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武士は食わねど高楊枝  作者: 一森 一輝
自由なる大国にて
207/332

7話 死が二人を別つまでⅨ

 ノア・オリビアに乗り込む前の前哨戦、ということだった。


「白ねえもなかなかこき使ってくれるよ。敵の下部組織をたった二人で潰してこい、だなんて」


「まぁまぁ。それより、私は何だか懐かしい気分だよ。ソウとこうやって狩りに出られるとは、別れたばかりのころは思っていなかった」


「狩り、ねぇ」


 マンハントなんて随分な趣味だ、と思うが、よくよく考えてみればベルはカバリストハンターだ。人狩りなんて今更なのかもしれない。


 道端を、二人はのんきに歩いていた。総一郎とベルは最低限の準備だけ済ませて、日が昇るか否か、といった早朝に指定場所へと出向いたのだ。


「それで、私はどこで何をすればいいのかな」


「作戦の大筋は、宣戦布告代わりの拠点崩しらしいよ。俺とベルがここ、アーリとシェリルがここ、他にも数組がそれぞれっていう風に、同時多発的に下部組織をつぶすのが今回の作戦なんだってさ」


「何だかテロっぽい」


「いやまぁ、ARFって平たく言っちゃえばテロ組織だし」


 革命組織とか差別撤廃活動集団とか、聞こえ良く言うこともできるがこれから行うのは犯罪行動だ。マフィアの抗争と大差ない。


「で、今回の任務でベルの能力も見ることになってるから、俺はあんまり手を出さない。ベルは敵を殺してもいいし殺さなくてもいい。ベルに求められてるのは、敵を完全に無力化することだけだからね」


