闘神再生!
唯我蓮華、第三章!
それは、確執の物語・・・
闘神と呼ばれし少年の物語
それは語るには悲しき父子の物語。
天界を守護し『天』と呼ばれる四天王の一角である托塔李天王[毘沙門天]。
最高神である玉皇大帝の命令で魔王鎮圧に地上界へと出陣した際、そこで素知と呼ばれる女と結ばれ子を授かる所から始まった。
托塔李天王の第一太子であるキンタは釈迦如来の弟子であり、第二太子のモクタは観音菩薩の弟子になるほど優れた遺伝子を受け継いでいた。
父親である托塔李天王は大いに喜び、我が子達に大層期待をしていた。
そこに第三太子が誕生したのだ。
第三太子の名は…
ナタ太子
その日は托塔李天王が産まれたばかりの息子の初顔合わせと、妻と子の待つ神殿に向かっていた。
そんな中、天界と争いを繰り返していた竜神族が托塔李天王の妻と子供を人質にするために拉致を試み、神殿に侵入したと情報が入ったのだ!
だが、神殿の妻と子の待つ部屋に慌て急ぐ托塔李天王は、そこで信じられぬものを目撃する。
既に侵入していた竜神族が妻と子に迫った直後…
突如妻が抱いていた赤子が光り輝き、その閃光が迫り来る竜神族の兵士を消し去ったのだ!!
托塔李天王(…今のは息子の?ナタの力なのか?)
驚きながらも安堵した托塔李天王は妻と子に駆け寄る。そして妻の安否を確かめた後、眠っている我が子を抱き抱えた……その時!?
托塔李天王『まさか!馬鹿な…そんな事が…!?ありえん!!』
托塔李天王は顔を青ざめつつ、妻に子を手渡すとそのまま無言で部屋から立ち去って行った。
その顔は思い詰めたような、酷く険しい顔付きだったと言う。
この一件より、托塔李天王はナタ太子の住まう神殿には近寄る事なく、一度足りとも顔を合わせる事はなかった。
やがてナタ太子も成長[人歳十歳]し、物心付いて父親の武勲を知り憧れを抱いていく…
しかし…
ナタ太子(どうして父上様は私を避けているの?)
ナタ太子は少しでも父親に認められたく、その幼少の身で討伐隊に志願する。
最初は周りの大人の武神達も心配していたが、それはナタ太子には無用であった。その力は大人の武神顔負けの力量であり、次第に功績を積み重ねていく。
流石は托塔李天王の御子息と噂されるなか、托塔李天王はその噂を快くは感じてはいなかったのだ。
そして噂の中で耳に留まったのは、ナタ太子が魔物討伐の際に一度死にかけるほどの危機に陥った事があった。その場で目の当たりにした者達が口にしたのは…
『ナタ太子の瞳の色が変わったのだよ…!その途端凄まじい力を発揮して、目の前の魔物を撃ち破ったのだ!』
その話を耳にした托塔李天王は、無言で立ち上がり妻とナタ太子のいる神殿へと押しかけたのだ。
その手には大刀を携え…
托塔李天王のただならぬ形相に、神殿を守護していた武神達も動揺を隠せないでいた。
だが、托塔李天王の行動を止められる者など一人もいるはずもない…
ただ、これから起きるであろう惨事に、見て見ぬふりをするしかなかったのだ。
托塔李天王が部屋の扉を開けると、そこには妻とナタ太子が托塔李天王訪問の噂を聞きつけ出迎えていたのだ。
素知夫人「貴方?今日はどんな理由でお越しで?突然なので驚きましたわ!少し遅れますが出迎えの支度を致し……」
だが、托塔李天王は妻の言葉を遮るかのように告げた。
托塔李天王『お前は今よりこの部屋より出て行くが良い!これから起きる惨事を見せたくはないからな?』
素知夫人「それは、どういう?」
托塔李天王『出ていけ!今から俺がナタを殺す!その現場をお前に見せる事が酷だと言っているのだ!』
素知夫人「そんな!どうして!?」
泣き叫び、しがみつき止める素知夫人を払いのけ、托塔李天王はナタ太子に向かって進んで行く。
部屋の扉を開くとナタ太子はただ静かにその場に立っていた…
その姿は脅える事も逃げる事もなく。
托塔李天王がナタの正面にて立ち止まり、ナタ太子に言葉をかける。
托塔李天王『理由もなく不条理に殺される事に不満であろう?何か言い残す事があれば聞いてやろう?申して見よ!』
托塔李天王はナタ太子に対して、自分自身への怒りや恨みを受け入れるつもりでいた。
だが、ナタ太子は?
ナタ太子『父上が望まぬ命なら、頂戴しこの身を父上へと返上致しましょう…』
托塔李天王「!!」
すると托塔李天王の目の前でナタ太子が起こした行動は、その小さな掌に神気を籠めて…?己の心臓に向けて受け止めるように放ったのだ!
その一撃は雷の如くナタ太子の身体を打ち砕き、その幼い肉体は見るも無惨に木っ端みじんに砕け散ったのだった。
我が子の突然の死に衝撃を受けた素知夫人は、声にもならぬ悲鳴をあげて気を失い、托塔李天王は息子の見事な自害に対して…
『見事な散り様だった!』
と、死した息子に対して初めて心から褒めたのだ。
それが唯一の救い…?
