プロローグ
青い鳥と背徳の賢者を連載していきます。よかったら、お付き合いください。今回は教会が誇る執行者のトップ、聖焔にスポットを当てていきたいと思います
俺が彼女に会ったのはいつだっただろうか?彼女が誰にも何も言わずに村の外に出て行ったことがあった。その時、俺は親に頼まれ、山に野草を採りに行っていた。山の奥に入っていく彼女を見て、怪訝に思った。山の中は危険な獣が多く生息しており、奥に行くことは禁じられていたからだ。
俺は彼女のことが気になり、彼女の後を追いかけると、予想通り、彼女は獣の群れに囲まれ、泣いていた。怖い想いをしたくなければ、村の中にいればいいものを。
「 」
俺がそう叫ぶと、獣たちは恐れをなして逃げて行った。すると、彼女は俺の存在に気づいて、こちらに向く。青い髪、青い瞳。服を見れば、女の子だと分かるが、顔だけでは男にも見て取れる。
「あなたがたすけてくれたの?」
「俺以外、誰がいるんだ?」
俺は呆れた様子で彼女を見る。俺の身体能力では獣を撃退することは不可能だ。だが、ここの村は数百年前に廃れた古代文明の記憶を守っている土地。村人に言わせれば、ここは神聖な土地だそうだ。そして、俺達は古代文明で生き残った先祖たちが後世に残していった“生きた遺産”。だからこそ、俺達はこの近辺から出ることを禁じられている。たいていの村人はここで生まれ、ここで死んで行く。それが俺達の責務だそうだ。
さっきの奴は古代文明に使われた古代語。今は廃れた言語らしい。その為、この村でもこの言語を操れるのは俺しかいない。古代文明の技術は伝えていくことができたが、言語が書けても、発音できない。俺が発音できるのは先祖帰りだからだそうだ。
その為か、俺は村長になることが決まっている。
「ありがとう」
彼女は驚きながらも、感謝の言葉を言ってくる。まあ、助けたのだから、それは当たり前だろう。
「感謝してくれるんだったら、もう村に帰れ。ここはあんな奴らがたくさん生息している」
俺達の村にはいろいろな一族が共存しており、それぞれ役目を負っている。ほとんどの一族はその“役目”を果たす為、能力を与えられている。彼女がどの一族の出か知らないが、まだ幼い少女なので、まだ能力を持っていないはずだ。そんな少女が一人で山奥に入るのは危険だ。
「いや」
彼女は俺の忠告を聞き入れずに、奥へと入っていく。
「俺の忠告を聞いていなかったのか?奥は危険だと言っただろう!!」
俺はそう叫ぶが、
「わたしはこのおくにあるはなばたけにあそびにいくの」
彼女はそんなことを言ってくる。この山にそんなところがあるのか?聞いたことがない。
「おにいちゃんがきれいなおはなばたけがあるっていってたの。わたしもいきたい」
彼女のお兄ちゃんはこの奥に行ったことあるのか?いいや。そんなはずはない。俺は頻繁にこの山に行くが、子供は勿論、大人も見たことがない。
「それ、嘘だろ。俺、お前のお兄ちゃんらしき人物見たことない」
原則、村の人間は村から出ることを禁じられている。俺みたいな自分の身を守れる一部の人間だけ、外出を許可される。それでも、用がある場合に限ってだ。遊びに行く為に外へ出ることは許されることではない。よって、彼女のお兄ちゃんは花畑に行ったことがない。つまり、嘘だ。
「それなら、それがうそか、わたしがたしかめる」
彼女はそう言い返してくる。何とも、強情な奴だ。これ以上説得しても、おそらく、納得してくれない。それどころか、一人で山の中に行ってしまうだろう。それで、彼女の死体が見つかるのは後味が悪い。
「仕方ない。なら、俺も付き合ってやる」
俺がそう言うと、彼女は驚いた表情を浮かべる。
「………ほんと?」
「ああ。ただし、頂上に行っても、花畑がなかったら、大人しく村に帰る。それが条件だ」
彼女の為に山を隈なく歩き続けたくない。すると、彼女は少し考えてから、
