第3話 草原
第1話の薬売りの少女シアはこの話の清水亜希です。
まだ、第1話につながっていません。
ゆっくりと進んで行きます。
一面の草原。
まさに、その一言だった。
背後から風が吹き抜け、大きく葉擦れの音が一面に広がる。
「ーーは?」
ここで、ようやく声が出た。いや、声として出ていたかも解らない。
(なに、これ?)
背後から断続的に吹き抜ける風が下草を煽り、むせ返るような緑の匂い。煽られた下草がさざ波みたいに流れていく。
はっーーと、後ろを振り返る。
後ろには、何も無かった。今くぐり抜けた玄関の扉も何も。ただ、右手だけはつい今までドアノブを握っていた形にのまま。もちろん掌の中にはドアノブなんか無い。
二度、三度、手を握る動作を繰り返す。が、何の意味も成さない行動だった。
つ……と、額と背中に汗が流れる。
これは冷や汗だ。それがわかる。真上の太陽は日差しが強く、振り返る風は心地いいのだろうが、その風が、ことさら額と背中に流れる冷や汗を冷たく感じさせる。
(何、これ? 何、これ? 何、これ?)
それしか言う事が無いの? と、わたしの中の冷静な部分が冷ややかに言うが、それしか頭には思い浮かばなかった。冷静な部分ーーなんて言っても、それすら混乱しているのかもしれない。
……?
ここで、なにかおかしい事に気が付いた。腕が短い。いまだに握る開くを繰り返す掌が小さい。フルフルと身体が震える。
顔、胸、腰、お尻、足。バタバタと慌てて自分の身体を触って行く。
すべて小さい。とても中学2年の身体では無かった。
「何、これ?」
今度こそ、はっきりと声として出た。
わたしの身体としては9歳か10歳くらいになっていた。
「何よ、これぇ…」
突然の一面の草原、小さくなった身体。
わけが解らず声が震え、目尻に涙が盛り上がる。わたしはその場にしゃがみ込むんだ。
どれだけしゃがみ込むんでいたかわからない。5分? 10分 1時間? 太陽はまだ、さほど動いていないから何時間もしゃがみ込んでいたわけでは無いかと思う。
とにかく、このままこの野っ原に居てもしょうがない。わたしは立ち上がって歩きだした。
行く当てがあるのか? そんなものは無いけど、このままここに居てもしょうがないので歩き始めた。
よく、漫画とかで、身体が小さくなった女の子のパンツがずり落ちるシーンがあるけど、実際に我が身で起こると、そんなことは無かった。まあ、多少サイズが合わないけどゴムで軽く肌に食い込んでいるから大丈夫だった。
ただ、ブラは完全にダメだった。そんなに大きくない胸だったけど、さすがに9歳か10歳の胸にブラは不要と言える。周りに誰も居ないがこんな外で服を脱いでブラを外す気は無いのでそのまま付けておく事にする。
プール帰りに着ていた膝下ワンピースもこの身体だとくるぶしまでのロングになる。ただ、サイズがブカブカた。
水着と、朝から付けていたてプール後に着替えた下着、リップや日焼け止めクリーム、数個のキャンディ等の小物が入ったデイバック。小さなデイバックとは言えブカブカのワンピースと相まって背負いにくい。
歩幅も小さい。ーーと、言うか、突然身体が小さくなったから歩きにくい事!この上ない。
どれくらい歩いただろうか?
ちょっと前に小さな小川を見付けたので、小川の端を歩いていた。
小川の端は下草の背丈も小さいので歩きやすいからだ。さっきまでは膝上までの草原だったから歩きにくい事この上なかった。のどが渇いたけど川の水が飲めるか解らないし、川の水を直接飲むのは何かイヤだったので我慢する。のどがカラカラと言うわけでも無かったし。
「おーい」
右手に小川。左手に草原と言う形で歩いていると、不意に声が聞こえた。
左手の草原の方。草原を掻き分け、一人の男の子が駆けてきた。
草原に出てから初めて人に遭った。ただ、それだけかが嬉しくてわたしは手を振った。
わたしの側まで来た人も同じなのか多少安堵したかの様な表情をした。
高校生男子だろうか? わたしの地元の高校のブレザーを着ているのてで間違いないと思う。体格もいいし、何かスポーツか格闘技でもしていそうだ。ただ、何と無く喧嘩っ早そうなカンジ。
彼はわたしの格好をジロジロと見た後に言った。
「キミ、日本人?」