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第1話

色鮮やかに咲く桜の花びらが、アスファルトに散りばめられ、桜色の絨毯を作り上げており、蒼天そうてんとのコントラストにまさく春を感じさせる。


学ランやセーラー服、ブレザーといった様々な制服を着た生徒達があちらこちらで見かける。

新入生が入学して二週間が過ぎた今日、未だに制服を着慣れていないのか、少しぎこちなさを感じさせる生徒もいれば、俺のように緊張が消え、所詮中学の延長だと悟り始めたような生徒もいる。


そんな、どこにでもある光景の中に不釣り合いな学生……もとい、一際目立つ学生が一人いた。


そうこの俺、竜宮りゅうぐう永児えいじだ。


それもそうだ。グレーと赤を基調としたブレザーとズボン、そして、緑のネクタイに触ったら怪我をしそうな奇妙な形をした刺々しい金の校章を左胸に付けている。

この制服を着ている時点で、まず周りから浮いてしまっている。


いや、目立っているのは制服が周りより派手だからだけではない。この制服が『ネルガル学園』の制服だからだ。


ネルガル学園、正式名は『対ネルガル犯罪抑制武装高等学園』、略してネルガル学園。人によってはネル高とか言う人もいる。世間からは学生版SATサットとか、武装生徒なんて呼ばれており、簡単に言ってしまうと野蛮な集団だと思われているのだ。


この制服だけでも目立ってしまって仕方がないのに、俺の髪の毛は不良に見間違えられるほど青く、目は蛇のようにつり上がっている。誰も俺の容姿を見て、未だ入学して二週間だなんて想像もつかないだろう。


周りからまるで珍獣を見るがごとくのこの扱い、流石に馴れたと言えば馴れたのだが……やはりいい気持ちはしない。


いや、そこの奥様方?俺のこと見てヒソヒソ話しするのやめてくれません?明らかに俺の悪口言ってますよね?

泣くよ?ガチで泣いちゃうよ?

見た目はヤンキーぽくても、心はガラス細工並みに繊細なんです。多分、ハムスターの方がメンタル強いと思うくらいには。


この髪の色だって、染めているわけではなく母親譲りの正真正銘の地毛だ。昔はよくいじめられたりもしたが、今は結構気に入っている。

目つきは父親譲り。……まぁ正直なところ、出来れば遺伝して欲しくはなかったよね。

そして息子の毛根の為にも禿げるな、親父。息子は親父の毛根を応援してます。


遺伝が関係してないことと言えば、目が死んでいることくらいだ。

今まで生きてきて、「あそこの息子さん、若いのに愚れちゃったのね……」みたいな扱いを受けていれば、目の一つや二つ腐るっての。


ここまで散々語っておいてなんだが、今更自分の外見で損をしてきたなんてことは本当にどうでもいい話で、本当に『今更』なのだ。そんな俺でも、頭の中で常に考えていることがある。

それは俺の外見が派手なことで悩んでいるわけでもなければ、社畜である親父をぞんざいに扱う妹のことでもない。


俺の頭の中では、『今年こそ死ねるかどうか』という課題で一杯になっているからだ。



「竜宮永児!今日こそあんたのその腐った目と根性、叩き直してあげるわっ!覚悟しなさい!」


学園の玄関前で透き通るような綺麗な声に呼び止められる。

声のした方を見ると、そこには降り積もった雪を錯覚させるほど美しい真っ白い肌に、腰まで届く程長い山吹色の髪の毛を風になびかせ、何処と無くお嬢様を連想させる美少女が仁王立ちして踏ん反り返っていた。


誰かに呼び止められるとか……今まで生きてきた中でいい思い出が一つもないんですけど……大体、そのまま喧嘩するか警察呼ばれるかの二択しかされたことがない。しかも、その呼び止めてきた相手が金髪の美少女ときた。


なんかもう嫌な予感しかしない。

なので無視。無視一択。触らぬ神に祟りなし。


「ちょっ!ちょっとあんた!何露骨に嫌な顔して、そそくさと校舎に入ろうとしてんのよっ!」


「いや、だって……揉め事は嫌ですし……それにあんた誰?ヤンキー?それとも風紀委員?」


『嫌そうな顔』って言うか、もう『嫌な顔』そのものなんですけどね。というか、察してるならそのまま無視してくれてもいいじゃないでしょうか。それが気遣いってものなんじゃないでしょうか。


