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武士は食わねど高楊枝  作者: 一森 一輝
自由なる大国にて
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8話 大きくなったな、総一郎49

 夜明け前が一番、暗いのだという。


 総一郎は、夜明け前に目を覚ました。黎明。それから昨日と同じように裏庭に出て、素振りを何度かして、止めた。


「今日は、疲れるようなことをしないでおこうか」


 自分に言い聞かせるように呟き、空を見上げた。朝と夜が曖昧に混ざり合う空。まだ太陽が夏めく時期ではあるが、今この時は不意に涼しい風が肌を撫でることもある。秋の気配が空を走っているのだ、と思った。


「どんな夜にも日が昇るように、どんな季節でも移ろいゆくように、この時代もきっと変わる」


 総一郎は魔法で跳び上がって、屋根の上に着地した。それから腰を下ろして、じっと街並みの奥に見え隠れする太陽に目を凝らす。


 暗い。黒紫に蠢く空模様は、朝の片鱗を滲ませて不気味に美しく蠢いていた。だが、数秒待っていると、視界の奥の奥で輝くものがある。


 小さな光だった。だが、強い光だった。それはじわじわと昇り、闇の中にあったものを薙ぎ払う。無慈悲な朝が、やってくる。


「俺は、どっちかな」


 容赦なく一掃されるのは、いずれか。ARFを核とした親亜人派の日本人中心の勢力か、あるいは亜人そのものを憎み、滅ぼそうとする従来勢力か。


 ローレルから、負けないと言われた。恐らく、負けないのは事実だろう。だが、勝てるかどうかは分からない。勝てるのか。それとも引き分けか。それとも、ローレルは総一郎の葛藤を考慮に入れて、あえてボカす判断を下したのか。


 考えるべきことは多い。だから、今の内に考え尽くしておこうと思った。戦いの中で、迷いたくない。


 太陽が昇るのを、手でひさしを作りながら、見つめていた。これからの戦い。死にたがりながらも憎悪に止まれないリッジウェイ警部。警部を殺すことだけはしないと決めたヒルディス。


 他にも懸念は残っている。下したというのにいっそう謎めいたヒイラギ。奴の残す、ごちゃまぜにされた犠牲者。奴は何かを準備していた。奇妙な矛盾の中に、何かを生み出そうとしていた。


 そして、白羽について。何かが、彼女の体調を崩させている。だが、疑わしいものが多すぎて手が回らない。神、天使、宗教。あらゆる問題に、僅かずつ重なり合っている。


「……」


 スケジュールが緊密でなければ、何を差し置いても調べたい事柄だった。だが、総一郎抜きでリッジウェイ警部を破るのは、客観的に見ても難しかろう。


 それだけ、リッジウェイ警部は強い。カバラを主軸に複数の技術を修めたその適応力の高さは、総一郎に近いモノがあった。グレゴリーのような一点突破ではない、非『能力者』としてたどり着ける境地。故に、グレゴリーですら警部を下すことは不可能だ。


 『能力者』であると認識されていないときのウッドのように、警部は人を殺さない“ラビット”の手を掻い潜るだろう。その為、グレゴリーはJVA拠点の防御に回ってもらうことになっていた。有象無象の処理ならば、彼は誰よりも活躍できる。


 今回、こういった人事に関しても、総一郎が担った。誰をどこに配備すればいいか。リッジウェイ警部を追い詰めるには誰が必要か、など。


 総一郎よりも適任な彼女がここに居れば、そんな事をしなくて済んだだろうに。


「……白ねぇ」


 愛する姉の名を呟く。この件が終われば、総一郎にも余裕ができる。できる、と言うか、余裕を作れるようにとヒルディスが状況を整えてくれていた。だから、この件を乗り越えさえすれば、白羽の件に取り掛かれる。