 僅かな含みを持たせて言うと、ベルは俯いて、への字口を作った。それが思案しているのだ、と総一郎が気づいたと同時、ベルは顔を上げる。


「殺してARFの責任問題にされても、殺さなくて報復されても不合格ってことになるのかな」


「そのくらいはこなして貰わないと、ノア・オリビア本部に乗り込むとき不安だからね」


 アーリはその点徹底的だ。抜かりない。その抜かりない彼女が窮地に陥った場所、とノア・オリビア本部を認識すべきなのだ。


「そもそも、ベルが具体的に何ができるのかって、俺よく知らないんだよね。弓矢とカバラが使えるのは知ってるけど」


「何だか挑発されてるみたいだ」


 ベルは総一郎の言い草に不機嫌そうだ。だから少年は相好を崩して、少女のリラックスを誘った。


「当たり。目にもの見せてよ。そうすれば俺たち二人で本部に乗り込める」


「――ふふ、分かった。期待しておいてくれ」


 そんなことを話していると、目的地にたどり着いた。人気のない朝の教会。とはいえ、なかなか大きな施設だ。住み込みの傭兵がいる拠点を当てた、と聞いていた。


「ここだね。じゃあお手並み拝見と行こうか。俺は後ろからついていくよ。挟撃したいときは指示をくれれば動く。けど主体的には君に任せるから、頼んだよ、ベル」


「ああ。じゃあ……そうか、薔薇十字団の時みたいにしなくていいのか」


 ぽつりと拍子抜けしたような声を漏らして、ベルは肩に担いでいた荷物を下ろした。長柄の筒だ。それを開くと、糸を張っていない弓が出てくる。


 ベルは弓の先をつまんで、どこからともなく糸を伸ばした。総一郎は僅かに驚き、誤解に気付く。糸は取り出したのでなく、“作り出した”のだ。


「魔法だね。カバラでいじって最適化させた奴だ」


「聖神法由来のものだけどね。UKは亜人と親しくないから、親和力でずいぶん苦労したよ。とてもソウみたいに、大規模な魔法は使える気がしない」


「あれはあれで使い勝手悪いし、羨むようなものではないよ」


「持てる者が何を言っても嫌味にしかならないよ、ソウ」


「これは手厳しい」


 会話の最中に弓は張られ、ベルは空になった筒に魔法で生み出した矢をストックした。中から一本だけ、弓につがえる。


 弓矢を構える手の、親指に力が入っている。緊張か、警戒か。総一郎は肩の力をほぐすくらいの補助はいいだろう、と軽く質問する。


「どこに打つのさそれ」


「この教会の混乱に、かな」


 矢が放たれた。上向きにとんだ矢は屋根の上に飛んで見えなくなる。


 同時、教会内のアナグラムが大きく動いた。驚く総一郎に、ベルは不敵に笑いかけてくる。


「さぁ行こう。っと、顔を隠す必要があるんだったね」


 ベルは白羽に渡された顔の下半分を覆う骸骨のマスクを付けた。総一郎もそれに倣って、ハロウィンのパンプキンマスクを被る。


「春先にこのマスクはいいね。ネックウォーマーみたいだ」


 冗談めかして笑うベルに、「こっちはネックどころか顔全体がぬくぬくさ」と返す。吹き出す彼女に達成感を覚えながら、総一郎はマスクをつまむ。


 こうやって顔を隠すと、自然にウッドの木面を思い出された。だがアレは灰となって総一郎の周囲を漂っている。異次元袋の中にあるのは、木面をかたどった修羅の塊だ。


 あれを被るのは今じゃない。総一郎はパンプキンマスクの位置を調節して、ベルの後に続いた。











 教会内に入ると、こちらに背を向けた修道服の男が、聖堂の奥へと銃を乱射していた。ベルは背後から男の首を腕で拘束し、そのまま膝裏を蹴飛ばして背後へ引きずって、“男の身長よりも低い位置で”窒息させる。


「やるね。絞め落としがこんなにスムーズな女の子は珍しいよ」


「馬鹿にしてるのか褒められてるのか判断に困る感想をどうも」


 失神した男を、ベルは静かにその場に寝かせた。「それで」と総一郎は尋ねる。


「この人が銃を乱射してたのはどういうことかな。君の仕業だろ?」


「矢を使って、立てかけられてた銃を誤作動させたんだ。タイミングと位置次第では同士打ちを狙える。ほら、見てみるといい。この男が乱射した先には、何人も倒れている」


 総一郎は何人もの修道服の男たちが、血まみれで銃を抱えて倒れ伏しているのを見つけた。誰もがハチの巣だ。エグイこと考えるな、と総一郎は少々呆れてしまう。


「これで全員?」


「いいや、他にも残っている。けど、彼らは全員非戦闘員だ。少し脅せば抵抗はしないよ」


「ベル。君、強盗の経験とか」


「失礼だな君は! 私はカバリストたちを襲撃したときの経験知を話しているだけで」


 本質的には同じではないだろうか、と思ったが、総一郎は黙っておく。下手に怒らせることもあるまい。


「まったく――ともかく、これで私の実力の片鱗くらいは見て取ってもらえたんじゃないか」


「そうだね。俺やアーリと比べてもレベルが上のカバラだ。まさか最小の手数でここまでとは」


「私はその点に関してはまだまだだ。ローラとは比べ物にならないし」


「……」


 ベルがたまに出すその名前を、総一郎は意図して黙殺した。話を逸らす。


「じゃ、後はさっさと非戦闘員を拘束して、資金なり命令書なりを確保すればおしまいかな。今のうちに連絡を入れておけば、ARF構成員の人がうまくやってくれるでしょ」


「ん? 非戦闘員はどうするんだ」


「だから、それを構成員の人がうまく」


「ソウ、君は人間としていきたいと言っていなかったか……? あまりにも非人道的な判断だぞ、それは」


 総一郎はキョトンとして黙り込んだ。それからこめかみの辺りをぐりぐりとやって、言葉を返す。


「何を勘違いしているのか分からないけれど、ノア・オリビアの下部組織として動いてるってことは、正気ではない可能性が高いんだよ。だから一旦確保して、洗脳を解く方法を模索する。非人道的な部分がどこにあるっていうんだ?」