「わかった。それでいい」
彼女はにんまりと笑顔を見せる。その笑顔に、初めてと思える感情が芽生えたと思ったのはきっと気のせいではないだろう。
ゲシゲシと頭を踏みつけられていることに気づき、目を覚ますと、紫の髪に、薄い青い瞳が印象的な女性が目に入ってくる。あいつは中性的なミステリアスな雰囲気を醸し出していたが、彼女は絶世の美貌を持っている。容姿に関しては非のうちようがないのだが、胸はもう少しボリュームがあると、俺的には嬉しい。
「仕事中に居眠りとはいい御身分ですね」
蔑むように俺を見る目もたまらない。冷酷美人とは彼女の為にある言葉だろう。
「休憩だ。俺はこう見えても、いい歳したおじさんだからな。長時間のデスクワーク仕事は正直辛い」
この仕事をしてから、20年ほど経つ。歴史上を見ても、俺は任期が異常すぎるほど長い。俺達のような人間は襲名してから5年生きれれば、上出来だ。それを考えると、鏡の中の支配者は10年務めてもなお、ピンピンしている。確か、断罪天使は今年で5年目だったか?特に、断罪天使にはもう少し長生きしてもらわないと困る。俺がくたばった時に、継ぐ者がいないと、俺達の組織はそれで崩壊だ。それでなくとも、人員不足が目立っている。俺達の控えはいない状態だ。しかも、それなのに、鏡の中の支配者は子供が出来たから、辞めたいと言いだすし、デュナミスは空席のまま。
早くこの問題を解決しないと、俺はストレスで過労死しそうだ。
「歳だと自覚しているのなら、いい人材を攫ってきてください。確か、貴方の知り合いの息子は有望株だとか」
「………ああ。黒犬な。アレは絶対無理だろ。無理矢理攫ってみろ。それこそ、奴とあの子が乗り込んで、とんでもないことになるぞ」
あの男は前線を去った身だが、実力は衰えていないそうだ。あんな化け物相手、俺達の中でトップの剣の腕を持つ帝王でもお手上げだ。あれは人間の枠を超えている。あれ相手したら、組織が崩壊する。それに、黒犬と共にいる青髪青眼の少女。あいつの生き形見である少女の実力もそうだが、果たして、あの少女を前にして躊躇せずに切り捨てることのできる奴は何人いるか?何人かがあの子の毒牙にやられてしまっている。流石の俺も、あの子を切り捨てることはできそうにない。
「黒犬と言えば、アルが変なことを言ってましたね。黒犬が遊びに来るから、美味しいケーキを焼いておいてほしい、と」
彼女は思い出したようにそう言ってくる。アル。今まで空席だった第七位・時の預言者。身体が弱いため、ほとんどベットから出てくることがない青年。俺にとってはあの子と同じくらい大切な存在。
この前、彼の要望により、黒犬に逢いに行った。帰って来た時、あいつの形見を渡してきた、と言っていた。彼はあの少年をあの子の王子様と認めたそうだ。その時、彼は二つの未来を話した。黒犬がこの国を破滅に導く未来と、黒犬とあの子が一緒にいる未来。俺個人としてはどっちの未来も来て欲しくないのだが、聖焔としての俺はこの国の破滅を何としてでも防がなければならない。本来なら、黒犬を殺さなければならない。だが、それをしたくない事情もある。破滅する未来ではあの子が死ぬ。もし黒犬を殺して、破滅の未来が免れても、あの子が死ぬことに変わりはない。もう一方では黒犬とあの子が生きている。何らかの方法を取って、あの子とあいつを苦しませていた呪縛がなくなるのだろう。
俺は勿論、あいつが望んでいたものである。それを黒犬が達成してくれるのなら、それ以上望むことはない。
だが、どう言う風に進めば、そうなるか分からない。俺は勿論、黒犬にも。だから、黒犬はその小さな希望をすがって、俺のところに来るらしい。
その時、俺は見極めなければならないのだろう。果たして、黒犬は破滅を導く者なのか?それとも、栄光を導くものなのか?
