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 彼女に会ってから数年後、近辺で変なものを見つけた。黒髪の少年。肩には刀を背負っている。そう言えば、最近、ここの近辺で、滅んだ集落があった。確か、そこの一族は黒髪を持っていなかったか。

 この国はいろいろな集落があり、紛争が絶えない。俺達の村は見つからないようなところにある。特に、この少年の一族は黒髪黒眼を持っている為、国が率先して、滅ぼしたと言っていた。この少年は辛くも逃げられたのだろう。あそこは接近戦に特化した一族と聞いたことがあるので、彼以外姿が見えないことを見ると、彼が唯一の生き残りなのかもしれない。

「そんなところで寝ていると、風邪をひくぞ」

 俺がその少年を起こすと、怪訝そうに俺を見てくる。間違いない。彼は黒の一族だ。彼の服は血塗れになっている。怪我をしているのかもしれない。このままにして置くのはいけない。だが、黒は禍を呼ぶ色と言われている。俺の村でも受け入れはしないだろう。とは言え、見過ごすこともできない。

「怪我してるんだろう。診せてみろ」

 怪我を治して、少量の食べ物を持たせるだけなら、構わないだろう。俺はそう言うと、

「怪我などしていない」

 その少年はそう言って、身体を見せる。確かに、身体には傷一つない。なら、その血はなんだ。返り血か?とは言え、この少年の外見を見ても、そんなに強そうには見えない。

 何故か、この近辺だけ因子が濃いような気がする。前、この近辺に来た時はそんなことはなかったはずだ。

 その因子達はその少年に付き添うように集まっている。四大元素は魔力が豊富なところを好む性質がある。ここが魔力を生み出す土地なら、それでも納得できる。だが、ここは違う。導き出せる答えは一つ。因子達はこの少年に引き寄せられている。この少年の魔力は半端ない。俺でもこんな濃い魔力を持つ人間は見たことがない。

 そもそも、黒の一族は魔力を持ち合わせていないはずだ。それなのに、彼はこんな膨大な魔力を持っている?もしかしたら、人の姿に化けた人外の生き物かもしれない。

「       」

 土と火の因子よ。彼の者の姿を曝け出せ。俺はそう因子達に乞うと、因子達は拒む。これは一体どう言うことだろう?そう思っていると、先ほどまで黒かった、その少年の瞳は虹色の輝きを放つ。彼の瞳は黒ではないのか?

 俺は怪訝そうな表情をすると、

「何だ。土と火の因子?言霊使いか何かなのか?」

 彼は不思議そうな表情をする。その返答には絶句するしかなかった。この言葉は誰も理解できない。古代文明に廃れたものだから。村長も言っていた。この言語を理解できるのは俺以外恐らく誰もいないだろう、と。もしいるとしたら、精霊だけだ、と。

 精霊?俺は彼を見る。確かに、彼の魔力は全ての因子がバランスよくとれている。これほど安定した魂はないだろう。生き物の魂は不安定だから、器が必要だ。逆に、精霊は安定だから、器など必要ない。もし彼が精霊ならば、何で人の身体を持っている?

 一つ分かるとしたら、こいつは変な奴なのだろう。物好きな精霊。それが彼なのかもしれない。

 俺は彼に興味を持ち、彼に衣食住を用意した。彼は怪訝そうな表情を浮かべながら、俺の好意を受け取っていた。そして、いろいろな知識を身に付けさせた。毎日、彼の所に通った。あの日が来るまで………。


 聖女に執務室に送還された。あいつは俺を労わるという気持ちはないのだろうか?昔からの付き合いとは言え、もう少し俺を労わって欲しい。そんなことを思っていると、扉が開く。聖女が戻って来たのだろうか?そんなことを思っていると、見ず知らぬの神父風の大男が入って来た。そいつはソファーに座り、自分の家のように寛ぐ。黒犬の方に目が行きすぎて、この男が入り込んでいるとは思わなかった。と言うか、この男がわざわざここにやってくるとは思わなかった。

