8話 大きくなったな、総一郎14
ウッド改めティンバーがウルフマンと共に奥の展示室に足を踏み入れると、「んっ!」という声と共に聖性の感じられる美術品を破壊する魔女帽の少女を見つけた。
ティンバー、その傍若無人で緊張感のない姿に、肩透かしを食らったような気分になる。意気揚々と木刀を手に進んだのが馬鹿らしく感じた。
が、ウルフマンは注意深く赤髪の少女――ヴィーを睨んでいた。ティンバーはいけないいけない、と首を振って、木刀を構え言う。
「ヴィー? 何やってるの?」
「ん……? え、その声イッちゃん!? ウソ、イッちゃんも関わってたのARFって!?」
「関わるも何も」
姉がトップだよ、という言葉をすんでのところで飲み込む。ダメだ、緊張感を保てる自信がない。
と、ティンバーが微妙な顔をしていると、その奥に立っていたファイアーピッグがティンバーを見て驚愕に目の色を変えた。
「おい、おいおいおい。坊ちゃん、何ですかこいつは。ウッドの勧誘にまで成功したんですか、今のARFは」
「ウッドじゃない。俺はティンバー、新メンバーだ」
「んなこと信じられるか! その木面がウッドを思い出さねぇ訳ねぇだろうか! お前に良いようにやられてた時、ARF全体がどれだけ沈んでたか。あんなことがあって、ウッド所縁のない人間にそんな仮面が許されるかよ!」
頭が切れる、とティンバーはようやく緊張感をもって敵に向かうことが出来そうだった。木刀を構える全身に、気が漲り始める。横に立つウルフマンが「ティンバー」と新しいコードネームで呼んできた。
「ヒルディスさんの腕をへし折った報告したよな」
「うん、聞いたよ」
「治ってないか?」
「――」
ティンバーはカバラで確認する。物理的な分析によれば、奴の腕は健康そのもののようだった。
「……そうだね。ファイアーピッグは生物魔術を」
「いや、前までは大怪我したらしばらく療養期間とってたはずだぜ。魔法で治療ができるメンバーってのは居ないでもなかったが、それだけで全快、みたいな万能薬じゃなかった」
空気が、ヒリつき始める。愛見のときもずいぶん謎めいていたが、ファイアーピッグも大概だ。それも、ナイの手からすら離れて独自の目的のために活動していたというのだから、とっかかりというものがない。
「何か緊張感出して来てるけど、私のこれを止める気がある訳じゃないの?」
言いながら、ヴィーは美術品をさらに大きな杖で破壊した。その呑気さが今では不敵に感じられて、総一郎は警戒心を解かず返答する。
「ここの美術品そのものはどうでもいいんだ。目的はあくまで君たちだから」
「そうなの? でも、これを壊すと私たちパワーアップするけど」
え、と戸惑うティンバーを置いてけぼりに、ヴィーはまた美術品を破壊した。ウルフマンが、ぼそりと「仕掛ける。援護頼んだ」と言ってヴィーに突撃する。
「来たわね」
その突進に反応して、ヴィーは杖を振るった。そしてティンバーは、信じられないものを見る。邪神さえ爪での一撃でズタズタに裂いたウルフマンが、たった一撃で跳ねのけられる姿を。
しかし、すでに援護に駆けだしていた体は止まれない。木刀の破魔と魔女の杖がぶつかり合う。抱いたのは、違和感。衝撃がどこかに消え、まるでぶつけるのでなくただ触れたような感触が手に伝わる。
「ん?」
ヴィーも何か予想外の出来事だったのか、再び杖を振り上げ殴りかかってくる。ティンバーが木刀で受けると、やはりただ触れたような感触。衝撃はない。「んん?」と首を傾げるヴィーだ。
「イッちゃん、それなんかおかしくない? どういうこと?」
「俺の台詞だよ、それ」
ぶつけ合いながらお互いにはてなマークを浮かべ合う二人だ。何度か繰り返して、埒が明かないと互いに距離を取る。
