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狼煙を上げろ 1

「諸君。時は来た。今こそ、我らがこの国の目を覚まさせるときだ。」


薄暗い広場の中、杖をついた男が壇上に立ち目の前にいる軍服を着た幾千の集団へ言葉を向けた。

集団はピクリとも動かず、石像のように休めの姿勢をとっている。目は男に焦点を当て、野獣のような瞳で食い殺すかのように、視線を合わす。シンとした静けさが嵐の前の静けさのごとく、禍々しい気を放っていた。


「この国は、腐ってしまった。もはや取り返しのつかない愚かな人間の溜まり場となった。それは、諸君も感じていることであろう。

かの戦争に負け、我らの祖先は歯を食いしばりながらもこの国を再び、頂天へと登り詰めることができた。陽はまた昇る。上がらない太陽などない。日出ずる国、日本。それが我らがここで生を受け、そして死に、また命が受け継がれていき、後世へと血を残していく使命であると我輩はそう思っているのだ。」


男は杖をつきながら、壇上を歩き回る。杖の持ち手には、蛇の牙でクロスされたものが描かれていた。

カツン、カツンと乾いた音が消えることなく集団の耳へ残していく。心臓のような動きと共に、集団は静かに意気揚々としていた。


「諸君よ。愛国心はあるか?愛人はいるか?親友はいるか?家族はいるか?趣味があるか?仕事は好きか?信仰心はあるか?性欲はあるか?学ぶ意志はあるか?護りたい意志はあるか?

遺志を受け継ぐ覚悟はあるか?覚悟を備える度胸はあるか?度胸と兼ね備えた根性はあるか?根性で立ち向かう愛はあるか?

愛と憎悪は紙一重か?憎悪の先にあるのは勝利か?犠牲なくして勝利はあるか?勝利した者が正義か?歴史とは正義が書き換えたのか?ならば、敗者は悪となってしまうのか?」


広場は変わらずシンとしていた。誰も変わらず、微動だにしていない。男の重い口が開き、次の言葉を吐いた。


(いな)ッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎

諸君。我らは勝たなければ、無意味な存在としてこの国から消されるであろう。何故なら、敗者は悪として歴史に名を残すだけだ。

しかし、沈まぬ太陽はない。死んだ太陽は赤に染まることなく、地獄の血で乾いた黒として、また陽は昇っていく。そうだ。我らは死の太陽、黒太陽を胸に刻み、戦を勝利へ暗黒に導くのだ。」


男は拳を握りしめ、心臓の位置に手を当てる。すると、先ほどまで微動だにしなかった集団が一斉に、男と同じポーズをとった。足を閉じ、軍靴の音が爆発音のごとく広がる。組織の人間は、相当な練度を持っていた。


「諸君。我らは蛇である。忌み嫌われ、人間から好かれることなく、猛毒を持った肉食の爬虫類だ。

踏まれ、唾、痰を吐かれ、舌を切られ、目を潰され、挙げ句の果てには全身の皮を剥がれ、最終的にゴミとして廃棄される。悲しい運命だ。そう、我らと蛇は似た者同士だ。


しかし、牙を抜かれたわけではない。憎しみと共に猛毒の力は、強くなっていく。一噛みすれば、人間なんぞすぐに瞬殺できる。所詮、奴等はそういう生物だ。丸呑みなど、容易い。全て、我らが食い飽きるまでこの国の人間を食いつぶせばいいのだから。」


カン、カン!と杖を壇上に叩きつける。集団は一斉に元の姿勢へと戻る。


「我らは黒太陽と蛇、この2つがついている!胸に地獄の太陽、背に蛇の牙!敗者として、悪として、勝利を刻み、正義を成し遂げる!全てを失った我らに、失う物はない!

逆らう者は殺せ!怨みをもって、応報せよ!愚か者に猛毒の牙を!赤い日の丸を血に染めよ!

我らの任務は、ただ一つ!この国、日出ずる国、日本国を!我らの地獄の血で暗黒に染めるのだ!



それが、我ら!日本黒軍(にほんこくぐん)としての使命であーーーーーーーる‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


男の太い声が地響きを生み、広場を振動させる。更に、集団からウォォォォ‼︎‼︎と、雄叫びが上がった。

右手を高らかに挙げ、手にはナイフを所持していた。今にも、目の前の人物の首を掻っ切りそうな勢いである。

再び、カン、カン!と男が杖を鳴らした。雄叫びは一瞬で止み、元の休めの姿勢へと戻った。


「諸君。今こそ、狼煙を上げるのだ。この国を壊すのだ。我ら虐げられた者達の復讐なのだ。この国を滅ぼし、我らの、我らによる、我らのための政治、いや新しい国を建国するのだ!」


男は壇上で高らかに宣言した。


「今宵、我らは日本黒軍としての組織を解散する。よって、本日をもって真日本帝黒軍(しんにほんていこくぐん)として、名称を変える。異議のある者はおるか?」


誰も異論を唱える者はいなかった。むしろ、感激していたのだ。


『バンザーーーイ‼︎‼︎真日本帝黒軍、バンザーーーイ‼︎‼︎』


万歳を唱えた集団は止むことなく、ひたすら万歳を行った。誰も止めようとしない。男は壇上を去り、やがて姿を消した。




「おい、今日から名称を変えるだとよ。全く、ボスもいきなり言うもんだから、俺自身も驚いたな。」


忍びの格好をした男、月光は隣にいる腕組みをした男に話しかけた。しかし、男は月光の話を無視した。フンッと、月光は鼻を鳴らす。

強制改造を施して、まだ理性は残っているのか?いや、そんなことはない。奴には10年分のツケを働いて返さないといけない。特別サービスに薬漬けしておいたしな。

「…………………………」


男は月光を背に、廊下を歩いた。まるで一匹狼のようだ。


「どこへ行く?(ベアード)(フォクシー)が居るのは、正反対の所だぞ。」


男は立ち止まる。やがて、後ろを振り向いたその姿は、まるで餌を探し求めている狼のようだ。瞳孔が開き、目が真っ赤に充血している。顔には太い血管が根っこのように広がっていた。


「………………俺の勝手だ………殺すぞ…!」


すぐに前を向き、男は歩き出した。男の姿が見えなくなった時、月光は溜息を吐いた。

「全く、ありゃ娑婆に戻ってた奴の方がだいぶ、マシだ。まぁ、男は少し生意気なくらいの方が、俺としては信用があるがな。」


月光は男の正反対の道を歩いた。未だに広場からの雄叫びが聴こえる。いい加減、雑兵の大声が耳障りになってきた。


「でも、これからは忙しくなるな。浦元が復活し、奴はもう一つの三獣士の座を狙っている。だが、ここでアイツがどう噛み付くか楽しみだな…」


月光はその場に止まり、男が歩いた道を見つめた。


「楽しみにしてるぞ、(ウルフ)…」


ウルフ。元の名前は川原(かわはら) 一徹(いってつ)。10年前に組織を抜けた裏切り者、三獣士のリーダー、そして、川原 (トオル)が愛するただひとりの兄である。

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