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武士は食わねど高楊枝  作者: 一森 一輝
陰惨の過去持つ国にて
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8話 森の月桂樹(3)

 そんな風にして、数日が経った。案外、慣れるのも早かったように思う。フィリップじいさんはチェスが好きで、それに付き合っていたら自然に仲良くなった。ヘレンばあさんは、特に何もないが、総一郎をよく気に掛けてくれる。


 未だあまり話さないのは、ローラぐらいだ。


 総一郎はある程度体調が回復してきた日に、ヘレンさんに手招きされた。彼女は最近隈が出来ていることが多く、それが総一郎と反比例しているようで何処か嫌な気分だった。


 その為呼ばれた時少し抵抗感があったのだが、「ほら、何をやってるんだい。さっさとおいで」と、さも付いてくるのが当然の様に言われてしまうと、従わざるを得なかった。


「ふぅ――、年を取ってから夜中まで無理をするもんじゃないねぇ。お蔭でちょっと風邪気味さ。でも、その収穫はあった」


「何の、話をしてるの?」


 打ち解けたのもあって、総一郎の堅苦しい話し方は崩れている。


 少年の問いに、ヘレンばあさんは「これさ」と、ある一冊の本を取り出した。総一郎は一瞬訳が分からなかったが、理解して「何でおばあさんが?」と訊かざるを得なかった。


 彼女が総一郎の前に掲げたのは、『美術教本』だった。


「いやね、随分ときな臭い坊やが来た物だから、少し私物を漁らせてもらったのさ。そしたら、これが出て来た。まさかこんな所に力を持った本に出会う何と思わなかったよ」


 力とは何ぞやと思った総一郎だが、思い当たる節が無い訳ではなかった。


「……数秘術の事?」


「ん? 随分と一部を挙げたねぇ。私が言っているのはカバラの事だよ」


「はい?」


 虚を突かれて足が止まった総一郎をヘレンさんは急かし、居間のテーブルで改めて対面する。


 他に、人は居なかった。ローラは何処かへ出かけてしまい、爺さんも店番をしていた。何やら今日は張り切っていたから、杖屋としての依頼が来たのかもしれない。


 部屋の中で二人きり。総一郎は、『美術教本』に目を向けつつ唾を呑み込んだ。老婆は少年へ向けて本を置き、その上に人差し指を置く。


「ソウ、あなたはこの本が一体何であるのかを、詳しく知らない。だが、ちょっと、欠片だけは把握している。そうだね?」


「うん」


「数秘術は知ってて、カバラは知らない」


「うん」


「……」


 老婆は、何かを考えるかのように目を瞑った。総一郎は、それを無言で待った。どんな葛藤があったのかは分からない。ばあさんは、「仕方ないね」とだけ言った。


「坊やは随分な星の元に生まれているようだ。教えない訳にはいかないみたいだね」


 ヘレンばあさんは、言いながら一ページ捲った。軽い調子で、七文字飛ばしに文字を突いていく。


「この文字を繋げると、意味が通るのは知っていたかい?」


「うん」


「そうやって文字の中に本当の意図を隠す技術は、数秘術、あるいは数秘法と呼ばれている。実際はちょっと違うんだけどね。ちなみに一ページ目の方法はテムラーと呼ばれる物だ。だが、こんなのは初歩の初歩。数秘術の神髄は、もっと深くにある。それに手を伸ばす生き方が、カバラ。その探求者達を、総じてカバリストと呼ぶ」


 『薔薇十字団』、『フリーメーソン』という秘密結社を知っているかい? ヘレンばあさんは、総一郎にそんな事を訪ねた。ファーンタジー小説が好きな総一郎からしてみれば、聞き覚えのある名前だ。


「うん。名前だけなら、有名だから」


「この組織はね、どちらもカバリストの集団だった。クリスチャン・ローゼンクロイツという一人のカバリストから薔薇十字団が始まって、詐欺師が多くなってから違う隠れ蓑を被った。それが、フリーメーソン。ただまぁ、今はそちらにもカバリストなんか残っちゃいないがね。で、肝心なのはおばあちゃんがその秘密結社の一員って事さ」


