第6話
「なぁ先輩、少し質問していいか?」
今度は大雅が南条先輩に話しかける。
南条先輩は、頭のてっぺんにあるアホ毛をパタパタと動かしながら笑顔で答える。
「お〜!いいね、いいねぇ〜♪じゃんじゃん質問カミーング☆君達の質問ならなんでも答えちゃうよ!なんなら、身長体重スリーサイズやファーストキスの年齢、好みのタイプに性癖まで教えちゃうぅ〜♪」
「「えっ!マジっすか⁉︎」」
思わず大雅と声が被る。
いや、別にそこまで興味はないんですよ?
でも、なんでも教えてくれるって言ってるし、なら少しだけ聞いてみたいなぁ〜って思うのは抗えない男の性でありまして。
これは言わば、男なら誰もが求める『性への飽くなき探求心』故の反応なのだ。うむ、致し方なし。
「大雅様ぁ〜?」
「永児ぃ〜?」
「……と、言うのは冗談だ。な、なぁ永児?」
大雅にアイコンタクトで「俺の話に合わせろ!さもなくば死ぬぞ!」と送られてくる。
俺がエリーナを怒らせている原因はいまいちわからないが、東さんとエリーナ二人の背後には怒りのあまり阿修羅の幻影が見える。
ここで話を合わせておかないと、俺と大雅はミンチ肉より酷い目に合うだろう……そう本能が俺に語りかけてくる。
俺なんて死なないから余計に怖い。
生きたままミンチ肉……うわぁ、想像もしたくない。
「お、おう!冗談に決まってるだよ!あは、あはははっ!」
「えぇ〜!聞いてくれないんだ……でもでもでもっ!幼児体型にも需要はあると思うの……こう見えても夜のご奉仕はすごい得意な方で、特に太ももとかーー」
「先輩おねがいだから止めてくれ!これ以上、そっち方面の話になると俺たちの命が危ないっ!因みに好きな体位と性感帯は!」
「そうですよ先輩!これ以上下ネタぶっこまれると、ミンチ肉より酷い目に合っちゃいます!あ、それ俺も気になる!」
「……言い残すことはそれだけですか、大雅様?」
「……今日の昼食はハンバーグで決定ね」
どうやら、俺と大雅は合挽き肉にされるみたいです。
くそッ!これ程までに、己の本能を憎いと思ったことはないっ!
「え〜っと……体位だとやっぱりせーー」
「「言わんでいいっ!」」
エリーナと東さんの声が見事にハモる。
先輩は「いや〜、見事にハモったツッコミを受けたのは初めてだよ〜♪」と何故か関心していた。
大雅は咳払いをし、真面目な表情で南条先輩を睨む。
「……で、真面目な話、先輩には三つ程聞きたいことがある。まず一つ目、あの二年生Aランカーより劣る雑草以下のプラナリア永児をここに呼んだ理由はなんだ?二つ目、俺たち一年生だけをここに呼んだ理由だ。最後に、アンタの目的はなんだ?」
「お前は真面目な話に俺の悪口挟まないと死んじゃう病気でも持ってんの?終いにゃ泣くぞ」
プラナリアって単語自体久しぶりに聞いたぞ。多分小学生以来だよ。
一人涙目で落ち込んでる俺をよそに、南条先輩は大雅の質問に答え始めた。
「じゃあプラナリ児君にもわかりやすいよう簡単に説明していくね♪」
「略したっ⁉︎」
「おい、話の腰折るんじゃねぇよ。黙って聞け、ナリ児」
「そうですよ。ナリ児さん」
「うわぁぁん!更に略されたぁぁあ!みんなが虐めるぅ!エリーナもなんか言ってやってくれよ!」
「シャラップ、ステイ、ハウス」
「俺は犬かっ!」
プラナリアから犬に嫌なグレードアップをした。
ちょっと嬉しいと思ってしまった自分が情けない。
「まず一つ目の質問に答えてあげよ〜う!これは至って簡単でシンプルな理由だよん☆ズ・バ・リ!竜宮永児君の特異体質にあり☆まぁ、この中で彼の特異体質を知ってるのはエリーちゃんとわたしぐらいなんだけどさ♪これは論より証拠、言葉で説明するより実際に見てみたほうが納得いくと思うなぁ♪」
そう言うと、南条先輩は俺に近づきながら、自分の背中に手を回してガサゴソとなにやら長い物体を取り出し、俺に突きつけてきた。
「テレテレッテレ〜♪M870〜!威力はお墨付きだぞ☆」
「え、先輩……何する気ですか……?」
先輩が背後から取り出したのはなんと散弾銃だった。
よくアメリカのドラマや映画などで太った保安官さんが持っているポンプ式のショットガンを何故先輩が持っているのだろうか……というか、幼女体型にほぼ身の丈ほどのショットガンの絵はかなりシュールだ。
そして、とてつもなーく嫌な予感がする。
冷や汗が止まらない。
もうこれあれですよね……流れ的にあのパターンですよね。
思わず顔を引きつらせながら、もしかしたら俺の勘が外れている可能性もあるかもしれないので、念の為確認する。
「ま、まさかとは思いますけど……マジですか?」
「ガシャコンっと……マジもマジ、本気と書いて本気なので〜すぅ♪」
あ〜……ですよねぇ〜。
俺の嫌な予感は見事的中し、次の瞬間、豪快な音と共に先輩のM870から散弾が発射され、こちらも見事に俺の右肩周辺に命中。
ほぼ零距離で放たれた散弾は、右肩周辺を抉るように肉片と血を撒き散らした。
あまりの激痛に俺は声も出せず、そのまま撃たれた勢いで倒れこんだ。
こ、これはダメだ……痛すぎて意識がぶっ飛びそうだ。
全く血が止まらない……右肩の傷口はまるで血と筋肉を混ぜたかのようにグチャグチャと酷い状態。
その上、骨が丸見えだった。
叫べば少しは痛みが和らぐのだろうが、これはもう声が出せる痛みを疾うに超えている。
自分の心臓の鼓動が早くなっていき、その鼓動の音が耳の奥に響くような感覚すらある。
「永児っ!」
「永児さんっ!」
あまりにも一瞬の出来事だったなのか、大雅と東さんは目の前で起きた突然の事態に驚きと動揺の混ざった声が聞こえた。
それもそうだろう。
いきなり目の前で同級生が散弾銃で撃たれたのだから。
「てめぇっ……自分が何したのかわかってんのかっ!おいっ!」
「今すぐにそのショットガンを捨てて、両手を頭の上に置いて下さい……少しでも怪しい動きをしたら、その細い手脚を斬り落とします」
大雅は先輩の胸倉を掴み、獣の雄叫びのような声で怒鳴り散らす。
東さんは先輩の背後を取り、殺意を纏った声色で刀を突きつけていた。
「ふぇ?何をしたって、みればわかるじゃない♪彼を散弾銃で撃ったんだよ☆」
先輩はゆっくりとM870を床に捨て、手をアホ毛を押さえつけるようにして置きながら無邪気に答えた。