二人の任務?
宝天だけでなく哮天をも失った真君。
その悲しみは真君を・・・
あの忌まわしき二つの事件より、友であった宝天だけでなく哮天をも失った真君は数日間目を覚まさなかった。
流石の玉皇大帝もそんな状態の真君を憐れんで、特別罰を与える事もなかった。
そして・・・
数日後、真君が目覚めた時、その雰囲気がかつての真君とは少々変わっていたのだと言う。
あの弱々しく頼りなく思えた真君の顔付きが見違えるほど凛々しくなり、武術の訓練、学問に浸りきりになったのだ。そして、その才能を開花させていった。
真君に対して諦めかけていた玉皇大帝だったが、その後の彼の成長ぶりには驚かされつつも満足していた。
成長した真君は二郎真君と名を改め、武神候補生が集う訓練所に通い始める。しかも、優れた才能の一流の神しか入れぬエリートの訓練生となる。
そこでも二郎真君の才能は桁外れていた。
周りの武神教官達は彼を未来の指導者になるだろうと口々に噂するほどに。
二郎真君はこの訓練所でいつも一人だった。
友を作らない二郎真君に対して周りの同い年の候補生達もまた、その二郎真君の近寄り難いオーラを感じ、憧れつつも誰も声をかけられないでいた。
他人よりも長く訓練を熟し、暇さえあれば難しい書物を読みあさり、そんな日々を毎日欠かさないでいた。
まさに優等生の模範的存在。が、そんな二郎真君に嫉妬し、敵意を剥き出しにする者達も少なからずいた。それは武神候補生の先輩達であった。
先輩達は数人で二郎真君を囲み、人目のつかない場所へと連行する。
「顔には傷をつけねぇよ?跡が残るからな?」
そう言ったのは二郎真君の方であった?彼の足元には数人の先輩達が疼くまって倒れていたのだ。
二郎真君「ふん!人を見かけで判断しない方が良いですよ?せ・ん・ぱ・い!」
立ち去る二郎真君…
二郎真君はあの日以来、心が荒ぶっていたのだ。
表では優等生、しかし裏では喧嘩の毎日…
自分のウサ晴らしの如く、そんな日々を過ごしていたのだ。
すると、一人立ち去る二郎真君の後方から…
「お~い!真君~!」
彼の幼名を呼ぶ者がいた。
(チィッ)
二郎真君は一瞬ムッとするも、その呼びかけを無視して歩き去ろうとする。
「無視するなんて酷いじゃないかぁ~?真君~!」
後ろから追い掛けて来て真君の行く道を塞いだのは、髪を背中まで伸ばした美しい娘であった。
いや?
娘と見間違うほど美しい二郎真君と同じ歳程の少年だったのだ。
二郎真君「止めろ!うっとおしい!俺に関わるな!揚善!」
彼の名前は『揚善』
二郎真君の親戚らしく、以前玉皇大帝に紹介された。しかし彼の出生や素性は玉皇大帝以外誰も知らなかったのだ。
この揚善の驚く事は見た目の女々しいギャップと違い、二郎真君と並ぶ程の天賦の才を持ち、邪険にしながらも二郎真君もその実力を認めていた。
しかし二郎真君にとって揚善と言う男は馴れ馴れしく、いくら突き放しても纏わり付くまさに厄介者だった。
揚善「真君が無視するからだよ?かまってよ~」
揚善は二郎真君の袖を引っ張りながら、上目遣いで懇願すると…
二郎真君「誰がカマってやるか!このカマ野郎!それに俺は忙しい!何か用件があるなら早く言え!」
二郎真君は甘える揚善を放置し帰ろうとすると、
揚善「あっ…!」
二郎真君「どうした?」
揚善「そうそう!教官が呼んでいるので探しに来たのですよ~」
二郎真君「馬鹿者!そういう大事な事は先に言え~!!」
ニコニコしている揚善に苛立つも、教官からの命令と言う事なら仕方なく共に訓練所にある教官室へと向かう事にする。
二郎真君「で、教官は何の用だと?」
揚善「さぁ~?僕は呼んで来るように言われただけだからね~」
二人が教官室の前に来ると、その扉に向かって…
『二郎真君、揚善!両者参りました!』
すると教官室の扉が光り輝き、ゆっくりと開かれる。
二郎真君と楊善は緊張しつつも部屋の中へと入って行く。
「…まさか喧嘩がバレたか?誰かが報告したのか?」
中には二人を囲むように教官達が椅子に座して見下ろしていた。例えるなら裁判室のような部屋である。二郎真君と揚善はその中央に膝をつき頭を下げると、正面の教官が二人に指令を与えたのだ。
二人はその指令を聞いた後、部屋を後にする。
揚善「良かったですね?喧嘩がバレたのではなくて?」
二郎真君「うるさい!」
さて?二人は何を命じられたのか?優秀な武神訓練生には稀に上から指令を与えられるのだ。それは近隣の村の救済や、魔物や天界の平和を乱す者達が良からぬ事を計画していないかを調査する事が多い。その後、報告した後に本格的に武神達が討伐に向かう事になる。今回の任務は偵察であった。偵察であろうと命懸けの任務である。
二郎真君「はぁ~やれやれ!まぁ、仕方ないか…」
揚善「?」
二郎真君「よりにもよって何故こいつと一緒に?ぶつぶつ…」
揚善「あの~そういうのは声に出さない方が私が傷付かなくて良いと思うのだけど?真君?」
二郎真君「うるさい!そもそも俺を『真君』と呼ぶな!馴れ馴れしい!」
揚善「え~?良いじゃないですか?し・ん・く・ん!」
揚善は二郎真君の腕に自分の腕を絡ませて来る。
二郎真君「ダァーッ!やめないか!気持ち悪い!」
揚善の腕を力任せに払い退けようとすると、まるで空気を切ったように空回りする。それは揚善が払い退けると同時に躱したのだ。
二郎真君「!!」
(チィ!普段なよなよしてるから、コイツがただ者じゃない事を忘れてたぜ!)
