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徒然詩編

霧の向こう側

作者: 紅夜 真斗

心がモヤモヤして、何も手が付かない。

見えていたはずの道が、いつの間にか霧に包まれて


ほんの少し先の道も真っ白に染まっていた。



白い濃密な霧に息が詰まる。

どれだけ手を伸ばしても

霧に視界を遮られて何も見えない。





不安。




霧に名前をつけるなら、それしかない。

不安なのだ。

私は……


これからを考えた瞬間。

見えていたはずの明るい道が、プツリと途切れてしまった。




私には何もない。

大事なものは確かにあるけれど、それが道を照らす唯一にはなりえない。

自分で切り開こうとしても、濃密な霧は決して晴れてはくれない。

それどころか、振り払おうとした私の手をあざ笑うように傷つけていった。


微かな痛み。


赤い血が流れる、熱を持った嫌な感触。



けれど、痛みを伴う手を眼前に近づけても傷は何もない。

思い込みで出来た傷。



同時に、痛みを覚えてしまった痕は

とめどなく腕を紅く染め上げて、私の心を縛り付けていた。




霧が一層深くなり、遠くから赤い色が迫ってくる。

血の、さびた匂いもそこから漂ってくる。



私は死ぬの?



疑問さえも、赤い霧に飲み込まれて心を死の縁へと追い込むのが分かる。

心の死は、私自身も死んだ証。

体が生きていたとしても、心が伴わなければそれは死んでいるのと同じ。

あともう一歩後ろへ下がれば、きっと私はこの絶望と言う絶壁から転げ落ちるだろう。

そして、待つ死は決して心安らかにはしてくれない。


私は何度死んだ?


何度、這い上がり

何度、堕ちた?



友達と思っていた相手に裏切られるのなんて、慣れた。

だから、信じる事をやめて便利な相手に成り下がる。


好きな相手とからだを重ねたとしても、無粋なコールで落とされる。

だから、愛する事をやめて虚無になる。



ただ、相手に任せて身をゆだね、

ただ、相手の色に勝手に染まらせる。



だから、私はもう死なない。

心が死んだままだから。


だから、連れ戻さないで。

骸のままでいさせて……




真っ白い霧は色を変えるの。

赤、青、黒、緑……どれもこれも、一面に、

私の亡骸を隠して、みていた夢も霧の向こう側。


堕ちて、おちて、オチツヅケテ……



私の最愛の人は、私を救いはしない。




だって、私自身の手が……









その手を掴めないから。


骸の私に、手を伸ばす術なんてないから……







霧の向こうで朽ち果てて、眠りに付くの。

私の手は、すでに霧の向こう。

亡骸の私は、現世を彷徨う亡霊。


心が死んだの。

殺したの……



私自身の手で、私自身の歩みで……

心を絶壁から突き落としたの。


心のない、躯なんて……

朽ち果てたと同じよ。



だから、呼び戻さないで。

この虚無の中にいさせて……


躯だけが生きて、心が死んだ虚無のままで

本当の死は、選び取ってはいけないと知ってるから。

死んだ心のどこかで、引き止められる唯一のことだから。

死んで喜ぶ人間も多いのは分かってる。



けれど、死んで悲しむ人が少なからずいることも分かってる。



心だけが死んだ虚無のままならば、その僅かな人を悲しませないですむから。

だから、呼び起こさないで。



これ以上の苦痛を受けたら、私は全てを投げ出して……




アナタノ、恐怖ソノモノニ……ナッテシマイソウ……








私を殺していいのは、私だけ……

この霧は、私が私を殺すのを覆い隠す帳なの。

私が、私を殺すのならば……


アナタは、親友を心配する心優しい人になれるの……

アナタは、最愛の人に吐き出せない呪いを吐き出せるの……


私は死んだまま、躯を殺さぬようにすればいいだけ。

霧をアナタの色に染めて、その向こうで、アナタの望むように私を殺す。


私の心はすでに墓の下。

絶壁の下に積み上げられた、私の心の墓場のした。




私はどこからきて、何処へ行くの?

私は何処へ行き、何をするの?



私の手は、私の血で染まっている……



霧に隠れたはずの道が、いつの間にか見えていた……

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