「何の用だ?」

 俺はそいつを一瞥して、書類に視線を戻す。

「あの写真の徴収」

 そいつはそんなことを言ってくる。黒犬に持たせたあの写真のことだろう。

「その為だけに来たとか言わないよな?」

 それだけの為に来たと言うのなら、こいつはただのアホだ。

「それだけではないが、お金は大切だと、サーシャに言われている。大金が手に入ったら、綺麗なネックレスが欲しいと言っていた。帰る時はお金も貰っていきたい」

 こいつはそんなことを言う。この男は感情が欠落していると言っていいほどの欠落人間だ。元の姿に戻れば、どれほど欠落していようと関係ないと思うが、この男は人間で生きることに思い入れがあるようで、人間として生きようとしている。そうでなければ、伴侶を娶ったり、子供を産もうと考えないだろう。

「今は現金がない。しばらく神父さんライフを満喫すると思うから、少し待て。それよりも、それ勝手に持ち込んで良かったのか?」

 俺は目の前の男を見る。わざわざ神父の姿をしたのだから、このままお帰りはしないだろう。それに、その男の肩にしているのは息子が愛用している大剣だろう。おそらく、この男は息子の許可なしに持ち込んだのだろう。

「俺の刀を貸してやったんだ。これを借りても、文句を言わないだろう」

 この男はそう言うが、それで黒犬が納得するとは思えない。

「まあいい。お前は俺の客として迎える気はないぞ」

 黒犬はあの子の為に来ているし、豪華な出迎えをしたので、俺の客としている。だが、この男は用もなく、ここに来たのだ。僧兵達に襲われればいい。ここは僧兵達が自分の待遇が良くなるように、殺し合いをしている。食堂に向かう途中、死体があったのは一度や二度ではない。人として狂っていると思うが、ここはもともと人形兵器を作る場所なので、そこは仕方がないのかもしれない。

「別に構わない。だが、味方同士戦うのは悪趣味ではないか?」

 さっき、襲われた、とこの男は言う。僧兵達の悪習はすでに経験済みだったか。

「ここは常識など存在しない。気にしたら、負けだ」

「なら、トップを切り捨てても文句言われないのか?」

 彼はそう言って、大剣に手を置く。

「大混乱は起きるが、お咎めはないだろう。まあ、そんな奴が教会の関係者にいるのならな」

 俺がそう言うと、こいつは残念そうに剣から離す。この男なら俺の首を取れると思うが、教会関係者ではない。俺の首を取った場合、教会の刺客が放たれることだろう。そしたら、こいつの妻や子供は間違いなく殺される。それはこの男にとって本意ではないだろう。

「また徴収に来る」

 その男はそう言って、姿を消す。この男は見届け人。彼女とあの子が進む道を見届けようとしている。それがあの男なりのけじめのつけ方なのかもしれない。

 それにしても、聖女は遅いな。いつもなら、頼んでなくても、監視をしに来る。聖女がいれば、あの男も来なかったとはしなかったと思うが。

 彼女のことだ。俺に無理をさせないようにしているのだろう。彼女は昔と変わらず、優しい。だからこそ、自分だけ悪者になろうとする。

「本当に困った奴だ」

 俺はそう言うが、本心ではそう思っていない。全て、彼女は俺の為にやってくれていることだから。


***

 あの後、聖焔さんは仕事場へ強制送還された。仕事を終えるまで待っていてくれ、と言われたが、俺は何処で待っていればいい?

 すると、先ほどの女性が戻ってきて、客室に案内された。

「できるだけ、この部屋に出ないことをお勧めします。ここではいつ襲われてもおかしくない場所なので、用がある時は私か、執行者をお呼びした方が賢明だと思います」

 彼女はそんなことを言ってくる。ここはそんな危険な場所なのか?

「………もし一人で外に出たら、どうなるんですか?」

「間違いなく、襲われると思います。貴方なら、大丈夫だと思いますが、無駄な怪我を負いたくなければ、下手に動くべきではありません。形式上、貴方は聖焔の客となっていますが、聖焔に危害を加えようとした場合、私達は貴方を始末します」

「………」

 青い鳥を助ける為、と一人で敵の本拠地に突っ込んで言ってしまったが、実はかなり無謀なことをしたのではないか。

「そんな顔しないで下さい。貴方が下手な行動に出なければ、危害を加えるつもりありません」

 彼女はそう言って、鞭を手で叩く。いやいや。危害を加えたくて、うずうずしているように見えるのは気のせいですか?

