まさか、この少年が聖焔の子供の頃の姿。そうだとすると、これは……。

「これは俺の記憶の一欠けらだ。目の前にいる少女はかつて、青い鳥と名乗っていた少女だ。そして、お前が青い鳥と呼んでいる少女の実の母親だ」

 聖焔セラフィムの言葉に、俺は驚きを隠せないが、確かに、ここまで似ているのだから、血縁関係がない方がおかしい。

 やはり、“青い鳥”と名乗っていた少女はあいつの母親だったのか。

『嫌よ。あそこはつまらないもの。私も   と一緒に外で遊びたい。兄様の話だと、外に友達がいるのでしょう?私もその子に逢いたい』

 その少女は彼にせがんでくる。確かに、青い鳥にそっくりなほどの我儘で、自分勝手さだ。いや、青い鳥が彼女に似ているのか。

『ですから、無理です。   様を外に連れて行くと、村長様達に怒られます』

『それなら、ばれないようにすればいいじゃない。   だって、村の皆に内緒で外に遊びに行っているんでしょ?それに、   様はいや。呼び捨てで呼んで』

『そんなことしたら、村長にお叱りを受けます』

『それなら、お叱りを受けないような名前を付けてよ。親しい間では愛称で呼ぶものよ』

『親しい仲も礼儀ありと言いますが?』

『貴方はいつも屁理屈ばかり。私に愛称を付けてくれないと、貴方が外に出る時、後を付けるから』

『それだけはやめて下さい!!』

『じゃあ、付けて』

 彼女は勝ち誇った表情を浮かべる。一方、彼は諦めた表情で考え込み、

『………分かりました。それなら、こんなものはどうですか?青い鳥、とか』

 そんなことを言ってくる。

『何それ?私は鳥じゃないわよ?』

 彼女は怪訝そうに言う。

『勝手にいろいろな所に飛んで行ってしまうのは鳥と同じ……って、噛みつくのだけはやめて下さい』

 彼はそう叫んでくる。すると、彼女は彼の言葉に不満だったのか、彼の腕を噛みついていた。青い鳥は機嫌が悪いと、細剣で突き刺そうとするが、彼女は機嫌が悪いと、噛みつくのか。

『とにかく、西の方にある国には魔法使いと言うものが存在します。魔法使いは一人前になると、魔法名と言う、いわゆる別の名前を名乗るそうです。俺は魔法使いではないので、詳しいことを知りませんが、その時、本人の性質に合った名前が付けられる風習があるそうです』

『つまり、その“青い鳥”は私の性質にあったものなのね』

『そうです。由来を言わないと、また噛みそうだから、言いますが、青い鳥と言うのはとある童話で、幸せを運ぶ鳥として出てくる鳥です。確か、兄妹が青い鳥を追いかけて、幸せを求める話です。   様はそこにいるだけで、みんなが幸せを呼んでくれる存在です』

 これ以上にピッタリな名前はないと思います、と彼が言うと、

『青い鳥……。いい名前ね』

 さっそく、兄様に自慢しなければ、と彼女は満足そうに言って、走って行く。すると、村の光景が霞んでいき、さきほどまでいた訓練場の光景が目の前に広がる。

「………さっきのは」

 彼女と聖焔が村にいた時の記憶。まだ彼らが幸せだった頃の……。

「ご褒美はここまでだ。もっと見たいのなら、もう少し頑張って貰わないとな。全て欲しいと言うのなら、全て凌ぎきって貰おうか。じゃあ、今度からが本番だ。ソウ、お前の出番だ」

 すると、人工精霊の一体と思われる青色の半透明な姿をした、人魚の姿をした精霊が現れ、彼に憑依する。

 どうやら、ここからが本番と言うことらしい。

「スノウ!!」

 俺は上にいる相棒に声を掛ける。精霊対決ならば、こっちも負けられない。

「でかいのお見舞いするぞ」

―勿論!!―

 スノウは俺に憑依する。

「さあ、第一幕の開幕としようか!!」

 彼はそう言って、水柱を出現させる。

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