第2話
「あんにゃろう……なんで俺が『死なない』こと知ってんだよ……」
そう、あのエリーナの言う通り俺は死なない。と言うよりも、死にたくても死ねない体なのだ。
この際だ、傷が治るまで痛くて動けないし、改めて俺が何故自殺志願者なのかを振り返るのも悪くない。
考え終わる頃には傷も治っているだろうし。
俺は、俗に言うところの『不死身』ってやつだ。もっと突き詰めて言うと、異常なまでの自己治癒能力を俺は持っている。
あ、因みに俺は最近流行の『ゾンビ』じゃねぇならな?
俺が思うにゾンビってのは、一度死んだヤツが生き返って、生きてる人間を捕食する為に徘徊していたり、日の光に弱かったりするやつらのことをゾンビだと定義付けている。俺は元々死んでもいなければ、人の肉なんて食いたくないし、日の光に弱くもない。
それに、俺には痛覚がちゃんとあるところもゾンビとは違うと言える理由の一つでもある。
今のように、額や心臓に弾丸ぶち込まれても死にはしないが死ぬ程痛い。
この死ぬ程の痛みってやつを敢えて表現するなら、タンスの角に足の小指をぶつけ、その小指の爪が思いっきり剥がれた時の痛さの三十倍くらいの激痛……と想像してくれればいい。
要はとてつもない激痛ってことさ。しかも最近、この激痛に慣れているのが悩みだ。
痛覚がある上に、人としての理性もちゃんとある。以上のことから、俺はゾンビじゃないと言い切れる。ってか、根性と目は多少なりとも腐っていても、肉体までは腐ってない!
俺のこの特異体質、その原因は家系が関係している。
俺の母親の母親、つまり俺の叔母がどうやら人魚らしいのだ。つまり俺は、人魚のクオーターってことだ。
初めて聞いた時は信じられなかったが、今の世の中の現状を見てしまうと、嫌なことにすんなりと受け入れられた。
叔母の話によると、人魚は鬼や河童と言った妖怪の部類で不老不死。寿命はあるらしく、約五百年と人間より遥かに長生きなんだとか。現に、叔母の容姿は十歳程の女の子だし、傷だってすぐに治る。
あれでもう百歳超えとか、とんでもないインチキ幼女だ。
じいちゃんって、妖怪フェチなのかロリコンだったのか、それとも両方だったのか……いや、どちらにせよただの変態なことには変わらないし。
母親も人間とのハーフなので、少し叔母より歳を取るスピードが早いが、それでも容姿は二十代前半と若いし、傷の治りも早い。
だが何故か俺の場合、歳は普通の人間と変わらずに取るのに、不死のところだけは色濃く受け継いでしまったようなのだ。
髪の色といい目付きといい……俺の殆ど人生遺伝で話がつくんじゃないだろうか。
おかげさまで、俺は世間じゃルドラ同様化け物扱いだ。何度も自殺しようと試みるが、毎回痛いだけで死ねない。
そして俺は今、死に場所を求めてこの学園にいる。
あぁ、早く死にてぇなぁ……。
……っと、だいぶ痛みも引いてきたな。
ったくあの女は何考えてんだよ……朝から人の額と心臓に風穴空けやがって。
これで弾丸が貫通していなかったら、飛行機とか乗れなくなっていたかもしれないだろうが。まだ乗ったことないんだから、飛行機。
だが、あのエリーナとか言う二つ名持ち……射撃の腕は確かなようだ。
大人の男ですら反動が大きい為、両手で構えて撃つことの多いあのデザートイーグルをまだ高一の少女が片手で、俺の頭と心臓に一発ずつぶち抜いたんだ。
ただの変人って訳でもなさそうだ。
それと、何故エリーナは俺の特異体質を知ってるんだろうか……それに俺を前から知っているような口振りだったのも気になる。
……いや単に俺が以前エリーナと会っていることを忘れてるだけの話か。
話の流れ的にそんな感じだったような気もするし。
このまま伸びているわけにもいかず、俺は重たい体に鞭を打ち、制服に付いた砂を払いながら立ち上がった。
「……はぁ、制服に穴空いてるし、血だらけだし……あーもうクソ!朝から面倒くせぇ!死にてぇ!」
百歩……いや、千歩譲って頭を撃つだけなら許す。でもさ、心臓撃つ意味ありましたかね!
おかげで左胸と背中には綺麗に穴が空いていて、左胸だけ乳首がこんにちわをしている状態だ。こんな全身血だらけ&左乳首丸出しで授業なんて受けられないじゃねぇかよ!
そして無情にも一時限目の開始を報せるチャイムが、キーンコーンカーンコーンとスピーカーから流れてくる。
あー、もうこれ遅刻確定だ…………死にてぇ。
とりあえず、制服の予備を貰う為、トボトボと玄関横に設置してある事務室へ向かうことにした。
「もう今度から予備の制服持ち歩くか……」
【補足】永児の苗字が母親方の竜宮なのは、永児の父:勇がこの苗字をとても気に入っており、今時珍しく婚姻届の筆頭者の氏名を妻の竜宮遥にした為。特に婿養子などになったからとかではない。
それと、今は殆ど名前だけの登場の『ルドラ』や『ネルガルウィルス』ですが、後ほど説明が本編に登場します。