激闘!間に合え遮那の叫び!
遮那が訓練生を率いる魔物討伐隊の出向いた先で、まさかの特級の討伐対象である蛇神が現れたのだ。
一人一人仲間達が襲われ、仲間達を庇いながら遮那は切り抜ける事が出来るのか?
遮那が武神候補生達を連れて向かった先に現れた魔物は天界でも特に忌み嫌われた最強最悪の一級討伐対象である『蛇神』だった。
仲間達が次々と襲われ、残った仲間達も畏縮し戦える状態でないと判断した遮那は、自らが囮となって仲間達を逃がし、単身蛇神へと挑むのであった。
遮那「行くらぁー!」
蛇神は逃げ遅れた武神を伸ばした尾で捕らえようとしていた。
武神「うわぁあああ」
そこに遮那が割って入り捕われる寸前の仲間を助け、蛇神に向かって叫ぶ。
遮那「お前の相手はオラら!」
そして遮那は腰を抜かしてへたりこむ武神に振り返り、
遮那「おい!ここはオラに任せて、お前は急いで救援を呼ぶら!」
武神「は…はい!」
立ち去る武神を見届けた後、遮那は戦闘モードに入った。黒い闘気を放出させ蛇神へと突進し、拳を繰り出しながら攻撃を仕掛ける。
が、蛇神はすり抜けるように躱すのだ。
蛇神『そんなものか?異国の神の力とは?』
遮那「オラを馬鹿にするなぁらー!」
今まで暗く気付かなかったが、遮那が相手をしている蛇神は白い大蛇の胴体に、上半身が人の姿をした髪の長い女の化け物であった。
蛇神『仲間を逃がしたつもりだろうけど、直ぐに追い付き喰らってやろう!一匹も逃がしはせん!』
遮那「そうはさせねぇらよ!オラがお前を食い止め…いや!倒すらよ!」
蛇神『出来るのかしら?お前のようなガキに?』
すると遮那の真上に洞窟の天井から巨大な岩石が崩れ落ちて来たのである。遮那は慌てる事なく拳で殴り砕く。
遮那「当たり前らぁ!」
白い蛇神の女は己の長い髪を振り回すと、遮那に向かって鞭のようにしならせながら攻撃を仕掛ける。岩が切り割かれ、まるでケンザンに貫かれたかのような風穴まで残した。
遮那「あんなのに貫かれたら一たまりもないら!」
更に蛇神は両手を向けると、その十本の爪が伸びて来て遮那に襲い掛かる。
遮那が躱した後方の岩が名刀の漸激で斬り刻まれたかのような崩れ落ちた。
遮那「至近戦は不利ら!ならば!!」
遮那の背後から黒い闘気が立ち込め凝縮し八つの伸びる黒い束を作り上げると、それを鞭のように操りながら蛇神に向かって打ち放つ。
『八又の暗黒打神鞭らぁー!』
蛇神は遮那から放たれる八つの黒鞭を躱しつつ、己の爪と髪を武器化させながら再びシャナに攻撃を繰り出す。
蛇神『凄まじい力…だが、まだまだ私の相手ではないようね?ふふふ…もう少し鍛練と経験を積めば面白くなりそうだったのに!今、この時!この私に出くわした事がお前の災厄!残念だけど死なせてあげる!』
すると蛇神の髪が遮那の両腕と両足に絡み付き、その身動きを止めた。
遮那「んっな!?身動きが取れないらぁ?くぅらぁー!!」
力任せに引き千切ろうとしても、その蛇神の髪には凝縮された『蛇気』が籠められていて、引き千切る事が出来なかったのである。そして蛇神から伸ばされた十本の爪が、遮那の身体を貫いたのだ。
遮那「うぐぅあああ!」
遮那には生れついて強力な再生力を持っていた。だが、この蛇神に受けられた傷は一向に塞がらなった?血が噴き出し激痛が走る。次第に力なく膝をついた遮那が見上げた先には、既に蛇神が間近へと迫っていたのだ。
(殺される!!)
