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第3話

「すみませーん、遅刻しましたー」


 俺はあの後、事務室へ行き予備の制服を貰おうと小さな望みを抱いていたのだが、事務の人に「いや、流石にあるわけないでしょ」と言われてしまい……結局、血だらけの乳首丸出し男のまま自分の在籍している一年A組の教室へと入る。

 もう逆に開き直って、コソコソと入るのをやめた俺を誰か褒めて欲しいものだ。


 いや……遅刻してきた上にこの有り様……不良のレッテル以上になにか大切なものを失った気がする。

 ……へへっ、もうどうにでもなれってんだ!あ〜、今ものすごく死にたいっす。


「重役出勤とはいい御身分ですなぁ永児ーーお前その残念ファッションどうした?前から馬鹿だ馬鹿だとは思ってはいたが……普通そこまでするか?」


 おい、いくら同級生とは言えそこまで罵声を浴びせるのは失礼だろ。

 ってか馬鹿だと思われてたのか俺……うっかり自殺しちゃうだろこの野郎。

 ……いや俺死なないけど。


 俺は、自前のつり上がった目で教壇に立っている男を睨みつけた。


 男の背は俺より高く、大体180センチ強くらい。やや細身ではあるが決して華奢というわけではなく、寧ろスポーツ選手のような無駄な脂肪を削ぎ落とし、鍛え上げられている体格が制服の上からでもわかる。簡単に言えば細マッチョ。


 視線をもう少し上げると、現れたのは俺にも負けず劣らない意志の強そうな鋭い目にそれなりに整った顔は、肉食獣を連想させる。

 髪の毛は茶髪に染め上げられており、短髪。整髪料をつけているのか、短い髪の毛をツンツンと立たせていた。彼の持つ雰囲気や容姿からそう思わせるのか、まるでライオンのたてがみを彷彿とさせる。


「……大雅たいが、お前にだけは馬鹿呼ばわりされたくねぇな。しかも、そんなところでなにしてんだよ、先生は?」


彼は何かと俺と一緒にいることの多いクラスメイトの一人、西尾にしお大雅たいがだ。

 俺の数少ない友達?でもある。

 なぜ疑問系なのかと言うと、俺自身、今まで友達というものができたことがないので、どこからどこまでが友達と言えるのか、イマイチわからないからだ。

 メールアドレスや電話番号などは知らないし、放課後、一緒に遊んだこともない。


 ただ、俺が他のクラスメイトに意図的に避けているように、大雅も避けられてる節がある。

 こいつは、今から三年前に起きた『第一次ネルガル大戦』時、日本の西側を守護した四方陰家と呼ばれる四つの名門一族の一つ、西尾一族の長男で、一年生でも数少ない二つ名持ちの一人でもある。


 今や国家そのものを動かせるほどの政治力のある名門一族に話しかけられるのは、よっぽどの命知らずか、世間体を気にしないただの馬鹿だけだ。

 あ、俺は勿論前者な。


 そんなこともあってか、俺たちはなんだかんだで一緒にいることが多い。


先生モモちゃんが遅刻してるらしいから、みんな見ての通り自由行動中」


「今日も桃井先生遅刻なのか……ってか先生のことモモちゃんって呼んでんのバレたら前みたいにしばかれんぞ?」


「全校生徒……いや、この学園の美人ランキング上位の桃井先生にしばいてもらえるとか寧ろご褒美だろ!」


 目を輝かせながら力説してるのはいいんだがな……それは先生のしばきに耐えられるほど馬鹿でタフなお前だからご褒美なんて言えるだよ。

 常人はあれを『拷問』とか『処刑』って言うんだよ。


「はぁ、お前の趣味はよくわからん」


「美女にいじめられる喜びがわからんとは、お前は本当に男か?それとも……ホモ?ホモなの?いやぁー、僕ノンケですしー。お前みたいなブサイクに抱かれるとかちょっと……」


 ……このドMにはいっぺん死んでもらおう。

 窓側一番後ろの席にうつ伏せになっている寝ている黒髪ポニーテールの女子生徒にちゃんと聞こえるよう、大声で呼ぶ。


「ねぇ!あずまさーん!この間大雅が隣のクラスの女子とデートしてたよー!」


「⁉︎ちょっ!おまっ!何デタラメ言ってんだ!俺を殺す気か⁉︎」


 いきなり焦り出す大雅。

 無理もない、彼女は大雅にとって天敵なのだ。

 突如、背後から大雅の喉元には日本刀が突きつけられた。


「ぬぉお⁉︎ま、待て!落ち着け辰美たつみ!とりあえず刀降ろせ、な?」


「大雅様……貴方という人はまた……っ!私という女がいながらっ……今日という今日は絶対に……絶対に許しませんっ!」


 さっきまで教室の一番後ろで寝ていたはずなのに、音もなく大雅の背後を取っていた東さん。

 流石、大雅と同じ名門一族東家の二つ名持ち。


 ひぇ〜……怖い。


「幼馴染みである私に無許可でいつもいつも……大雅様は幼馴染みとしての自覚が足りなさ過ぎます!これは徹底的に調教する必要があるようですね」


「幼馴染みっつっても家絡みのただの腐れ縁だろ!なんでいちいちお前に許可を取らなきゃなきゃーー嘘ですごめんなさい。なので俺の左腕をそれ以上あらぬ方向に曲げないで下さいぃぃいいだだだだ!骨が軋んでる音してる!ヤバい音してるって!」