そこにそれぞれ近寄っていくのは、お互いのパートナーだ。ティンバーにはウルフマンが、ヴィーにはファイアーピッグが素早く耳打ちしてくる。
「おいティンバー、お前ってそんな怪力だったっけ?」
「そんな訳ないって。っていうかヴィーも多分怪力じゃない。アレ俺の木刀とは似て非なるタイプの種族魔法だよ」
「ってーと?」
「腕力でどうにかするウルフマンの天敵」
「分かった、んじゃおれはヒルディスさんを相手取ればいいか?」
「それが無難かな」
ティンバーの指示に、ウルフマンは「おう」とニヤリ笑った。そして強く踏ん張り、駆け出す。向かうはファイアーピッグ。ティンバーはそのまま、ティンバーVSヴィー、ウルフマンVSファイアーピッグになだれ込むと考えていた。
だが、ウルフマンの攻撃を打ち払ったのは、やはりヴィーだった。
「んがっ!」
ティンバーはその様子に瞬間キョトンとして、それから「あっ、それはそうだ」と自分の失策に気付く。ウルフマンにとってヴィーが天敵であると分かっているなら、あちらは是が非でもヴィーをウルフマンにぶつけてくるに決まっている。
そして、そうなれば。
「おいおいよそ見とは余裕だなぁウッドォ!」
「ウッドじゃないってさっき言っただろ!」
襲い来る火を纏う拳を木刀で打ち払う。力加減はなし。破魔の力を大きく宿した桃の木刀は、ファイアーピッグの腕をへし折った。そしてティンバーはさらに踏み込んで、ウルフマンの加勢に回れるようファイアーピッグを仕留めにかかる。
だがピッグは引き際を十分理解していた。舌を打って後退し、「まったくよぉ。腕っぷしの強さは変わんねぇな、木面野郎」とだらり下がった腕を見やる。
そして奴は、「フッ!」とティンバーが打ち据えた腕に力を入れた。その全体に炎が上がる。そして燃え尽きる頃には、十全に動くようになっていた。
ティンバー、眉をひそめて言う。
「それが、ナイから受け取った新しい力?」
「あ? ナイって……ああ、あのちびの邪神か。そこまで掴んでやがんのか、今のARFは。流石に侮り過ぎてたかもしれねぇな」
―――回答としては、何だ。お前には教えてやらねぇよ。ウッド。
平然と『邪神』と言ってのけるピッグの口ぶりに、ティンバーは不可解さを覚えた。が、その違和感にかかずらっている暇はない。逃げるしかないウルフマンと追いかけるヴィーの間に割り込み、木刀を振るう。
「んっ。イッちゃん! 邪魔しないで貰える? あなたのその木刀に杖が当たると何か妙な感触があるのよ」
「俺こそ無意味に色っぽい声を出すところに文句をつけたいところだけど」
んっ、じゃないだろう、んっ、じゃ。今は戦闘中なのを理解しているのだろうか。
「おい無視してんじゃねぇぞガキどもォ!」
そして全身に炎を纏って突進してくるピッグだ。その勢いは流石に木刀ではいなせないので、素早くかわすとそのまま部屋の壁を貫通していった。
アメコミだ、とティンバーは呆気にとられるばかり。ついでに火が壁に燃え移り始めたものだから、建物を破壊する、という点に関してはARFでも随一なのかもしれない、とティンバーの中で評価が上がる始末だ。
「……どこ行くのよアイツ。ん? っていうか、あー、なるほどね」
ヴィーは何かに納得した様子で、「まぁいいわ。アイツ無しでも私一人で相手してあげる」とニヤリ笑って杖を振るった。その地面になすりつけるような動きは、マッチのように杖の先に火をつけた。
ティンバーはウルフマンの横に並び立ち、小声で尋ねる。
「ダメージは?」
「けっこう、つーかかなり痛ぇ。対ウッド戦でもこんなに体にダメージ行かなかったぜおい」
