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第5話

「失礼します」


 大雅が作戦会議室のドアを二回ノックした。

 すると中から「どぉ〜ぞ〜」と、聞き覚えのないどこか気の抜けた声が扉越しに聞こえてきた。

 先生にしては声が若いような気もする。


 そのまま大雅は教室のドアを開けた。

 教室の中は黒板は設置されてなく、その代わりに巨大な電子ホログラムが教室中央に展開されており、机や椅子などは一切配置されていなかった。

 壁も、他の教室とは違う素材を使っているように見える。

 恐らく防音使用なのだろう。

 この作戦会議室は他の教室とは少し違い、特殊な作りになっているらしい。


 ホログラムの前には、如何にも校長先生が座っていそうな革張りの回転椅子に、小動物を連想させるようなアホ毛とツインテールが特徴的な幼い女の子が体育座りをしながらクルクルと回っていた。

 一応うちの学園の制服を着ているのだが、一瞬小学生がいると思ってしまった。

 この人も恐らく放送に呼ばれたAランカーだろう。


「逃げずに来たのね。腐れ永児」


 俺のことをこんなこと言う奴は学園中探しても一人しかいない。

 声の主の方を見ると、案の定エリーナがドアの近くの壁に腕を組み、寄りかかるようにして立っていた。

 その隣にも、Aランカーと思われる男子生徒が立っていた。

 男子生徒の表情は長い前髪で隠れている為、読み取れないのが少し不気味でもある。


 ってかいちいちエリーナは俺に突っかかって来ないと気が済まないのか?この腐れ貧乳娘め。


「次に貧乳って言ったら脊髄せきずい引きずり出すわよ」


「いや俺何も言ってないし!しかも発言がいちいちエグい!」


「ふん!あんたのその腐った目を見てれば何考えてるかくらいわかるわよ。この性欲にまみれた変態ゾンビ」


「俺はゾンビじゃねぇっつてんだろ!この脳筋貧乳むすーー」


「死ねっ!」


「ぶべらっ!」


 エリーナのボクサー並みのパンチが、俺の人中を的確に打ち抜く。

 人の急所を正確に狙ってくる脳筋エリーナ先輩マジエグいっす。


「もぉ!あのさぁ〜、エリーちゃんとエイジくんが仲良いのはわかったからぁ〜……そろそろ私、話してもいいかにゃ?」


 回転椅子に座っている女生徒は、俺とエリーナを交互に指差しながら笑う。

 と言うか、この脳筋貧乳娘と俺が仲が良いわけないでしょうが。

 とりあえず、俺行きつけの眼科をオススメしたい。


「だれがこんなゴミと仲が良いですって?冗談はこのゴミ虫の顔だけにして頂戴」


「まな板野郎にだけは言われたくねぇっての」


「ふふふ……どうやら永児君は、その腐臭放つ汚物のような脳みそを私の愛銃で床にぶち撒けられたいのかな?かなぁ?」


「本当に申し訳ありませんでしたエリーナ様」


 作戦会議室の床はひんやりしていて、エリーナに殴られたところがとても気持ちいい。


「うわぁ、土下座への躊躇ためらいがまったくねぇ……」


 ほぼ毎日、東さんに土下座してる大雅には負けるわ。

 あとこれは、エリーナに殴られたところを冷やしているだけであって、決して命乞いの土下座ではない。


「ちょ、ちょっと!エリーナさん落ち着いて!拳銃を下ろしてください!」


「……永児君には後でた〜っぷりと鉛玉を脳天にぶち込んであげるわね。……まぁいいわ。今はこいつより、緊急放送ってやつの内容の方が気になるし」


 東さんの仲介のおかげで、自分の脳みそとこんにちわはしないですんだ。

 今のところは……だが。


「ところで……」


 大雅が回転椅子に座っている女生徒に近づき、質問する。


「先程から先生の姿が見えないのですが、どういうことですか?南条なんじょう先輩」


 事件を担当する際には、指揮を取る先生が必ず一人は参加する必要があるはずなのだが……そういえばこの教室には、その先生らしき人物の姿が見当たらない。

 それに南条……どこかで聞いたことのある苗字だが、大雅の知り合いか?