 総一郎は、立ち上がった。朝焼けに染まる街並みを、屋根の上から睨みつける。


「早く、終わらせよう」


 手はずは整えた。警部が以前のままなら、確実に勝てるだけの策を用意してある。隠し玉を出してきても、勝ち筋はあるはずだ。引き分けなどでは終わらせない。ここで、亜人差別の病巣を打ち砕く。


 すべきことをしよう。そして迅速に終わらせよう。総一郎は深呼吸し、肚を据える。












 突入は、九時を少し回った頃のことだった。


 総一郎が玄関口から平然と入ると、数人の警察官が一瞬キョトンとしてから、身を竦ませて二度見した。その内の一人が奥に隠れていくのを見つけ、総一郎はリッジウェイ警部に報告しているのだろうと当たりを付ける。


 とはいえ、報告されようと、それで居場所がバレようと、総一郎にとって痛いところは何一つない。周囲でコソコソこちらを窺う警官たちに微笑みかけ、奴らの怯える様を内心鼻で笑いながら、総一郎はカウンターで「すいません」と声を上げた。


「リッジウェイ警部にお会いたいんですが、構いませんか?」


「……警部、ですか? す、すいませんが、まず御用を伺えますか?」


 引きつった笑みで、ふくよかな白人警官は言った。人当たりのいい顔をした、いかにも民間人の誘導向きな優しげな風貌だ。こんなぬるい相手を差し向けて様子見など、あまりに甘く見積もられている。


「ああ、そうでしたね。失礼しました。用事は、なんてことはありません」


 だから、総一郎はにこやかにこう言った。


「亜人を殺してきたみなさんから、暴力を取り上げに来ただけです」


 真綿のような地獄に落ちろ、下種どもが。


 総一郎は時間魔法で自分の時間を十倍に加速させて、拳銃を引き抜き周囲の警官たち全員にフィアーバレットを叩き込んだ。カバラでの姿勢制御を用いた無駄のない所作と相まって、一秒とたたずに玄関フロアの警官たち全員が、総一郎の拳銃に腰を抜かして崩れ落ちる。


 総一郎はそつのない動きでマガジンを取り換えながら、電脳魔術のスピーカーアイコンを叩いてミュートを解除する。


「はい、みんな見てたね。じゃあ突入お願いします」


『任された。――総員、突入!』


『オレたちも続くぞォッ! ARF、突撃ィ!』


 イキオベさんの号令と、ヒルディスの命令が電脳魔術越しに響いた。総一郎は拳銃をしまいながら、周囲にいる民間人の人々に「これから皆さんの避難を行う人員が配備されます。安全にお外まで誘導いたしますので、ご安心ください」と笑顔で告げ、奥に進んだ。


 流れとして決まっているのは、まず総一郎によるライブ中継付き正面突破。続いてJVAが民間人を非難させつつ、人数とフィアーバレットで正面からアーカム警察を削っていき、一方でARFが数人のチーム単位で重要施設の破壊工作を行う、というものだ。


 総一郎は今回、アーリ、ヴィーと組むことになっている。つまりは、対リッジウェイチームだ。新しい木面を被りながら速足で建物裏手に面した廊下に向かうと、数人の警官を拘束するアーリもといハウンドと、ヴィーもといファイアーウィッチがそこにいた。


「あ、イッ……じゃなくてティンバー。ちょうどのタイミングじゃない。さ、向かいましょう?」


「……」


 ウィッチは総一郎もといティンバーを見つけて声をかけ、ハウンドは無言で新しい拳銃のマガジンを投げ渡してきた。総一郎は受け止めつつ「ありがとう、心配性だね」とハウンドをからかってから、「それで」と本題を切り出した。


「警部の場所は?」


『突き止めてある。奴は署長室で我々のことを待ち構えているようだ』


「はは、流石。計算を外して襲撃を受けたとは思えないほど、肝が据わってるね」


 今回の襲撃だが、総一郎はナイに一つ頼んで、リッジウェイ警部のアナグラム計算にイレギュラーを差し込んであった。さしもの警部とはいえ、無貌の神の狂気を盾にされれば、こちらのことを調べ尽くすことは出来ない。