「そう言えば、まだ自己紹介していませんでしたね。私は第二位を務めさせてもらっています聖女と申すものです。お見知り置きを」

 彼女はそんなことを言ってくる。青い鳥さん、青い鳥さん、多分、お菓子を食べて、のほほんとしていると思いますが、貴女がそんなことしている間に、俺は執行者全員に出会ってしまいました。執行者図鑑と言うものが存在するのなら、パーフェクトですよ。隠しキャラ(再生人形)までコンプリートしているのですから。と言うか、聖女ですか。聖女と名乗っている割には冷酷に見えるのは気のせいでしょうか?

「後もう一つ忠告をしておきます。貴方がここに来た理由は知っています。青い鳥と名乗っている少女を助ける為だと。貴方の気持ちは分かりますが、私の意見では何故そんなことをする必要があるのでしょうか?」

「貴女は青い鳥を助けることは無意味と言いたいんですか?」

 青い鳥をこのまま死なせたくない。もっと幸せを運ばせてあげたい、と言う俺の想いは無駄だと言いたいのだろうか?

「助けたいと思うのは結構です。人には大切な存在と言うものが一人くらいいるものですから。ですが、彼女の為にたくさんの命を散らす必要があるのでしょうか?彼女の一族は儚く散ることが定めです。誰であろうと、その運命を変えることはできないものです」

 俺がどんなに努力をしても、彼女は言う。そんな無駄な努力をするよりは運命に従う方がいいと。

「俺はそんなこと嫌です。そんな勝手に決められた運命なんて俺は認めません」

お前なら、こう言うだろう?運命は抗う為にあると。俺はアルに残酷な運命を告げられた。その時、俺は青い鳥を死なせたくないと思った。どんな絶望的な状況でも俺は諦めたくない。かつて、暗闇の中でも諦めることをしなかった青い鳥のように、俺は諦めたくない。諦めなければ、きっと光がある。

「頑張れば、どんな困難な運命だって、打ち勝てると俺は思っています」

 努力の全てが結果に繋がるとは思わない。だけど、俺の努力が一部だけでも報われれば、それでいい。

「………やはり、貴方は彼のように言葉で納得してくれませんか」

 親子は親子ですね、と彼女は呆れた様子で言ってくる。親子?彼女は親父を知っている?

「貴女は親父を知っているのですか?」

「一度だけですが、逢いました。彼の所為で、彼女の抹殺任務が支障をきたしていましたから。彼さえ排除すれば、邪魔する敵はいなくなりますから」

 彼女と言うのは青い鳥と名乗っていた少女のことだろう。何で、その少女が殺されなければならない?

「………何で、その少女が殺されなければならないのですか?」

「あの少女は、いや、あの少女の一族は国一つ滅ぼすことができる兵器になり得るからです」

 その言葉に俺は絶句するしかなかった。兵器?何で、その少女が兵器にされなければならない?

「………私はその少女がいた村にいました。ここから東にある国に、人里離れたところにその村がありました。聖焔もその出身です。私はその少女と会ったことがなかったのですが、聖焔は頻繁に会っていたようです」

 彼女と聖焔が青い鳥と名乗っていた少女と同じ村に住んでいた?確か、親父の話だと、その少女と東陣共和国で出会ったと聞いた。青い鳥と名乗っていた少女はその村から東陣共和国に訪れたのだろうか?

「彼女にはお兄さんがいたようで、彼らは“変異”を持つモノと呼ばれており、私の村では聖なる存在として崇められていました。言いかえれば、あの村は彼らを守る為にあった場所と言えるでしょう。ですが、あの村はもうありません。とある事件で、滅ぼされてしまいました」

 その言葉に絶句するしかなかった。何故、滅ぼされなくてはならないのだろうか?

「とある組織が彼女達の能力に目を付けたそうです。その際、彼女とお兄さんが連れて行かれ、彼女達を守ろうとした村人は殺されました。私は無力だったので、ただ見ていることしかできませんでした。彼も果敢に立ち向かいましたが、重傷を負わされてしまいました」

 その時、彼女はどう思ったのだろうか?何もできなかった無力感にさいなまれたのではないか?自分の前で、大切な人を失って行くのを俺は耐えられない。

「私達はとある魔法使いに助けられました。彼はこの村と協力関係のある組織の人間でした。彼は状況を理解し、私達を保護してくれました。その人物が先代のセフィリムでした」

 その村と教会が密接な関係にあった?一体、どう言うことだ?