 大雅の質問を聞いた女生徒はニヤリと笑い、回転椅子から立ち上がった。


「はいハイハーイっ☆!やっと私のターンが回ってきたよぉ〜♪そう!何を隠そうあの緊急放送を流したのは二年の中でも群を抜く超絶美少女、南条雀なんじょうすずめ先輩こと私がやりました〜☆!いや〜、本当にみんな集まってくれて嬉しい限りだよ!し〜か〜も〜♪狙い通りのメンバーがちゃんと来てくれた☆特に、君達一年生メンバー!」


 南条雀と名乗る先輩は楽しそうに笑いながら、エリーナ、大雅、東さん、俺の順に指差していく。

 南条先輩の言動や行動には、ぶりっ子とはまた違ったウザさを感じる。


「まぁ、中にはAランカーの癖に私を楽しませてくれない実力も無い雑魚もここにはいるんだけどね♪うん、それは別にいいや。今は機嫌が良いし♪それに、学園側から極力怪しまれない為に二年生Aランカーも呼び出したんだけどさぁ。まさか……本当に学園の余り物がここに来るとは思わなかったよ〜☆で、なんでまだここにいるの?私の機嫌が良いうちに早く出てけよ、雑魚」


 うわぁ……可愛い顔してかなりえげつないこと言うな、この人。


 俺達が来る前に、エリーナと一緒に先に待機していた男子生徒の口元が南条先輩の発言を聞いた瞬間、まるで苦虫を潰したように歯を食いしばっていた。

 男子生徒の反応を見るからに、南条先輩は恐らくあの男子生徒のことを指して言ったのだろう。


 そして、男子生徒が長い前髪で隠れていた目が少し見えたと思ったら、俺を睨んでいた。

 えぇ……俺なにかしましたか?


「僕……帰る……話の邪魔に、なりそうだから」


 男子生徒は今にも消え入りそうな声でつぶやくと、下を向きながら足早に教室から出て行ってしまった。


「よぉ〜し!邪魔者も消えたことだし、早速本題に入ろっか☆」


 南条先輩は気まずい雰囲気を知ってか知らずか、無邪気な笑顔で話を続けようとする。


 だが、エリーナが話をさえぎる形で南条先輩に食ってかかった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!さっきのあの人、あなたと同じ二年生なんでしょ⁉︎あそこまで言わなくても良いじゃないっ!流石に言い過ーー」


「ん〜?なにを言ってるの、エリーちゃんは……?」


 首を傾げ、本当に理解できないといった感じの南条先輩。

 その態度にエリーナは更に熱くなる。


「なにって……っ!あんた人の話聞いてたのっ⁉︎あの人に悪いことをしたとは思わなかったのかって聞いてるのよっ!今すぐ追いかけて謝りなさいよ!」


「う〜?別に私は悪いことをしたとは思ってないよ?興味のない奴に、悪気も何もないにょ〜」


「ふざけるのもいい加減にしなさいよ……あんたには良心って言うものがないのっ!」


「う〜ん……良心もなにも、彼には興味がないんだもん。そもそも興味のない人間なんて、そこら辺に生えてる雑草と何ら変わらないじゃない?アスタロッテ・エリーナ、あなたはわざわざそこら辺に生えている雑草の名前を調べる?そしてその雑草に興味が湧く?してや綺麗と褒める?美しいと愛でる?踏みつけてしまったら良心が痛み、後悔する?私は無理だなぁ♪だって興味なんだもん☆だから、私は悪いことをしたとは思ってもいないし、謝るつもりもないよ?」


 南条先輩の表情は笑ってはいるが、どこか冷めた様な笑顔で、言葉には妙な説得力や威圧感があった。

 エリーナもそれを感じ取ったのか、言葉を詰まらせ何も言えないでいた。

 それでも怒りが抑えきれないのか、エリーナは南条先輩に掴みかかる。


「あ、あんたねぇっ!」


 大雅がエリーナの肩に手を置き、首を横に振った。

 これ以上話したところで無駄だと言うことだろう。

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