 少しでも優位を、と考えての策だったが、思いのほか大きな効果をもたらしたのでは、と総一郎は睨んでいた。狂気は警部すら遠ざける。亜人排斥に狂う、あのリッジウェイ警部ですら。


「……」


 総一郎は違和感を覚えながらも、周囲で響く発砲音に急かされて「行こうか、みんな」と声をかけた。ハウンドは無言で首肯し、ウィッチは「やっとね。さ、荒らしましょ!」と愉快そうだ。


 道を進んでいると、拳銃片手に曲がり角を覗き込む警官三人を見つけた。ティンバーたちが発見するや否や、彼らも反応して「動くな!」と拳銃を向けてくる。


 だが、遅い。ティンバーは即時に『灰』を記してあらゆる干渉を否定し、ハウンドは少量のNCRで防壁を形成してからアサルトライフルでフィアーバレットを連射し、極めつけにウィッチが杖を片手に彼らの前に飛び込んだのだから、もう勝負はついたというもの。


「その銃、邪魔だから溶かしちゃうわね」


 炎を纏わせた杖で警官たちの銃目掛けて一薙ぎすると、マジックウェポンの込められていただろう彼らの獲物はドロドロに溶け落ちた。直後ハウンドの放ったフィアーバレットが警官たちを打ちのめす。ティンバーは肩を竦めて接近し「うん、全員無力化済みだね」と肩を竦めた。


「君たち、俺にも仕事を残しておいてよ」


「遅いティンバーが悪いのよ。ま、VSリッジウェイで活躍すればいいんじゃない?」


『温存しておけ』


 二人からすげなくされてしまって、ティンバーとしては切ない限りだ。とはいえ力を温存すべきという意見はもっともなので、『灰』を解かずについていく。


 歩きながら思うのは、土台負けるはずのない勝負だという事だ。フィアーバレットはアンチマジック効果の付いた貫通弾だ。遮蔽物を貫き、マジックウェポンによる一掃をもものともせず、ただ狙った人間に突き刺さり殺さず恐怖にて無力化する。それを、日本の魔法使いたちが駆使するのである。


 魔法も持たず、フィアーバレットに打ち破られるだけのマジックウェポンしか持たないアーカム警察では相手にならないのは自明だった。周囲で上がる悲鳴は、全て彼らのものだ。


 だが、だからと言って甘く見ることはない。何せ、たった一人ではあるが、あまりにも底の知れない手練れが控えているのだから。


『ここが署長室だ』


 ハウンドの案内に頷いて、ティンバーはウィッチに扉を開くよう指示した。無敵に近い性質を持つ彼女は、素早く扉をけ破って侵入する。


 その隙を突かれることを警戒していたが、アナグラムの大きな変動もなく、部屋の奥に座るリッジウェイ警部と三人は対面した。


 彼は、座り心地の良さそうな椅子に深々と腰を預け、重厚な机に足をのせて寛いでいた。ティンバーはその様子に警戒を強める。ハウンド、ウィッチも同様に、不可解な目を彼に向けていた。


「いやァ。やられたよ、君たち。ARFがJVAを抱き込む前に潰してしまおうと思ったのだが、まさか先んじて手を組んでいたとはな……。狂気めいた危うい情報とて、避けるものではないと肝に銘じたものだ」


 警部はより深く背もたれに体重を掛けた。ギ……、とイスのきしむ音が聞こえる。張り詰めるような静寂の中で、リッジウェイ警部は片手を演出的に広げた。


「今朝のアナグラムの歪み方で、とうに私は追い詰められたのだと気づいたとも。だから、せめて署長に来ないように言い聞かせた。続いて全署的に警告しようとしたところで、これだ。まったく、よくもカバリストたる私から、ここまで情報を守り抜いたのだと感心してしまうな」