「あっ、ああ、何だそういうことか。すまない、カバリストとして動いていた時期の固定観念が、まだ取れきっていないみたいだ」


 どこか落ち込んだ様子で、ベルは謝ってくる。何をやらされたんだ、とは聞けなかった。それは、ベルの古傷を抉るのと同義だ。


 総一郎はあくまで仕事に徹するという態度で、ベルと手分けして非戦闘員の教会関係者を拘束して回った。大抵は開幕の銃声におびえて部屋の物入れの奥に隠れて震えているのが常で、さしたる手間はかからなかった。


 ただ、一人を除いて。


「この背信者どもめ! 儂は絶対に降伏せんからな! ああ、ウッドよ。我らが神の御遣いよ。わが身を守り給え、わが身を守り給え……」


 鉄製の隠し扉の向こうに隠れた老神父が、明らかに正気ではない叫びをあげて閉じこもっていた。すでに呼んでいたARFの構成員たちが非戦闘員を大きめの車で引き取っていく中、神父のしわがれた声だけが強硬な抵抗を示している。


「人の名前で好き勝手。いい面の皮だよ」


「ソウ、何か言ったか?」


「ううん。にしても何だか別の意味で面倒なのが居たね」


「こういう手合いは初めてだから、私もちょっと困惑しているよ」


 名も知らぬ構成員たちに指示を出して、神父はいいからおとなしい教会の人々をARF本部へ連れて行かせる。残るは総一郎、ベル、そして神父だけとなり、朝の静けさに「儂は屈さぬ、屈さぬからなゴホッゴホッ!」とどこか間の抜けた声がこだました。


「咳き込んじゃってるし。どうしようか、ベル。俺の魔法で扉を突き破ると、多分おじいさんごとやっちゃうんだよね」


「されはさすがに嘘だろう。カバリストがそんなへまをするはずがない」


「じゃあ最終試験だ。おじいさんを無傷で確保出来たら、ベルは文句なしに活躍してくれたって報告するよ」


「監督官の立場を悪用して面倒な仕事を……。いい性格してるね、ソウ」


「それはどうも、お褒めにあずかり恐悦至極」


 恭しく礼をすると、軽めに頭をぽかりとやられた。ベルは不貞腐れた顔で、鉄扉に向かう。


 魔法ならば破ることは難しくない鉄扉だが、魔法以外の手で突破するとなると途端に存在感を増す。そのため、面倒くさいのは別としても、物理的な障害に対するベルの手を見ておきたかった。


 ベルは鉄扉に手を触れ、ペタペタと触診を始めた。どうやら鍵穴を探しているらしい。その様子を見ているかのような調子で、扉の向こうから声が響いた。


「この扉に鍵穴なんぞないわ間抜けめ! 今すぐこの場を立ち去れ! でなければウッドの使徒様が貴様らに天誅を下すぞ」


「使徒様ってなんだよ」


 総一郎、不機嫌をあらわに吐き捨てる。ベルも憤懣やるかたない、という顔で顔を上げた。


「確かに鍵穴はなさそうだ」


「じゃあどうする? 諦める?」


「そうじゃそうじゃ! 諦めて帰るがいい小童ども!」


「いいや、声がこうやって響かせられるってことは、それなりに壁が薄いってことだ。扉以外にも注意を払うべきだったな神父」


「はえ?」


 ベルは扉の前に立ち、弓を引いた。ベルの無詠唱魔法が、矢の先に火をともす。


「火事にはしないでよ? 目立つのは避けたいからね」


「分かってるさ。それに、この火は見た目通りじゃない」


 放つ。向かう先は扉ではなく壁だ。至近距離で刺さった矢は、その着弾点を中心にマグマのように熱に帯びて融解した。石壁に拳三つ分くらいの穴ができ、融け出さなかった部分も赤熱している。そこにベルは思い切り蹴りを食らわせた。


