果てしない茨の道!
天蓬元帥の称号を与えられた遮那。
遮那の険しくも試練の道が始まった。
天蓬元帥
その栄光なる称号を与えられた遮那の生活は著しく忙しくなった。
天蓬元帥の職務とは天界の至る地から依頼があれば、直ちに向かい武神達の筆頭として悪意を持った妖怪を討伐する事。
しかも元帥クラスが向かう先は、決まって並の武神が手に負えないものばかり…
中には最高神に反旗を翻し反乱する神々の内乱をおさめる事。はたまた邪悪な負の気が意思を持って邪悪な魔物へと変貌し、神や人間の脅威の討伐等…
遮那は朝から晩まで身を粉にし寝る暇もない程、ハードなスケジュールを熟していたのだった。
来る日も来る日も戦場に身を投じていく遮那…
他の武神達もそうなのか?
いや、普通ならこんなハードスケジュールは有り得ないだろう。
(オラは周りから疎まれているかららろうな…)
遮那が天蓬元帥の称号を与えられた事に不満を抱く上層部が、危険で無理難題な仕事を回している事は察しがついていた。
しかも魔物との戦いの最中に、仲間から命を狙われる事も度々あったのだ。
(刀や弓矢が仲間陣地から飛んで来る事は日常茶飯事ら…多分、昔オラが命を奪った者の肉親や友人…関係者といった所らろう…)
遮那は見て見ぬフリをしていた。
多分、昔の遮那なら殴り掛かって返り討ちにしていただろう…
しかし、遮那は変わった。破壊神ではなく、天界を護りし武神として…
天蓬元帥として!
(オラは今、試されているんら…)
そんな茨の道を歩む遮那にも唯一の楽しみがあった。遮那は任務を終えた後、急ぎ足で捲簾の待つあの静かな住家へと帰って行く。
(捲簾が美味い飯を作って待っていてくれる。
頭を…頭を撫でて…褒めてくれる…だから…
だから、大丈夫ら!
いつか必ず誰もが認める天蓬元帥にオラはなってやるら!
それがオラの償いらから…)
遮那の瞳には決意があった。覚悟があった。
そして月日が流れていく…
そんな遮那にも次第に嫌悪の目から、尊敬や憧れを抱く者も現れ始めた?
それは、まだ見習いの若い少年神達であった。
彼達は過去の惨劇や遮那の恐怖を知らない…
遮那が向かう戦場では怪我人こそ出るが、不思議と戦死者が一人も出なかったのである。
遮那は力のない若い武神達を守りながら戦っていたのだ。一人でも多く守り抜くため!犠牲者は一人も出さないために!
仲間が危険だと気付けば瞬時に助けに入り、場合によっては敵からの攻撃を庇い自分が斬られた事も幾度とあった。
仲間の無事とは反比例するかのように、遮那は毎日毎日傷付いて帰って行く。
もともと遮那には異常なまでの再生力を兼ね備えていた。
それは神の本来持つ再生力とは何か逸した能力であり、本人の意思とは無関係に遮那の身体を再生しているように思えた。
死なない身体…
いや、死ににくい身体と説明した方が良いだろうか?
傷をつけられれば当然それ相応の痛みを感じる。死ぬ程の激痛を幾度と味わっただらうか?
それに首を切り落とされたり、意識がない時に攻撃を受ければ、遮那でさえ命を落としてしまうのだ。
だがその再生力があってこそ、遮那は今まで死なずにいる。
もしこの異常な再生力がなかったなら?
遮那は既に生きてはいなかったはずだ。
遮那の身体はいつも傷だらけであった…
一人ならそんな傷は負わなかっただろうが、仲間達を庇い守りながらの戦う事は人一倍神経を使うし、それだけ隙や弱点も増えていくのだ。
その弱点を付け込まれる事も多々あった。当然だろう!相手もまた命をかけた戦いなのだから、遮那のような出鱈目な強さを持つ者を相手にするなら、どんな卑怯な策も使って来ても仕方ないだろう…
それでも遮那は負けられなかった。
自分が負ければ[死ぬ]、仲間達もまた死ぬという事なのだから!