「………そうだな。おじさんは仕事を早く切り上げて、黒犬を出迎える準備をしなくてはならないな。教会にいる僧兵達や執行者達に伝えてくれ。巷で有名な魔法使いの黒犬が来る。腕に自信のある奴は振るってお迎えしろ。黒犬を討てる奴がいたら、執行者に迎えてやる。執行者はささやかな有休をプレゼントだな」
俺がそう言うと、彼女は眉を顰める。黒犬は凄い魔法使いとは言え、訓練を受けた僧兵達が束になったら、手こずるだろう。そして、執行者相手では無傷ではいられない。だが、それくらい潜り抜けてくれないと、面白みがない。俺を締め上げるつもりなら、あの子を本気で救いたいのなら、それくらいできて当然だ。
***
青い髪青い目と言った容姿を持つ少女、自称・幸せを運ぶ鳥、他称・不幸を運ぶ鳥である青い鳥は上機嫌でお泊まりセットを鞄に詰めている。話によると、城にお泊まりしに行くらしい。ハクや姫と夜更けの恋愛トークで花を咲かせるつもりらしい。俺からすれば、面白そうには思えないが、女の子はそれが楽しいらしい。恋愛トークの内容はたくさんありますのに、話す相手がいません、とあいつは愚痴を零していたので、姫の誘いには食いついた。
青い鳥が城でお泊まり会をするのはそれだけが理由ではない。姫と東陣共和国のシレン皇子の婚約がそろそろ決まりそうらしい。黒龍さんはいろいろな要求を相手に押し付けているらしいが、シレン皇子は姫の人柄を大層気に入っているようである(姫と共に、是非、青い鳥を姫の付き人に、との声もあるらしい。シレン皇子は青い鳥の剣の腕前とユーモアに溢れた性格が気に入っているようだ)。黒龍さんは喜々として、青い鳥を付けそうだが、青い鳥が同意するかは疑問だ。青い鳥は自分自身の寿命が僅かであることを悟っている。あいつはそれでいいと思っているらしいが、残される俺としてはそんなこと認められない。俺を振り回しておいて、自分だけさっさと退場させてたまるか。
俺はあいつの義兄であり、執行者の一員、末席の時の預言者、愛称・アルから受け取ったネックレスを取り出す。小さな筒の上に鳥が乗っている。これがどんなものかは不明だが、青い鳥を救う為の鍵の一つ。もう一つの鍵はコンビクトにいるあいつの血の繋がった父親(子供の死体を焼却炉に放り込むぶっとんだ方ではない)が持っているそうだ。
だから、俺はコンビクトに向かい、あいつのことを聞きだそうとしている。だからこそ、俺は黒龍さんとエイル三世陛下と共に、内密に行動していた(その所為で、俺はとんでもない目にあったが、それは別の話である)。
青い鳥の母親の一族は青い鳥を狙っている。この前、俺の前に現れたらしい灰色の眼鏡男(俺は特殊な魔法にかかってしまったようで、思い出せない。アル曰く、その部分だけ過去が切り離されているようである。普通に生活する分はそれほど支障はないそうだが)と俺達を襲撃した忍者の男(アル曰く、恐らく、青い鳥と同じ“変異”を持つモノらしい)が青い鳥を狙わないという保証はない。俺が不在時、この村に現れたら、チートキャラである親父(カンカン帽、アロハシャツ、サングラスの変人セット愛用)でも青い鳥を守りながら、戦うことは不可能である。
だが、青い鳥が城にいれば、絶対安全とは言えないが、相手は下手に出てこないだろう。城には最強の魔法使いとして名高い黒龍さんや凄腕剣士の翡翠の騎士(その正体はエイル三世陛下)、そして、凄腕魔法使いの紅蓮さん(実は炎精さん)までいる。例え、城に現れても、その鉄壁を前にしては手を出せない。
それに、お泊まり会はカモフラージュにもなる。あいつがお泊まり会している間、俺は何処に行っていても、気付かれない。青い鳥やハクは一緒にお泊まり会をしようと言ってきたが、俺が城に行けば、黒龍さんの地獄の特訓が待っているだろうし、赤犬さんから家に来るように厳命されているので、お断りしている(それは理由の一つだが、それだけではない)。その代わり、俺の代役として、エンとレンを同行させることになっている。これなら、青い鳥も怪しませない為の仕込みである(本音を言うと、いろいろな意味で行って欲しくはないが、弟達はとても楽しみにしているので、行くなとは言えない)。エイル三世陛下はエンに興味を持っており(ハクが発信源だと思われる)、黒龍さんは何故かレンに興味を持っているようである(黒龍さんに、レンの特異体質を気付かれた可能性がある。これは様子を見て、黒龍さんが行動した場合、直ちに対応するべきである。お泊まり会最中、青い鳥には黒龍さんがレンに手を出させないように言ってある)。
そんなわけで、青い鳥御一行は俺の送迎により、城まで行くことになっている(黒龍さんとエイル三世陛下は姫の結婚式などの事前作業に追われ、忙しいらしい)。その後、俺はその足で師匠の赤犬さんに顔を出しに行く予定である(これは半ば命令)。青い鳥達もお泊まり会が終わったら、赤犬さんに逢いに行くそうだ。
「準備はできたか?」
城の前に、紅蓮さんとハクと待ち合わせしている。時間厳守しないと、黒龍さんに文句を言われる。
「まだです。パジャマで悩んでいます。この鳥さんパジャマもいいのですが、このブタさんパジャマも捨てがたいです」
青い鳥はどっちのパジャマにするか悩んでいるようである。
「そんなもの、どうでもいいだろ」
こいつは荷物などなくても、生活できるテクニックをお持ちである。パジャマなどなくても、構わないだろう。
「どうでもよくない問題です。それに、下着は勝負下着にした方がいいのか、とか」
「お前は何しに行くんだ!!」
パジャマはとにかく、勝負下着する必要があるのか?