ちら、と窺う限り、ウルフマンの疲弊具合は確かに見たことのないほどのものだった。毛皮のところどころに血がにじんでいて、見ていて痛々しい。
「ウルフマンってかなり頑丈だよね? 俺があの一撃食らったらどうなると思う?」
「ティンバーがガードせず普通の人間として食らったら、多分その時点でダウンだな」
うわ、と嫌な顔をせざるを得ないティンバーだ。ヴィーから余計目が離せなくなってしまったというところだろうか。厄介だな、と思いながら、木刀を正眼に構える。
とはいえ、ファイアーピッグが居なくなってくれたのは優位の一つだろう。
「俺がまずヴィーの攻撃を木刀で受ける。ウルフマンはその隙に一撃入れてみて」
「おう。爪は出さず、一般人でも死なない程度の奴を入れるぜ。いいな?」
「うん。万一の場合は生物魔術で俺が治療できるから、気にせず叩き込んで」
ウルフマンはニッと笑って、素早く部屋中を駆け回り始めた。「なぁに? 私の目で追い切れなくして襲い掛かろうとしてるの? やーねぇ、本当男って狼……ぷふっ」と面白くもない洒落を言って、ヴィーは自分で吹き出す。
その瞬間を見計らって、ティンバーは肉薄し切りかかった。杖で受け止められ、衝撃が霧散する。
「あら、いいのイッちゃん? 私の杖、火がついてるのよ? そんな木の剣で来ちゃ、燃えちゃうわ?」
「はいはい、生憎特別性でね。魔法由来なら火でも燃えないんだ」
力を入れても入れている気がしない、という妙な感覚を堪え鍔迫り合いをする。その瞬間を見計らって、ウルフマンがヴィーの背中から強襲した。ティンバーは素早く飛び退り、ウルフマンの一撃がヴィーの無防備な背中に入る。
「どうだヴィー! 流石に効いたんじゃねぇか!?」
と尋ねるウルフマンとは反対に、ティンバーの予想通り――
「……ふふっ、J。あなた良い毛並みしてるのね。くすぐったいくらい」
ヴィーは余裕の表情だ。血の気が引くウルフマンとは裏腹に、ティンバーはなるほど、と事態の動きを推察し始める。
最初から妙だとは思っていたのだ。ほとんど戦闘経験のない身のこなしで、しかしファイアーピッグからちゃんと信頼が置かれている。そしてこの高すぎる攻撃力、防御力。それは単純に無敵であれば、技術など必要ないという態度。
代償のない無敵などあり得ない。恐ろしいほどの異能を自由に振りかざす『能力者』たちですら、その力で人を殺してはならない、という制限の中で生きている。ならば、何かしらのカラクリがあると睨むのが必定だ。
「ウルフマン、手ごたえはどうだった? 人だった?」
「いや、少なくとも人間殴ったときの感触ではなかった。つーか物殴ったのともちょっと違った。あんな固いモンそうねぇぜ」
「ヴィー並みに固かったものって覚えてる? 記憶にある限り列挙して欲し」
「二人でラブラブ話してないで、私も相手してよ」
たった一歩で、ヴィーはティンバーの眼前にまで距離を詰めてきた。正眼で構えていたティンバーは即時に杖での殴打を受けとめ、受け流し突きを入れる。「んっ、え?」と困惑の声。ヴィーは後退して、ティンバーの突きを受けた部分を撫でている。
「どうしたの、ヴィー? まさかとは思うけど、痛かった?」
「う、ううん。痛くはなかったんだけど……。イッちゃん、その武器本当になんなの? ただの木剣とはとても思えないんだけど」
「ただの木刀だったらとっくに燃えてるからね」
ティンバーは軽い調子で誤魔化しつつ、目を細めた。木刀の破魔の力があれば、ヴィーにも少し変わった効果をもたらすことが出来るらしい。しかしヴィー自身に痛みがないとするなら。
魔女。ヴィーの衣装は多少素性を隠す意図もあるだろうが、それでも魔女と一目でわかる外見で居ることには意味があるはずだ。