「私の村は古代文明の記憶を守る為にあった場所でもあります。特に、彼女達は古代文明の生きた遺産です。だからこそ、教会とは協力関係があったのです。彼は彼女達が連れて行かれたことを知り、保護しようとしましたが、その組織に気づかれ、その組織に洗脳を施された彼女のお兄さんを投入してきました。彼女のお兄さんの洗脳を解こうとしたそうですが、不可能だったそうです。その為、殺すしか方法がなかったそうです。どうにか、殺せはしましたが、その代わりに、彼を失くしました」

「え?」

 聖焔の先代がどう言う人か知らないが、執行者のトップにいたのだから、物凄い人だったはずだ。そんな人が殺された。青い鳥と名乗っていた少女のお兄さんはそれほどの能力を持っていたということだろうか?

「その時、彼女がその組織から逃げたという情報が入りました。彼女はどさくさに紛れて逃げたいのでしょう。本来なら、その彼女を保護するところでしょう。しかし、上層部はトップを殺せる能力を持つ人間を生かすのは危険だという判断をしました。セフィリムになったばかりの聖焔は不服を申し立てましたが、上層部の判断は覆せませんでした。私達は彼女を抹殺する為に動きましたが、その過程で、邪魔な存在が現れました」

「それが親父」

 白虎さんの話をよると、親父は凄腕の剣士だったそうだ。殺戮王(先代のキュリオテテス)を倒しているというのだから、親父の存在は教会にとって邪魔としか言えない。

「そうです。殺戮王(先代のキュリオテテス)を投入したのですが、失敗しました。道化師(先代のスローネ)の投入も考えましたが、殺戮王(先代のキュリオテテス)を下すことのできる剣術を持つ人間相手に、魔法使いは無謀です。彼の相手が出来るとしたら、聖焔(セラフィム)だけですが、聖焔セラフィムの精神不安定状態で、倒すことのできるほど簡単な相手ではありません。ですから、私が彼の説得役を引き受けました。もし説得が失敗した場合、彼を洗脳することもできましたから」

 彼女はそう言って、ニッコリほほ笑む。洗脳?もしかしたら、彼女の特異能力だろうか?ちょっと待て。俺、彼女がその気になれば、洗脳されてしまうのだろうか?

 俺は無意識的に彼女から離れると、

「そんな警戒しないで下さい。私は貴方を洗脳する気はありませんし、彼に効かなかったのですから、貴方に効くかは疑問が残ります」

 親父に効かない?親父よ。あんたの身体はどんな構造してんだ?人間じゃない思考をしていると思っていたが、まさか、身体まで人間じゃない構造しているのか?

「そんなわけで、彼に逢いました。彼女の危険性を訴えましたが、彼に一蹴されました。危険なのは私たちだと。簡単に人を殺せる人間の言うことを聞くことはできない、と」

 親父、今、あんたのことを見直した。父親としての義務を放棄しているが、良識と言うものは持っていたんだな。

「仕方ないので、彼を洗脳して、彼女を殺させようとしたのですが、それも破られてしまいました。その時、殺されると思いました。失敗すれば、命の保証はないと思いましたから。ですが、彼は私に言いました。これ以上、彼女に仇を成すと言うのなら、容赦はしない、と」

 それだけ言うと、姿を消しました、と彼女は言う。親父は敵とは言え、命だけは奪えなかったのだろう。

「私が失敗したことにより、上層部は聖焔セラフィムに、彼らの抹殺命令を出しました。その時の彼の痛々しい様子は見ていられませんでした。私が失敗していなければ、彼があんな辛い想いをしなければならなかったのではないか」

 彼女はそう言って、俯く。執行者と言うのは大切なものを守る為に、自分の感情を押し殺していたのではないだろうか?最初から、冷酷な人間はいない。彼女は聖焔セラフィムのことを大切に思っていたから。だからこそ、彼の為に、青い鳥と名乗っていた少女を殺そうとした。理解できない話でもない。青い鳥を生かす為に、誰かを殺さなければならなくなったら、俺も青い鳥を生かそうとしていた。だが、果たして、それで、青い鳥は喜ぶだろうか?青い鳥なら、こう言うのではないだろうか?