 東さんはどこからか電子ロック製の手錠を取り出し、大雅の左手首に着け、もう片方を自分の右手首に装着した。もう大雅は、東さんから逃げられない。

 ……一応死亡フラグ立たせておくか。


「やったね大雅!これで美人にしばかれるよ!」


「永児!てめぇあとで覚えておけよぉぉぉおおお!」


 安らかに眠れ大雅。お前はいいやつだったよ。


「大雅様暴れないでください。腕へし折りますよ?」


「ウィッス」


 大雅はそのまま東さんに引き摺られるように、教室から連れられて行ってしまった。

 東さんの調教内容は敢えて聞かないようにしよう。多分酷いから。


廊下で東さんに調教というより折檻せっかんされている大雅をよそに、俺はとりあえず自分の席に座ろうと動こうとする。


「あんたいつまでそこに突っ立ってんのよ。邪魔なのよ、邪魔。その思考停止したババロア脳味噌ぶち抜くわよ」


聞き覚えのある気品というものを何処かにおいてきたような口調の悪さと、嫌に透き通った声が背後から聞こえてきた。


そう、そこには今朝俺をこんな格好にした張本人。アスタロッテ・エリーナが俺を見上げていた。

改めて見てみるとこいつ、態度はデカイけどあんがいちっこいな。


「なに私の胸ジロジロ見てんのよ。ぶっ殺すわよ」


あ〜、今なら痴漢の冤罪者の気持ちがわかる気がする。

お前のそのショボいおっぱい、略して『しょっぱい』なんか誰も見ねぇよ。なんなら俺は巨乳好きだ。

……うん。我ながら良いネーミングセンスだ。しょっぱい。


「……いや、なんでエリーナさんがここにいるのかなぁと思いまして……」


「はぁ?……あんた本当に脳味噌腐ってんじゃないの?私の席があるのここの教室なんだけど」


エリーナは呆れたように溜息を吐きながら、俺をまるでゴミを見るような目で俺を睨む。

あ、そういえばそうだった。

こいつ、俺と同じA組だったわ……。


いや……あれですよ、あれ。

あまりにもこいつと関わり合いたくないから、同じクラスだったことすら記憶消去していただけであって、俺の記憶能力に難ありなわけでは決してない。

うん。いや本当に。


「だから邪魔だって言ってんのが聞こえないの?本当に撃つわよ」


「あー、はいはいすぐに退きますよ。お嬢様」


「あら、今日は私に突っかかって来ないのね。どういう風の吹き回しかしら」


「ただ単に、お前とこうして会話すること自体労力なことに気がついただけだよ。ほら、退いてんだからさっさと行けっての」


「ふ、ふ〜ん。そう……私と話すのがそんなに嫌なのね……」


「だからそう言ってんだろ。俺は死ぬほど面倒臭いことと、死ぬほど痛いことが嫌いなんだよ」


「(私のこと嫌いになっちゃったのかな……うぅ、どうしよう……普通に話したいだけなのに)」


「ん?なにブツブツ言ってんだよ。何か言いたいことがあるなら言えよ」


よく聞き取れなかったが、何か俺に関する悪口でも言ってるのだろうか。

俺が一体何をしたっていうんだよ。どちらかといえばこっちが被害者だぞ、被害者。


「あんたなんか知らない!死ね!」


「ごふぅっ⁉︎」


エリーナにいきなり鳩尾に拳を叩き込まれ、変な声が出てしまった。

あまりにも唐突で勢いよく殴られたので、膝から崩れる。

エリーナはそのまま怒った様子で俺を横切り、廊下側の一番後ろにある自分の席に戻ってしまった。


もう!本気で殴ることないじゃん!なにか俺しました?何におこなの?生理なの?


「人を呪わば穴二つ……まさに因果応報!俺を裏切った報いだ!ざまぁねぇなあぁぁあっ!痛い!辰美さん、それ以上右腕の関節はそっちには曲がりませんからぁぁあああ!ぬおおぉぉおおお!いてぇぇえええ!」


「大雅様逃げないでください!動くと上手に関節が外せないじゃないですかっ!」


「もうやめろよ!お前、左腕だけじゃ物足りないってか!」


「何を言っているのですか?私は両腕両足全ての関節を外すんですよ?」


「お前が何言ってんの⁉︎嫌ぁぁあ!幼馴染みに殺されるぅぅうう!永児助けろ!お願い!今度マッカン(おご)るから!」


ほほう。甘党である俺の大好物『マッスル缶コーヒー』通称マッカンを餌に俺に助けを請うか……ふっ、甘いな大雅。それこそマッカンより甘いぜ。


「おーい、東さーん。もうそこらへんにしておいたら?それ以上やると、本当に大雅死んじまうって」


でもその甘さ、嫌いじゃないです。

べ、別にマッスル缶コーヒーに釣られたわけじゃないんだからねっ!勘違いしないでよ!



マッスル缶コーヒー、通称マッカン。

千葉県にあるコーヒー、某MAXではなくMuscleです。

あ、因みに作者はMAX缶コーヒー派です。

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