 穴の向こうで、腰を抜かした神父がこちらを凝視している。これで人一人くらいなら余裕で通れる大きな穴の完成だ。


「ひっ! そんっ、そんな!」


 壁の向こうで神父が悲鳴を上げる。ベルは肩を落として、「まったく手間を掛けさせてくれたものだ。このご老人も、面倒くさがりなソウにも」とじろりと睨まれる。


「ハハ。ひとまず、対応能力の高さは感じさせてもらったかな。俺からは白ねえにOKサイン出しておくよ。ただ実力がまだまだ未知数だから、いくらかヒアリングしてもう何度か任務が続くかもしれない」


「何でもいいけど、手早くしてもらいたいね。早くノア・オリビアの調査に乗り出して、薔薇十字団の関与を確かめたいんだ」


 確証が持てていないため、実績を積み次第潜入調査という話になったと聞いていた。その所為か、ベルのモチベーションは高く維持されていると。焦ってミスでもなければいいけど、と総一郎は苦笑する。それから仕事に注意を戻し、老神父の肩に手をかけた。


「ほら、行きますよ。抵抗しない限り、乱暴をするつもりはありません。大人しく付いてきてください」


「ああ、ああ、ウッドよ。我らが御遣いよ。我が窮地に救いを与えたまえ。使徒様、使徒様!」


「力が抜けてて立ち上がってくれないな」


 総一郎は困り顔でぼやいた。とはいえさしたる問題ではない。少し力を込めて、神父を背負――


 うめき声。総一郎とベルは間髪入れず振り返った。真後ろに立つ、虚空を見つめたゾンビがいた。ぼんやりと揺れながら、何某かを呟いている。


「な、何だ? いつの間にここに」


「ベル、注意して。何か変だ。そいつ、何て言って――」


 総一郎は音魔法でゾンビの声を拡大する。そして、知った。その呟きが、あまりに激しい数字の羅列であることを。


 ゾンビが力なく、背後から手を垂らす。アサルトライフル。指が動いた。引き金。総一郎はこの部屋中のアナグラムを魔法で収集し電脳魔術で演算に掛けた。跳弾に次ぐ跳弾。そこに逃げ場はない。


 ゾンビがアサルトライフルで、狭いその場を銃撃で一掃する。薙ぎ払うように吐き出された弾丸は、時に直接、時に跳弾で、時に弾丸を回避する行動をつぶすように総一郎たちへ飛び回る。


「――逃げ場がないなら作ればいい」


 それに対処したのはベルだった。素早く放たれた矢は天井に突き立ち、魔法による破壊力で天井の崩落を誘う。落下する大きなサイズの瓦礫の数々は、銃弾も総一郎たちもまとめて押しつぶそうとした。


 だが、ここまで時間を与えられて動けない総一郎ではない。銃弾が瓦礫にぶつかってほとんど意味をなさなくなった以上、後は瓦礫の直撃を避けるだけだ。そして総一郎は、無機物の大規模破壊に特化した魔法を愛用していた。


「原子分解」


 跳ねまわる銃弾ごと瓦礫から電子を奪い、その電流をゾンビに向けて解き放った。落雷のような音とともに教会内に電撃が走る。周囲の邪魔なもの全てが原子と化して空中に溶けるのを見送りながら、少年は眉をひそめた。


 ゾンビは、すでに消えていた。電撃も食らわなかっただろう。恐らく先んじて逃げ出していた。


「あの緩慢な動きで、どこかに隠れおおせるとはね。……にしても」


 引っかかるところがあって、総一郎は口元に手を運んだ。本気で考え込むときの、姉弟そろっての癖だ。それを知らないベルは、自分なりに意見を述べる。


「ゾンビがカバラを解するとは、驚かされたよ。でも、薔薇十字のカバリストじゃない」


「それはどうして?」


「私が殺した連中に、あんな顔をしたやつはいなかったから」


 なるほど、と頷いた。これ以上ない説得力だ。


 となると、総一郎の中で嫌な予感がしてくる。本家筋ではない、アメリカのカバリスト。すでに死んでいる、若い男性の体躯。あの低めの身長のほどを、総一郎は――ウッドは覚えている。