そんな救いに…
何の価値があるのか?
その一部始終を千里眼にて見ていた者がいた。
『托塔李天王…お前、早まった事を……魂の片割れを失えば、お前とてただでは済まないと言うのに……』
その者は掌を翳すと空間が歪み、辺りは光の竜巻が渦巻く世界に立っていた。
『西方極楽浄土』
その者が掌を竜巻の中へと押し込めると、その表情は苦痛に耐えながらも、その渦の中から何かを手に掴み引っ張り出したのだ?
『ナタ太子…お前の魂はまだ消えるには惜しい…今一度チャンスを与えよう…』
そう言って、その場から消えていく。
その夜、素知夫人は夢を見た。
夢はお告げ。
『ナタ太子の行宮を建て、三年間受香すれば再びナタの魂は蘇るであろう』と…
素知夫人は毎日欠かさずに行宮に篭り、受香を続けて三年の月日が経とうとしていたその時…
その事の次第が托塔李天王に発覚し、再びナタ太子の復活を妨げようと行宮を破壊し、中央の蓮華の花の中から抜け出しながら再生間近のナタ太子の魂に向けて斬りかかったのだ!
『復活は必ず阻止してみせる!ナタよ!今一度我が前より消えよぉーー!!』
その振り下ろされる大刀がナタの魂をも消し去るかと思われた……その直後!!
ナタの魂が凄まじい光を放ち、迫る托塔李天王の振り下ろした大刀を神圧にて押し止めたのだ!?
托塔李天王『クゥ…小癪な力だぁ!…やはり!!』
托塔李天王の見たナタ太子の霊体の瞳は金色に輝き、凄まじい力が生きようと足掻くように托塔李天王を寄せつけなかった…
托塔李天王『金色の魔眼…いや、救世の力か!だが俺も負けられぬ!我が聖天の力こそが終末の混沌より世界を救う力なのだからなぁーー!!』
托塔李天王の力がナタ太子の金色の神圧をも押し込んで行く…
その時だった!
《お止めなさい!托塔李天王…いや、ヴァイシュラーヴァナよ!》
二人の神圧を消し去る程の第三者の『力』が、その場を鎮圧させたのである。
托塔李天王は剣を鞘に納めると、その者を凝視する。彼は目の前の存在を知っていたのだ。
托塔李天王『これは私達家族の問題だ!口を挟むのは止して貰おうか?』
《………………》
托塔李天王『正直、驚いた。まだ貴方にそれだけの力が残っていようとはな?流石はかつて神々を導いた救世主と言ったところか?だが!今の貴方は世界を守りきれなかった上、いまだ今世に執着して生き残っただけのカケラに過ぎん!この世界は俺達に任せて早々に退いて貰おうか?』
『ブッダ釈迦よ!』
すると光輝く者は姿を現したのだ。
褐色の肌に白髪の若者…
神々しいオーラに包まれたこの存在の名は釈迦如来と呼ばれる最高仏神であった。
釈迦『お前にナタを消させる事は私の目論見に反するのでな?』
托塔李天王『目論見だと?貴方は何をするつもりだ?もしや私ではなく、ナタに世界を任せるおつもりか?片腹痛い!!』
釈迦『…お前はナタに何を怖れる?』
托塔李天王『怖れるだと?ふざけるな!俺の力は転生前から変わらぬ。俺が…いや、俺達聖天こそが世界を救うのだ!そのためには…』
釈迦『救世主の魔眼が邪魔か?』
托塔李天王『・・・・・・』
釈迦『ならば私と取引をしようではないか?』
托塔李天王『取引だと?』
すると釈迦はナタ太子[魂]の瞳に指を突き刺し、その輝く両瞳を引き抜いたのだ。
托塔李天王『何を!?』
するとナタから抜かれた瞳は輝きつつ、釈迦の掌にて形を変えていく?
それは金色に輝く宝塔!
《如意黄金宝塔》
釈迦はそれを惜し気もなく托塔李天王に手渡すと、托塔李天王はそれを受け取ったのだ。
托塔李天王『何が望みだ?惜し気もなく魔眼の力を俺に渡してそちらに何の得があると?』
釈迦『私はナタをこのまま死なすには惜しいと感じたまでの事。この先の世界の命運は貴方にお任せしようか?私は見守る事しか出来ないのだから……』
托塔李天王『ふん!良かろう。取引は受け入れてやる!』
そう言って、托塔李天王はその場を去って行ったのだ。
そして残された釈迦は手にした蓮を消えかけていたナタ太子に振り掛けると、それは骨と肉と化して肉体を蘇生させていく…
釈迦は起死回生の真言を唱え終えると、ナタ太子は完全に復元して甦ったのだ。
喜ぶ素知夫人は甦ったナタ太子を抱きしめ、泣きながら釈迦如来に感謝をする。
釈迦は目的を成し遂げると、その場から消えていた。
《ナタ太子…お前の命はこのような事で消えてはいけません…
お前はいずれ……フフッ》
この日を境に、ナタ太子は名を『ナタク』と改める。
しかし、甦ったナタクには…
かつてあった心までは甦ってはいなかった。
次回予告
再生したナタクは戦いの人生に身を投じる。
そんなナタクの前に現れたのは?