 ギッと椅子に音をさせて、リッジウェイ警部は起き上がった。それから、ニヤリ笑いながらこのようにのたまう。


「そんな訳だから、警察署で準備を整えてあるのは、悲しいかな私くらいのものだ。強力な君たちの、お眼鏡に適うといいが」


「ハウンドを守れッ!」


 ティンバーが叫ぶと同時、ウィッチはハウンドの前に踊りでて杖を振るった。彼女らの眼前に舞うは手榴弾。よくも用意できたものだと、ティンバーも『灰』を確認する。


 衝撃、爆風。衝撃は『灰』に包まれたティンバーをすり抜けつつもウィッチをのけぞらせ、爆風と視界を覆う塵はハウンドとウィッチの両者を盲目にした。


「ソウイチロウ君、この際だから言ってしまうが――その二人は、この場には役者不足ではないか?」


「器用な声の出し方ですね、警部ッ!」


 魔法に近いが異なる技術で、ティンバーの背後から声をかけてくるリッジウェイだ。だが、彼の実体はティンバーの正面で銃を構えている。こういう小手先の技をも惜しまないあたり、厄介極まりない。


「ほう、よく分かるものだ。光と闇がジャパニーズの視界を奪いきれないことは知っていたが、煙はどう言った魔法で処理しているんだね?」


「教えませんよ!」


「はは、つれないことだ」


 天使の瞳で正確に警部の場所を看破して、『灰』を吹き飛ばし木刀片手に肉薄するティンバーに、リッジウェイ警部は後ろに跳躍した。縮まり切らない間合いの中で、警部のライフルの銃口がティンバーを捉える。


「仙術を解くのが一秒早かったね」


「いいえ、これで十分です」


 放たれるマジックウェポンの数々を、ティンバーは正面から斬り払った。返す刃で警部の銃口に切っ先を届かせる。「おっと」と余裕ぶって彼が銃口を上げたから、ティンバーは合図を出した。


「援護を!」


『言われるまでもない』


「私の出番ねっ!」


 ハウンドは部屋の隅で黒鉄のスライムことNCRで身を守りつつ、隙間から狙うサブマシンガンからリッジウェイ警部を狙い打った。百何十発という数のフィアーバレットが警部に殺到する。


「ハウンド。お前が私の部下だったらと今でも思うよ。才能はあるというのに、私ならそんなところで腐らせなかった」


 だが、警部は動くまでもなく銃撃を防ぎ切った。どこからともなく現れたNCRが、フィアーバレットの全てを壁となって防ぎきる。


 しかし、攻め手はこれで終わりではなかった。肉薄していたのはティンバーだけではない。ウィッチが巨大な炎を纏わせた杖を掲げて警部に向かって飛び込んできた。そしてNCRの防御すらものともせずに叩き付ける。


 起こったのは、壁ごと破壊するような炎の奔流だ。


 ティンバーは炎に巻き込まれる寸前で、『灰』でもってこの世から“ズレる”。ハウンドは自前のNCRでウィッチの余波から身を守った。


 そんな、ティンバーですら恐れおののくようなひたすらに力押しの炎は、数秒署長室を満たし尽くして窓からあふれ出した。残るは黒ずみとなった署長室の残骸。そこで、髪の毛の端を焦がし、頬を煤で汚した警部が、ボロボロになったNCRに触れながら笑っていた。


「ハッハッハッハ! お嬢さん! 私はあなたを舐めていたようだ! 何だこれは! ここまで馬鹿馬鹿しい攻撃はそうない! あの豚の丸焼きですらもっとテクニカルに攻撃してきたぞ!」


「ハッ! これが私の強みよ! まっすぐ行って、燃やしつくす! 私自身は無敵だもの! シンプルだけど、度胸さえあれば負けないわ!」


「ああ、まったくだ。見てくれ、窓枠どころか、壁一面が崩れてしまっているじゃないか。これだけのことをしてくれる亜人も中々いないぞ。何せこの警察署は、大規模攻撃を想定して非常に頑丈に作られているのだからな」