「アナグラムがわずかだが乱れている。こっちだ」


 気を張っているのだろう。弓矢を握る親指を力ませるベルの先導に、総一郎はついていく。二階への階段を上がっていく。その先に、奴はいた。またも銃撃を放ってくるが、そうと分かっていれば怖くない。


 風魔法。カバラで調整されたそれは、総一郎たちが立ち止まっている限り銃撃に対して無敵になれる代物だ。ゾンビの弾丸がマジックウェポンでもない限り、突き抜けてくることはないだろう。


 そしてマジックウェポンは、すでに流通されていない。シルバーバレット社以外に製造不可能なオーバーテクノロジーを使えるのは、警察に残された最後の貯蔵分に手を付ける権限を持つものだけだ。


 すなわち、リッジウェイ警部。亜人差別の第一人者。


「……君を殺した人でなければ、俺たちを殺せないよ、ロバート」


 魔法で木製の床からゾンビの足を封じる細木をはやした。移動を封じられたそのゾンビは、ただ愚直に総一郎たちに射撃を続ける。ベルはすでに矢をつがえていて、躊躇いなく射抜いた。


 頭蓋を貫かれ、動く死体は倒れ伏す。それから静かな炎とともに燃え上がり、延焼することなく燃え散った。


「知り合い、だった?」


「ううん、一度もあったことのない人だよ。ただ――親しい人の家族だった。特徴で、分かってしまった」


 下唇をかむ。それ以外に、どうすることも出来なかった。悲しんでいいのは、アーリを筆頭とした旧知の人々だけだ。ロバートと話したこともない総一郎に、その権利はない。


「もう行こう、ベル。老神父を引き渡して、資料を漁らなきゃ」


 その場から離れようとして、しかしベルは動かなかった。振り返って見ると、ベルは燃えるような目つきでゾンビが消えた地面を見つめていた。


「どうしたの、ベル。早く行こう」


 呼びかけるも、返事はない。ベルは手がぶるぶると震えるほど強く握りしめて、義憤に駆られていた。


「死を、冒涜している」


 ぽつりと、ベルは言う。


「先日から、ずっと思っていた。このゾンビ騒動は、ゾンビという脅威そのものの話に収まらないと。この街で懸命に生きてきた生者の心をかき乱し、あざ笑っている」


「ベル」


「こんなこと、許されていいものか。死者の影を乗り越えるのに、どれだけの痛みを乗り越えてこなければならないと思っている。それを、やっと乗り越えて歩き出せた相手に、また突きつけるのか。そんな、そんなこと」


 ファーガスのことだ、とすぐに分かった。総一郎はベルの手を取って、「もう行こう」と急かす。「もう、俺たちにできることはない」と。


「分かってる! けど、許せないんだ。ファーガス、私は、君を」


 ベルはその先の言葉を飲み込んだ。それから俯いて、足早に階下へと降りていく。その背中を目で追いながら、総一郎は口をきつく結んだ。


 ――総一郎はベルに対し、一つ、重大な話をできないでいる。最悪の可能性が、ベルの前に存在していると。現状不可解な点が多く、もしかすれば父なのかもしれないとした偽ウッドの正体。それはそれで最悪だが、もう一つ最悪な可能性がある。


 木面を被り、アーリをやすやすと退けられる剣士。ナイは総一郎と無関係な人物を、ウッドの偽物として連れてくることはないだろう。そしてゾンビ事件の数々を引き起こしたのがノア・オリビアだとすれば――ノア・オリビアに死者蘇生能力があるのだとすれば、偽ウッドの正体にもう一人の可能性が浮かび上がる。


「ファーガス」


 総一郎は呟く。それから一人首を振り、どちらであってくれるなと撤退を始めた。


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