「勿論、お泊まり会です。ですが、何があるか分かりません。私の寝室に、勝負しに来る男の人が来るかもしれません」
お前の寝室に、勝負しにくるのはあのSSクラスの超危険の性犯罪者だけだ。
「もし来たら、その男の大切なところを蹴り飛ばせ!!」
幼いあいつはあの性犯罪者もそれでノックダウンしたらしい。
「それがもし貴方だったら、どうすればいいですか?」
「そこでどうして、俺が現れる?」
俺はお泊まり会には不参加だ。俺が現れるはずがない。と言うか、こいつを夜這いする趣味などない。
「最近、貴方の偽物が大量発生しているという話です」
最近、俺の名を騙った偽物がいろいろなことをしてくれるらしい。俺のことを知っている方々は容赦なく撃退してくれるらしい(赤犬さんや黒龍さんの場合、俺が本物だろうと、偽物だろうと、容赦なく半殺ししているそうだ)。
この前の事例では、俺が生死を彷徨っていた間、鏡の中の支配者が俺に変身し、青い鳥と赤犬さんによって、撃退されたという事件は記憶に新しい。
「容赦なく叩き潰せ」
俺は無理矢理お前を襲うつもりはない。
「俺が狼になることがあったら、それは俺達が20歳過ぎたらだ。それまではお前が何を言ってもするつもりはない」
弟達がまだ幼いので、彼らの前で、教育上、よろしくない行動に出るつもりはない。
そう言うと、こいつは寂しそうな様子を見せる。こいつは自分が20まで生きることができないと気付いている。おそらく、俺がその具体的な数字を出すのはそれを知っているからだと、気付いているだろう。
あいつは俺が自分と一緒になりたくないから、そんな意地悪なことを言っていると思っているのかもしれない。俺はそんなつもりない。むしろ、あいつには長生きしてほしいから、そう言っている。俺はあいつと長く一緒にいたいし、両親や弟達、そして、大切な人達と一緒にいたいからこそである。
アルの預言によると、青い鳥が死ぬ未来では、俺は破壊の限りを尽くすらしい。それがどんな未来か分からない。だが、俺は大切な人達を自分の手で殺めたくない。
俺は虚しい気持ちを味わいたくない。
かつての紅蓮さんや鏡の中の支配者のように、狂気に囚われたくない。だからこそ、俺は行動する。
この手に、俺とあいつの幸せをつかむために。
「とにかく、お泊まり会を楽しんで来い。もしかしたら、姫と過ごせる最後の機会かもしれないからな」
青い鳥がシレン皇子の付き人にならない限り、滅多に姫と会うことができなくなってしまうだろう。あいつの為は勿論、姫の為にも楽しい想い出を作って欲しい。
「分かっています。貴方の分まで楽しんできます」
「ああ。俺も用が済んだら、姫に逢いに行くよ」
どれくらいかかるか分からないが、姫の顔を見たい。本当の意味で、俺のことを想ってくれた数少ない人。彼女には幸せになって欲しい。
「そうですか。姫にそう伝えておきます。多分、姫も喜ぶと思います」
「そうだと嬉しいがな。パジャマはとにかく、早く準備を済ませろ。弟達がまだか、と文句を言っている」
弟達は早く城に行きたくて仕方がないのだろう。普通、平民である俺達が行けるところではない。俺たちがエイル三世陛下と姫の知り合いであり、俺と青い鳥が城で働いていた縁で実現したものだ。
とは言え、俺の弟達が遊びに来ることに、不満を持っている連中は多いだろう。その為、弟達には青い鳥や紅蓮さんから離れないように言ってある。宮廷魔法使いや宮廷騎士の人員が減り、優秀な者が多いとはいえ、平民だからと言って、見下す連中がいないというわけではない。平民であるはずのエン達が城に入ることを許されることに納得できるはずがない。何かしてくることだろう。