遮那は一瞬死を覚悟した。視界がぼやけ、身体中の痛みが冷静な思考を鈍らせていく。
あ・き・ら・め…
『ては、なりませんよ?』
それは遮那が幾度と捲簾に言い聞かされていた言葉だった。遮那は途切れかけていた意識の中で捲簾の言葉を思い出し、捲簾の姿が脳裏をかすめたのだ。
遮那「オラは死なないらぁ!諦めてはダメなんらぁーー!」
遮那は眼前にまで口を広げて向かって来た蛇神を上体を下げて転げながら躱したのだが、即座に再び両腕と両足に絡み付いた蛇神の髪が再び引き戻そうと引っ張られる。
だが、遮那には戦う闘志が沸き上がっていた。
自分が今負けたら…
逃げ出した仲間達がこの蛇神に襲われてしまう。
負けたらダメだ…
そう!
天蓬元帥とは、どの者達よりも先陣に立ち!
怯まず、臆せず!
決して負ける事を許されずに勇ましく戦う者にのみ与えられし称号!!
遮那「そうらぁ!オラは負けられないらぁー!オラは天蓬元帥なんらぁー!!」
凄まじい覇気が遮那から放たれ洞窟が更に激しく揺れる。崩れ落ちる岩を気にも止めない遮那の瞳は真っ赤に…燃えるような炎の色へと変わっていく。
そして、その額には三つ目の『眼』が出現したのだ!!
『ウラァアアアァアア!』
その漆黒の覇気は自分自身に絡み付いた髪や突き刺さった爪を消し去り、更には蛇神の放つ蛇気と交差しぶつかり合う!流石の蛇神も遮那の激しくも強力な力の発動に驚きと焦りを感じていた。
蛇神『馬鹿な!?我等蛇神一族以外にこれほどの力を持つ者がいようとは!』
だが、遮那の勢いはそこまでだった。
突然身体が痺れて動かなくなったのだ?
遮那「なんら!?…身体が自由に…動かないら…」
突然の痺れと目眩に遮那は膝をつき、震える身体を抑えながら倒れ込む?
「あぐぅああ…」
身動きが取れない無防備となった遮那に蛇神はゆっくりと近付きながら言った。
蛇神「ふふふ…どうやらお前は仲間に毒を盛られたようね?ふふふ…哀れな異国の神よ!」
遮那「毒を…盛られたらと?」
そこで遮那は思い出したのだ。この洞窟に入ってくる際に仲間の武神から手渡され、何の疑いもなく飲み干した水の事を…
(あの水に何か入っていたらか?毒?いや、毒じゃないらな…これは強力な痺れ薬らか…!?)
遮那「駄目ら…動けないら…」
それでも踏ん張ろうとするが、とうとう遮那は身動き取れないまま地面に倒れ込んでしまった。
蛇神はゆっくりと倒れている遮那に近付き…
そのまま何もせずに離れて行く?
遮那「ど…どういうつもりらぁ……!?」
遮那を見過ごし立ち去る蛇神は…
蛇神『やめたわ!お前は殺さんよ…哀れな迫害されし異国の神よ…ふふふ…』
遮那「!?」
蛇神『このまま戦えば私もお前もただではすまないだろ?いや、共倒れだってありえるわ!手負いのお前は例え死しても私に向かって来るだろうて?私はここで死ぬ訳にはいかない…私にはやがて現れる『王』を支える役目があるのだから!お前の命はそれまでお預けにしてやるよ?しかし、ゆくゆく忘れない事…お前の命はいずれ必ず私が奪いに来るわ!それまで仲間だと思っている者達に寝首を刈られない事ね?ホホホ…これは預言…それまで私の名前を記憶しておく事!私の名前は『白蛇姫』!暗黒世界の王に仕えし従者なり!オホホホホ…』
その瞳は別の獲物に向けらていた。そして崩れ落ちる洞窟を後にして消えていったのである。
遮那「待つ…ら……」
そこで遮那もまた白目を向いて気を失ってしまったのだった。
どれくらい気を失っていただろうか?