『両方を救える方法を考えなかったのですか?もしかしたら、両方救える方法があったかもしれません。なかったとしても、両方を救う為に行動するべきです』

 どっちも救えなかったら、意味ないだろう。それに、お前が死んで、その人物が生きていたら、努力する意味はなかった。それでも、お前はそう言うのか?

『勿論です。貴方がそうしようと思い、行動することに意味があるのです。救いたくても、救えないと言う理不尽なことはこの世の中ゴロゴロ転がっています。私はたくさんの人を救いたいと思っていますが、現実問題無理です。そんなことを言ったら、貴方は手伝ってくれなくなってしまいますから、そんなこと言いませんが。とにかく、願えば、案外簡単に行くこともあります。やはり信じて行動することは必要です』

 信じて、行動する。その為に、努力する。結果はやった後にしか出てこない。それなら、今諦めずに、突っ走ろう。

「貴女は聖焔セラフィムさんのことを想って、行動した。多分ですが、聖焔セラフィムさんはそれで嬉しかったと思います。俺は青い鳥のことを想って、行動しています。それを青い鳥が知ったら、キスを迫ってくる勢いで喜んできそうで怖いですが」

 あいつなら、それくらいしでかしそうだ。この前なんて、俺の部屋に夜這いして来た。勿論、その時は撃退させてもらったが。

「俺としては貴女のした行動を許せそうにありませんが、貴女はそれが最善の方法だと思った。それなら、それでいいと思います。俺は聖焔セラフィムさんを問い詰めることが青い鳥を救う最善の方法だと思っています」

 どんなことを言われても、俺は立ち止まる気はない。青い鳥を救う為なら、どんなことでもする。その為に、二度と来たくなかったコンビクトに来た。それは俺なりの覚悟だ。

「ですが」

 彼女は何か言いたそうな表情を浮かべていたが、

「………聖女ソフィア、こう言った頭が固い奴には何を言っても無駄だ。それはあの唐変朴で経験済みのはずだ。アレの息子なんだ。簡単に、頷くはずがない」

 聖焔セラフィムさんが姿を現す。

「………お言葉ですが、俺と親父を同じカテゴリーにされるのは心外です」

 俺はまだ常識範囲内の行動しかしてない。範囲外ばかりの行動をしている親父と同じくくりにされるのは不本意だ。親父は奇人カテゴリーだ。ちなみに、俺の知り合いの白髪変人は変人カテゴリー。

「それは悪かったな。聖女ソフィア、お前が来る前に、仕事が終わってしまったじゃないか。お前に罵られながら、仕事をしたかったんだが」

 アレが俺の至福の時なんだが、と聖焔セラフィムさんはそんなことを言ってくる。流石、青い鳥さんの実の父親だ。普通の人が理解できそうにない思考をしてらっしゃる。青い鳥に会ったら、こう言おう。青い鳥のお父さんはどエムさんだって。そう言ったら、青い鳥は、私はドエスさんです、どエムのはずがありません、と言いそうだが。

「なんか、俺が話をする必要がなくちゃった感じだな。それはそれで、俺は本題に入れて嬉しいんだが。で、聞こうか。あの子はそれが自分の運命だって、諦めているみたいだが、それでもお前は諦めないのか?」

 本人が認めているのに、お前は認めないのか?確かに、本人が生きたいと言わなければ、意味がないかもしれない。それなら、お前はもっと幸せを運べるんだ、と言うことを示せばいいことだ。そうすれば、あいつは横に振らない。

「それなら、あいつに諦めていることを諦めさせるだけです」

 俺はあいつに生きて欲しい。それなら、その想いをあいつに思いっきりぶつけてやる。あいつは言って、言うことを聞く玉じゃない。それなら、身体で想いを伝えるしかない。

「………そうか。そこまで、言うのなら、何も言わない。お前に、この先の残酷な真実を知る覚悟があるのなら、いつでも受けて立とう」

 覚悟できたら、執務室に来るといい。彼はそれだけ言って、姿を消す。

 とんでもない相手に喧嘩を売ったと思うが、今はそんな気がしない。

 青い鳥が死んでしまう恐怖よりは彼に挑む恐怖の方がまだましだから。

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