悪魔と魔女の間にあるのは契約だ。事実、ファイアーピッグと契約でもってヴィーは力を得ているのだろう。だが無敵めいた能力を得た魔女の話など知らない。
「ティンバー、おれはどうすればいい? 指示をくれ」
「……そうだね」
ティンバーは考える。考え、じっと見つめ、不意に、思った。
目に力を入れる。天使の目。闇だろうと煙だろうと視界を遮られることのない瞳。一神教の神を見ても目が潰れない、との母からの触れ込みすら有する眼。
集中して、うっすらと見え始める。ヴィーの周囲を守る炎。そして、彼女から伸びる姿なき炎。ファイアーピッグが突進していった方向に延びているそれ。
ティンバーは、鋭く指示した。
「ファイアーピッグを追って。俺はヴィーをここで食い止める」
「分かったッ!」
「ッ!」
ヴィーは目を剥いて、瞬時にウルフマンに襲い掛かった。だが彼女の戦闘技能は一般人に毛が生えた程度のもの。戦い慣れたティンバーにいなせない様なものではない。
杖を受け止め、受け流し、返す刀で胴を一凪ぎにする。ヴィーがそれに一瞬怯んだ時には、すでにウルフマンはピッグが消えていった穴へと消えていた。
「……イッちゃん」
ヴィーは睨みつけてくる。ティンバーは余裕綽々で、木刀の切っ先をヴィーに向けた。
「ヴィー、君の持ってる力は非常に強力だ。けど、経験が足りなさ過ぎたね。あそこで必死になって襲い掛かってくる時点で、君の弱点がファイアーピッグだと言ってるようなものだよ」
「――だとしても、Jがアイツに勝てるかどうかはまだ分からないでしょう? アイツだって破壊力だけはすごいんだから。もしかしたらボロボロのJを連れて戻ってくるかも」
「それはないよ。ウルフマンだって抜けてるけどバカじゃない。追いかける過程でハウンドにも連絡する。そうすれば万一にも勝ち目はない」
「だ、だったら! 私がここでイッちゃんを倒してJもハウンドも倒せば」
「は」
ティンバーは、短く笑った。そして、肩を竦めて言ってやる。
「それ、冗談?」
ヴィーは怯えたように肩を跳ねさせ、一歩後じさった。だが、彼女も最低限の場数は踏んできているらしい。杖をくるりと回し、自分を鼓舞するように地面を叩き、言い放つ。
「冗談かどうか、分からせてあげる」
杖の先に灯った炎が、一気に下に垂れ落ちた。それは杖と地面の接触点から溶岩溜まりの様に広がり、複雑に炎の道となって駆け巡り、美術館全体を崩落させ始める。
「なるほど、これで建物を倒壊させるのか。便利だなぁ」
「その余裕ぶった態度、いつまで保てるか見せてもらうわ」
ヴィーは杖で地面を叩く。同時、ティンバーの頭上から瓦礫が降ってきた。避けるには、と視線を空いた空間に向けると、そちらに一足先にヴィーが飛び込んできている。
なるほど、挟撃のつもりらしい。確かに有効だ。瓦礫をどうにかすればその隙にヴィーが一撃入れられる。かと言ってヴィーに攻撃を入れようにも彼女には攻撃は効かない。
だが、ティンバーには『灰』がある。
ヴィーの視界に捉えられない角度で、ティンバーは『灰』を記した。それで瓦礫も、ヴィーの一撃も意味を喪失する。ヴィーはすり抜けた攻撃に「えっ?」と声を漏らし、ティンバーは『灰』を吹き飛ばして踏み込んだ。
「ヴィー、とりあえず君が怪我をしないことは分かってるし、手加減はしないよ」
横凪ぎ。ヴィーに痛みはないらしいが、それでも木刀の一撃が入ると怯む。それは攻撃を受ける、という経験そのものの不足故か。構わず返す刃を叩き込む。
そこでようやく正気に戻ったのか、彼女は「調子に乗らないで!」と杖を振るって来た。だがティンバーはもう対処法を確立している。ヴィーの攻撃の出初めを叩けば、そこで互いに動きが止まる。違いはそれが意図したタイミングであるかどうか。