例え恨まれ憎まれようとも、目に見える全ての命を守る事が自分自身の使命だと信じて…
苦しみや痛みを堪え立ち上がり、他の武神よりも前へ前へ…
だが周りの少年神達の尊敬の目は、それでも必ず戦場より生きて戻り、任務を達成していく。その遮那の圧倒的なる『強さ』に惹かれていたのだ。
その背中を見た若き武神達はそんな遮那を…
敬意と憧れから『黒き天蓬元帥』と呼ぶようになっていたのである。
それでも遮那は戦場ではいつも孤立していた。
やはり馴染めない…
若い武神が友人らしき者達と会話している時に、寂しく感じる事がある。
何せ遮那もまだ若く、戦場には不釣り合いな少年神なのだから…
しかし、遮那は思う。
帰れば捲簾がいると!
自分は一人じゃないと!
それが遮那の唯一の救いであり、支えであった。
遮那「今日は一人も怪我人出さなかったらよ!こりゃ喜ぶら捲簾の奴~」
ニヤニヤしながら遮那は戦場を後にして一人帰って行く。
「今日の飯はなんらかな~」
捲簾の待つ場所へと…
第一部…『破壊神の少年の章』 …完
さて、遮那と捲簾の物語はこれにて一度幕を閉じさせいただこう。
ここは人間界…
豪雨が降り続く今、川の水位が上がり次第に濁流となって人間の村を飲み込もうとしていたのである。
長老「ぬおぉ…!幾度と被害にあった川の濁流の猛威に、策と労力を重ねダムを作り上げたと言うのに…やはり自然の脅威には勝てぬと言う事なのかぁ!?神よ!成すすべのない我々人間には滅びるしか道がないのでしょうか?我々には…もう生きる道はないのでしょうか…!!」
村人達も天を仰ぎ涙を流しながら、濁流に飲み込まれ流されていく自分達の村を見つめ、次に来る自分達の死へのカウントダウンを数えながら生きる事を諦めかけていた。
押し寄せる濁流…
誰もが天を仰ぎ目を綴じたその時だった!?
『か…神よ……』
その時、
突如空が光り輝いたかと思うと雲が割れ、そこから神々しい光が降りて来たのである。
『諦めるな!人間達よ!
お前達が生きる事を諦めぬのであれば、我々はお前達を見捨てはしない!
生きる事を諦めるな!さすれば私がお前達の生きる道を示してやろう!』
それは神??
青き甲冑を纏った凛々しき神が降臨したのである。
(川の曲がり角に村があるから、曲がりきれぬ水の勢いが村に押し寄せてしまうのか?)
「だったら!!」
『いでよ!哮天犬!』
その凛々しい神の背後から現れた美しくも白い犬獣。それは背に先端が三つの刃の大刀を乗せていた。
『三尖両刃刀』
神は犬獣の背にある三尖両刃刀を手にすると、向かって来る濁流に向かって…
『一刀両断!猛導剣!』
※モウドウケン
強烈な一降りを放ったのだった。
凄まじくも強烈な斬撃波が濁流に向かって放たれたかと思うと、大地をえぐり、押し寄せる水流を押し戻していく。そして目を眩む程の閃光が辺りを覆い隠した。
そして再び村人達が目を見開いた先には、曲がりくねっていた川の道が大地を削り取られて一本の真っ直ぐで巨大な『道』が出来上がっていたのだ。
濁流は新たに出来た川の溝の道を流れていく。
『これで前のような激しい濁流が押し寄せる事もなくなるだろう…』
村人達は降臨せし神にいつまでも涙を流し感謝した。すると神は再び天へと昇り消えて行ったのだった。
その神…
名を『顕聖二郎真君』
その雄々しく勇ましい武勇伝から、天界の英雄神と讃えられていた武神。
そして再び物語は今より更に過去へと遡っていく…
それは遮那がこの地に来る前の話へと…
英雄神が英雄となりし伝説の物語。
次回予告
遮那の物語はしばし幕を閉じ、物語にも出て来た二郎真君にスポットが当たる?
英雄神としてその名を天界に轟かせた二郎真君の少年時代が語られる。
唯我蓮華~英雄の涙~