 下手すればダイヤモンドに近いというのに、よくやるものだ……。そう感心したように窓際だったはずの大きな穴に近づいて、ヒルディスはこちらに向き直った。


 そこにあったのは、ひどく悪い笑み。


「お蔭で、随分狙いやすくなったよ。礼をしなければならないな」


 直後、ウィッチの頭が傾いた。見えない衝撃に吹き飛ばされ、彼女は転倒する。ダメージこそないものの、強い衝撃を受けてウィッチは目を白黒させていた。


「なッ?」


「実はな、今回は狙撃手が居るんだ。とても……とてもいい腕をしている。愛おしいほどに、才能に溢れた狙撃手がね」


 リッジウェイ警部は、もはや銃を構えることもしなかった。残るNCRを操作して体に纏わりつかせ、仄暗い笑みを落としてティンバーたちに向かう。そして、片腕を上げ――


「では、私のような老人は、ここで引っ込もうか。あとは、若い者に任せよう」


 下ろす。ティンバーの頭を正確に銃弾が通り過ぎ、ハウンドの身を守るNCRがたった一発の銃弾で大きく揺らぐ。


「ハウンドッ! 退避だ、この場は詰め切れない!」


 ティンバーの指示に、ハウンドは頷いてNCRで背中を守りながら署長室から飛び出した。直後ハウンドのNCRが、強力な狙撃でさらにひしゃげる。NCRそのものに破損と言った概念はないものの、数キロ分程度なら簡単につぶせる威力と考えると、背筋が凍る。


 異議を唱えたのはウィッチだ。


「ちょっと! こんなところで逃げ帰るなんて嫌よ私! まだまだやりようはあるじゃない!」


「戦略的撤退だから、心配しなくていい! どうせ狙撃手から排除しなければならないんだ、早く出るよ!」


 地面に片肘ついて反論するウィッチにティンバーは説明し、瞬間的に『灰』を飛ばして狙撃ポイント目掛けてカバラで正確に銃撃する。フィアーバレットの一撃は普通の狙撃手ならば、これで沈められたはずだった。だが、敵は怯むことなく、正確にティンバーの木面目掛けて一発叩き込んできた。


「この通りだよ、ウィッチ。この距離で俺たちはなすすべがない。『灰』がなければそれだけでピンチな場面だ」


「ならばその『灰』を無力化してやろうじゃないか、総一郎君。――『灰は灰に、塵は塵に』」


 接近してきていたリッジウェイ警部が、挑みかかるような笑みで銃口をティンバーに突きつけていた。それに、ティンバーはこう反駁する。


「『されど我が半身は火よりいずるものにて』」


 銃声。リッジウェイ警部の言霊で、『灰』に帯びたティンバーは体の一部を灰に変えられるはずだった。だが、銃弾は部屋に何度か跳弾して威力を失うばかり。


 警部は、笑う。


「考えたものだ。ユウは天使を嫁に迎えたと聞いたが、まさかそのようなロジックで祝詞を回避するとは」


「聖書曰く人間は塵から作られた。だから塵に出来るし、燃やせば灰になる。『灰』たる仙術を纏った俺にも効く。けれど俺の遺伝子の半分は天使だ。天使は火から生まれた以上、灰にはならない」


「クク、は、ハハハハハハ! そうか! ああ、厄介なことだ! せっかく考えた無敵破りを、破り返されるとは! 本当に度し難い敵だよ君は! まったく、ああ」


 警部はしかし、腹を抱えて、心底嬉しそうにこう言うのだ。


「“また”、次の攻略法を考えないとなァ……」


 高笑いを上げるリッジウェイ警部に、ティンバーは底知れない寒気を覚えた。そうしつつも、ウィッチと共に署長室から退避する。第一回の激突はひとまず引き分けに終わったと、ローレルの予言の精度に恐ろしくなるティンバーだった。


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