つまり、止められたヴィーよりも、止めたティンバーの方が一拍速い。
腹部に蹴りを入れる。確かにこれは少女どころか人間の蹴り応えではない。まるで巨大な石像に足を駆けたような感覚。だから、それに従いヴィーを“登った”。
跳躍。からの、落下の威力を加えた脳天への一撃。
痛みはないが衝撃は伝わるのか、ヴィーはよたよたと後退した。震える手で頭を押さえながら、こちらを上目遣いで見やってくる。
だからティンバーは、威嚇の意味も込めて木刀を強く振った。ゆったりと歩み寄ると、ヴィーは青い顔になって下がる。
「どうしたの? 俺を倒してファイアーピッグを助けに行くんじゃなかったっけ?」
「ひ、ぅ、うぅぅうぅうう……!」
しがみつくように腰の引けた姿勢で、ヴィーはこちらに杖を構えて見せた。割と心を折ったつもりだったが、存外強い心の持ち主らしい。抗戦の意思は消えていない。
どうしたものか、と考える。流石にこれ以上打ちのめすのは、ダメージが本人に行かないと分かっていても気が引ける。
と、ちょうどそのタイミングだった。
「おうイッちゃん! ヒルディスさん捕まえてきたぞー!」
「えっ」
「ティンバーだって。身バレしたくないからその辺はしっかり頼むよ」
苦情を述べながらも、笑顔でピッグを担ぎ戻ってくるウルフマンを迎える。その後ろにはハウンドが控えて、ヴィーに銃口を向けていた。ピッグはハウンドのフィアーバレットで無力化されたらしく、全身を震わせ抵抗も碌に出来ずにいるらしい。
それに咄嗟に飛び出すヴィーだが、当然ティンバーがそれを許さなかった。杖を軽く打ってから木刀で足払いし、転ばせた背中を木刀そのままに押さえつける。
「はい、これで勝負がついたね」
「……ウソ……」
木刀で押さえつけられていると立ち上がる力も湧かないらしく、ヴィーの腕が無力に悶える。なるほど、破魔の力に対抗するために、ウルフマンをも打ち払う力は使われてしまうらしい。
ティンバーは魔法の組み合わせで適当に縄を作り出し、木刀を噛ませて両手を背中で拘束した。
「いやー、大変だったぁ~。体の節々痛ってぇ~! ははは!」
大きく伸びをして、ウルフマンは笑う。それに「お疲れ様。ハウンドにはさっき言ったけど、重ねてね」と労いつつ、ティンバーは水魔法で美術館を崩落させるヴィーの炎を鎮火させていく。
「は、はは、まさかヴィーが負けるたぁ、想像してなかったぜ。だが、命に関わらねぇここで、下手な自信をへし折られておいて良かったかもな……」
震え声ながらも、ファイアーピッグは笑って見せた。ヴィーはあまりに悔しかったらしく、唸りながら泣き始める。
「ウソ、ウソよ。私はもう無敵だって、そう言ったじゃない……! ウソ、ウソ吐き……!」
「……すまねぇな、ヴィーラ。嘘のつもりは、さらさら無かったんだがよ」
ウルフマンはファイアーピッグついでにヴィーも抱え上げ「んじゃ帰るか」と言う。それを継ぐ形で、ハウンドは電子音声で『後処理部隊を呼び寄せた。我々は人目につかない形で帰るだけでいい』と告げた。
「それは楽だね。じゃあ帰ろう。……ところでさ、聞いていい? 二人とも」
話しかけられたのがウルフマン、ハウンドでないと気づいたヴィー、ファイアーピッグは、共に顔を上げティンバーを見た。ティンバーは「二人ってさ、どういう関係なの?」と尋ねる。
実はずっと気になっていたのだ。とてもじゃないが関係のなさそうな二人である。しかも悪魔と魔女と言う関係性だ。魔女について多少の知識があると、どうしても邪推してしまう。
しかしヴィーは涙に赤く腫れた目でもって、胡乱そうな目つきで言った。
「……親子だけど」
今日一番の衝撃だった。