遮那は意識を取り戻していた。
まだ動かぬ身体を引きずりながら、前へ前へと洞窟の出口へと向かって行く。
仲間達を助けに…
『うぎゃああああああ!』
『いやだ!いやだ!いやだ!助け…ぎゃあああ!』
『痛い…アッ!痛い痛い痛い…い……』
『死にたくなぁ…ぃ…』
洞窟の外から仲間達の断末魔が聞こえてくる!
(助けなきゃ…)
だが動かぬ身体はもどかしく、仲間達の死を前にして何も出来ずにいた。涙を流しながら遮那は前へと前へと進んでいた…
洞窟の中では変わり果てた仲間達の姿が幾つも転がっていた。無残にも肉がただれ落ちた骨だけが生々しく置かれていたのだ。
遮那「あぅぅ…助けると誓ったらに…オラは!オラは何をしているらか…何をしているんらぁーーー!!」
洞窟の至る場所に転がる骸骨に涙して、身体を引きずりながら遮那が最後に見たのは?
遮那「!!」
そこには少年の者と解る骸骨が、仲間を庇う形で原型を残しつつ洞窟の隅にあったのだ。
遮那の脳裏に浮かぶのは、自分に話し掛けて来た少年神の姿であった。
そして、その時の約束と会話が鮮明に思い出される。
少年神に強くなるためにはどうしたら?と尋ねられた遮那は…
遮那「つ…強くらか?そうか!強くなるにはらな…そうら!仲間を大切にして守る様にするら!守りたい気持ちが力を与えてくれるら!」
少年神「…守る?」
遮那「そうら!力無き者達を凶悪な魔物から守るためには強さが必要らろ?オラ達は少しでも多くの力無き者達を守るのが役目なんら。強さとは守った分だけ気付いたら身についているもんなんらよ!」
少年神「守るための力ですか…はい!解りました!ありがとうございます!天蓬元帥様!僕は元帥様のように強く!弱き者を守れる武神になります!」
少年はあの時の遮那との約束を守り、勝てるはずのない相手に震える幼い身体で仲間を庇いながら『守りながら』死んでいたのだ。
遮那「あっあっあっ!あぁあああ!!」
遮那は自らの頭を地面の岩に叩きつけた!
何度も!何度も!
遮那「オラが!オラの言葉を信じたばかりに!オラがこの者と約束したばかりに!逃げられたかもしれない……一人なら逃げられたかもしれないのに…生きていられたかもしれないのに……オラの!オラのせいらぁーー!ウワアアア!」
遮那は少年の骸骨の前で泣き叫んだ。
遮那「動け!オラの身体よ!後の事はどうなっても構わないら!今だけ!今だけ!動け!動け!」
遮那の手足は薬の痺れだけでなく蛇神から受けた傷が癒えずにいた。蛇神の蛇気が再生を鈍らせているのである。
「動かない身体なら…破壊すれば良いら…」
遮那は己の動かぬ手足に噛み付いたかと思うと、辛うじて動いた右手で強引に引き契ったのである!?そして同時に手足の再生をも行ったのだ!?
大量の血が流れる…
正気の沙汰ではない…
しかし今の遮那には他に考えられなかったのだ!
使い物にならない身体なら、根元から壊して一から再生し作り上げた方が早い?
激痛!?痛みで気を失いそうであった。しかし、万が一にでも意識を失えばそのまま再生出来ずに死に至る。
遮那は激痛に耐えながら血の混ざった涙を流して、目の前の少年の姿を目に焼き付けて意識を保った。
遮那「うぐおおお!」
そして、遮那の新しい手足が見事に再生を遂げた。見た目が再生されたからと言っても直ぐに自由に動かせるわけではない。だが、遮那は再生されたばかりの手足でふらつきながら気力で立ち上がったのだ。
遮那「今…今行くらよ…」
遮那はまだ生存者が残っていると信じて…仲間達のために、よろめきながら前に進む…
その涙を尽きることなく流しながら…
次回予告
遮那と討伐隊の悪夢・・・
悪夢が覚めた時、遮那の前には?