揚善「フフッ」
二人に与えられた偵察とは、ここ最近になって噂になっていた村人の失踪事件に化け物の目撃談についての調査であった。実は二人より先に先陣達が向かったのだが、連絡が途絶え戻って来なかったと言う。
二郎真君「しかし俺達のような訓練生には荷が重いのではないか?」
揚善「それだけ信頼されているのですよ?」
二郎真君「なら良いのだがな…」
二人には他に優秀な候補生が五人部下に付き、二郎真君がチームリーダーに任命された。二郎真君達は身仕度を終えた後、チームを連れて化け物が多発すると言われている村へと足を運んだ。
先ずは近隣の村や目撃者達からの聞き込みを開始し、集めた情報をまとめる。
揚善「そうですね…」
揚善は地図を作り、目撃談から化け物出現場所の範囲を狭めていく。
幾つかの出現地点を結び、その中から怪しい場所を搾り出す。
揚善「この二ヶ所辺りを手分けしてみますか?」
二郎真君「そうだな…」
的確な判断に二郎真君は感心しつつ揚善を見詰めると、それに気付いた揚善は…
揚善「惚れ直しました?」
二郎真君『馬鹿者ぉーー!』
調子を狂わされる二郎真君であった。
(だが、何だ?この気持ちは?不思議と……不快じゃない…)
その日は村に世話になり宿泊をする事にした。
二郎真君「我々の任務には先に向かった調査チームの行方を探す事も入っている。何か解り次第報告をするように!後はくれぐれも油断と無理はするな?」
共に来た訓練生達は二郎真君を信頼しきっていた。同じ世代の訓練生であるはずなのに、下手な上官よりも信頼を寄せられるだけの品格を感じるのだ。
それはカリスマと言うのだろうか?二郎真君にはそれがあった。
その夜…
二郎真君は一人外に出て星を眺めていた。
(誰かと任務で絡むのは正直嫌だ…さっさと終わらせよう…他人の命を背負うのは勘弁だ…)
そんな二郎真君を隠れて見ている者がいた。
揚善である。
揚善「…真君……君は…」
その手は胸を締め付けていた。何かを秘めるように…
そして明朝…
二郎真君と揚善をリーダーに二チームに分け、怪しいと思われる出現目的地へと向かった。
二郎真君のチームは森の中にいた。
だが、そこからは何も見付けられなかった。
一方、揚善と三人の訓練生の向かった先には?
揚善「クッ!皆、散らばって術で攻撃を!」
揚善の指示に共に来た訓練生達が印を結び、術を唱える。
その先には!?
獣の姿をした化け物がその鋭い爪を振り回し、揚善達に襲い掛かって来ていたのだ。
それは揚善達がこの地に着いた時、怪我をしていた武神が倒れていたのを見付けた。それは先に向かった先陣達の生き残りに違いなかった。直ちに揚善達が手当てをしようと近寄った時だった…
その怪我を負った男が突然暴れだして、その傷口が塞がり、肉が膨張し肥大していったのだ?
揚善「まさか…こんな事が!?」
そして目の前にいた男は完全な化け物と化して、揚善達に襲い掛かって来たのである。迫る化け物の猛攻に流石の揚善も追い詰められていく。他の訓練生達は脅えて使い物にならなかった。
揚善「うゎあああああ!」
そんな状況を知らずにいた二郎真君は…
二郎真君「!!」
二郎真君の手には揚善から渡された勾玉が握られていた。それは調査に向かう前に揚善から貰ったのだ。
楊善「僕だと思って大切にしてね?」
二郎真君は渋々その勾玉を持っていたのだが、それが突如割れたのだ?
再び場所は訓練所にいる教官達。
『あの者達で本当に良かったのですかね?』
『下手をしたら死なせてしまいかねませんよ?』
『せっかくの優秀な人材を捨てるつもりですか?』
『あの件には優秀な武神達が向かい、一人とて戻っては来なかったと言うのですよ?なのに訓練生を向かわせるなんて…』
『しかし、我々もあの方からの命令であれば従う他あるまい…』
『…………………』
二郎真君達は一体どうなるのだろうか?
これは何者かの策略だったのだろうか?
真相は謎のまま…
次回予告
謎の失踪に魔物の出没事件。さらに何者かの陰謀?
二郎神君と楊善は生きて帰れるのだろうか?