「私を……忘れた上に……無視するなんていい……度胸じゃない!ハ、ハートのAエースって二つ名に聞き覚えはないかしら?」


自分の二つ名を恥ずかしそうに言う美少女。

いや、恥ずかしがるなら言うなよ……ってか二つ名名乗る前に本名教えろや。

因みに、二つ名と言うのは学園の生徒間での渾名あだなのようなもので、二つ名持ちは成績優秀者か、変人や奇人に付けられる。

恐らく彼女は変人の部類に入るだろうな。自分で二つ名名乗っちゃうような痛い子だし。


「はぁ……えっと……確か俺と同じ一年で……あっ!……お前っ!」


すまん、同じ一年ぐらいしか思い出せませんでした。

いやほら、偶然久しぶりに会った古い知人の名前忘れちゃった時にさ、「俺お前のこと忘れてないよ?」的な雰囲気作っちゃうじゃん?そんでなんとなくそのまま別れる……みたいな時!


「そうよ!思い出したようね!一年生にして五名しかいない二つ名持ちにしてハートのAことアスタロッテ・エリーナよ!」


「あ、そういやそんな名前だったかも。完全に忘れてたわ、すまん」


「あっ!って言って思い出せなかったの⁉︎てっきりあんたが思い出したと思ってフルネームで名乗っちゃったじゃないのよっ!この顔面ヤクザ!」


顔を真っ赤にして怒るハートのAことアスタロッテ・エリーナさん。

白い肌の所為か、余計に顔が赤くなって見え、その額にはでかい血管がみるみるうちにはっきりと形をあらわにしている。


彼女は、もう怒った。と付け加えると両手を後ろ手に回し、何かを手に取った。

とてつもなく嫌な予感がする。


「どうやら、あんたは私を怒らせたいようね……でもあなたがど〜〜しても、許してほしいですと今すぐ謝罪をしたら許してあげてもいいわよ」


うわっ!やっべ!完全に怒らせちゃったパターンのやつだ!

えっと……やっぱり名前を忘れていたのがいけなかったんだよな。でも、ここで「名前を忘れてごめんなさい!」って言うのも、正直に謝り過ぎてアウトな気もする。


ここは取り敢えず、相手の見た目で判断できる材料で褒めて機嫌を直したところで素直に謝る。

これなら行ける!やっべ、俺もしかして天才かも。


「その……本当にすまん。その男性を思わせるようなぺったんこな胸に目を奪われてしまってーー」


「貴方の血は何色かしら……?」


エリーナがそう呟いた瞬間、殺気をまとった弾丸が俺の頬をかすめ、血が滴り落ちる。


エリーナの右手にはメタリックなシルバーの塗装がまばゆいハンドガン、デザートイーグルが握られており、左手にはコンバットナイフが右手に添えられるように握られていた。


この学園が学生版SATと呼ばれている所以ゆえんは、校則で『拳銃やライフルなどの火器及び、刃物の所持を法の対象外とし校内、日本国内での使用を許可とするが、ただし一部例外を除く』なる一昔前の日本だったら考えられない、校則であったりする。


そして、エリーナの握るデザートイーグルの銃口から煙が少し出ているのを見ると、彼女が発砲したのは明白だ。

俺は今、目の前で撃たれたのだ。


「お、おい!いくら所持と使用が校則で許可されてるとは言っても、校内での発砲は射撃練習場以外は禁止だったはずだぞ⁉︎」


「大丈夫。今日はこんなこともあろうかと、消音筒サイレンサー付けてきたから。音でバレることはないわ」


満面の笑みで答えるエリーナ。どうやら俺と会話をする気はないらしい。そして、何が大丈夫なのか俺にはさっぱりわからないし、そもそも撃たれてる俺が大丈夫じゃない。


「あ、あのですねエリーナさん?銃口を向けていいのは異常感染者ウィルスサイコパスかルドラだけだと授業で習いませんでしーー」


パスンパスン!


俺が話している途中で、エリーナの右手に握られているデザートイーグルから発砲音がした。


デザートイーグルから放たれた弾丸は見事に俺の額と左胸を貫通していった。

そのまま弾丸に押されるかのように、背中からゆっくりと倒れる。


エリーナは呆れたように溜め息をつくと、永児の横にかがみこみ、顔を覗いた。


「別にいいじゃないのよ。私だって毎日マネキン相手にしてたら腕が鈍っちゃうのよ。たまには人間ほんもの相手にしないとね。それにあんた、これくらいじゃ『死なないんでしょ』?だったら、せいぜい私の動く的として頑張りなさいよ」


エリーナはニカッと笑うと、そのまま一人校舎の中へ消えていってしまった。

俺は激痛の中、額と左胸から血を垂れ流しながらぼそっと呟いた。


「……クッソいてぇ……あぁ、死にてぇ……」


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