ただ、エイル三世陛下はいつか城を一般開放したいと言っていたので、遠くない将来、誰も城に入ることができ、貴族と平民の身分の壁が無くなる日が来るかもしれない。
もしかしたら、お泊まり会はその一環なのかもしれない。俺がライセンス習得し、宮廷魔法使いとなり、青い鳥が宮廷騎士になり、武道大会であの翡翠の騎士と引き分けた。これらにより、貴族、王家の絶対権力が崩れかけている。エイル三世陛下はこの機会を利用して、全ての柵を取り除き、優秀な人材を発掘したいのかもしれない。
悪政が続いたこの国に一筋の光が見えてきている。今、この国の時代が変わろうとしているのかもしれない。それなら、尚更、そんな輝かしい未来を潰すわけにもいかない。
俺はそれだけ言って、青い鳥の家を出る。もともと、青い鳥のおじさん(血縁関係のない赤の他人)の家だったが、再生人形の件で、文字通り、姿を消した。おそらく、この家は青い鳥を監視する為に用意された鳥籠だったが、今では実質上、青い鳥の巣である。
そんなことを思っていると、見た目はゴロツキ、中身はただの親父、合わせて、不良親父が俺に気づいて、近づいてくる。
「親父、俺に何か用か?」
この親父は見た目に反して、物凄い戦闘力をお持ちだそうだ。能力値を見ることができるものがあっても、測定不能になってしまうと言われている。そんな物凄い方だが、滅多に行動しない。本人曰く、隠居している身だと言う。だが、二時間以上鬼ごっこができるほどの体力が残っているので、まだ隠居するには早いと思う。
「俺からの選別だ」
親父はそれだけ言って、紙袋を渡してくる。その袋の中身を見てみると、青い鳥ばかり写っている写真だらけである。青い鳥は撮る専門だったので、あいつの写真は数少ないはずだ。なのに、何故親父がそれを持っている?
「俺のお宝集だ」
親父は恥ずかしがりもせず、真面目に言ってくる。お宝集?まさか、あんたもロリコン属性なのか!!
「そろそろ高値で買い取って貰える時期だろう」
高値で買い取って貰える?何のことだ?そう言えば、アルが聖焔はとある少女の写真を高値で買い取ると言っていた。まさか、その少女と言うのは……。
「これを上手く活用すればいい。それと、これも」
親父は肩にしていた細長い袋を投げてくる。受け取ると、ずっしりと重みを感じる。仲を見てみると、刀があった。確か、これは親父の部屋に転がっていた骨董品だったと思うが。
「………これは?」
「お前の大剣よりは使いやすいだろう。貸す。後で返せ」
ちゃんと、奴から金を奪い取ってくるように、と親父はそれだけ言うと、森の中へ消えていった。確か、親父と聖焔は知り合いだったか。
「………ゲンおじさんの声が聴こえて来たような気がしました。高値で何とか言っていたような気がしました」
青い鳥は荷造りが終わったようで、姿を現す。
「あ、ああ。珍しい薬草だから、商人に高く売ってこいだそうだ」
流石に、この袋の中に、お前の写真がたくさん詰まっており、聖焔に売りさばくように言われたことは口が裂けても言えない。
「………そうですか。まあいいです。それよりも、早く城に行きます」
こいつは俺の手を引っ張って、俺の家の前で待っている弟達のところへ向かう。
青い鳥がひそかに不幸を振り撒く。だが、これは青い鳥本人も知らない。今回、お前の配役は念願のお姫様だ。そして、不本意ながら、俺が主人公だ。
絶対、お前を解放してやる。だから、その時が来るまで、待っていて欲しい。