「……なるほど」


「こら、もっと驚きなさいな」


 腕が伸びてきて、総一郎の額にデコピンを食らわせた。「痛い」と目を瞑る総一郎。多分表情はそこに無い。


「だって、知らなければそんなこと分かる訳がないじゃないか。それ以前に、僕が逃げようとして逃げられなかった時点で、ちょっとただ者ではないなと思ってたし」


「ああ、そういえばあの時私はカバラを使っていたねぇ」


 中々の洞察力じゃないか、ソウ。とばあさんはからからと笑う。


「で、本題なんだけどね。この本は、一ページ目だけ文字列を組み替える方法で解ける作りになっていて、それ以外は非常に高度な文字列、しかも、素人じゃあ絶対に読み解くことの出来ない作りになっている。隠して伝えるという意図じゃなく、力を持たせるための文字の組み方をしているんだね。カバラをここまで深く知るなんて、知人に天使か何か居たのかと疑ってしまうほどだけれど」


「いやぁ、……それどころか夫婦になってるんじゃないかなぁ?」


「何か言ったかい?」


「ううん何も」


 もしかしたら、『美術教本』は父が書いたものなのかもしれない。


「というか、カバラと天使に何か関係が?」


「ん、ああ。この世界は四つに分かれていて、一番程度の低いのがこの世界らしくてね、でも努力によって上に行けるかもしれない。その為に神がモーゼに与えた律法の魂の魂が、カバラなのさ」


「え?」


「要するに、カバラを深く学べば天使や大天使、ひいては神になれるかもしれないって事だよ」


「カバラ凄いね」


「プライマリースクール生並みの感想だね」


 小並感と言われて視線をすっと遠くに持っていく総一郎。しかしそれ以外に何を言えというのか。


「それで結局のところ、この本にはどんな力が込められていたのさ」


「ああ、それについては単純さ。この本の持ち主は、カバリストに出会う運命にさせられるって事。そして大事なのが、カバラの中でも高度な数秘術は、必ず口伝えされるって事さ」


「……持っている人物は、いずれ数秘術を学べるようになるって事?」


「持ち主の人格によるがね。しかも、持ち主と言ったって、この本は坊やの持ち物にしかなり得ないらしい。ソウがもしこの本を売ったら、嫌でも手元に戻って来るよ」


「そりゃあ、また、何とも……」


 ちょっとしたホラーだ。


 それでヘレンばあさんの話は、詰まる所総一郎に数秘術を教えてくれるという事らしい。総一郎は好奇心の犬だが、最近は多少なりを潜めている所がある。


 素直に楽しむことに、抵抗感があるのだ。理由は、もやもやとして分からない。ヘレンばあさんは、口を開いた。


「だが、今は教える時期じゃない。カバラは難しいからね。やる気の無いものに教える義理は無いの」


 教えて欲しくなったら、改めて言いなさい。と微笑まれ、総一郎は少々驚きながら頷いた。


 光魔法で自分の表情を確認したが、そこに表情など浮かんではいなかった。




 ブシガイトが、寝込んだ。


 体調を崩したと聞いていたが、特に病気ではないらしい。ローレルにとって祖母の言う事に間違いはないので、素直に信じた。彼は熱にうなされていて、見るのも痛々しいのだとか。


 看病は祖母に任せるつもりだった。そもそも、自分は非常時以外で彼に対してコミュニケーションを取るつもりがない。嫌っているというのではなかった。ブシガイトが悪い人間でないのは知っているからだ。しかし、彼の存在は危うくもある。


 関係を深めれば、何か恐ろしい事が起きる。これは直感だが、違うとも思えなかった。


 だからこそ、早く出ていってほしい。ローレルはいつ爆発するか分からない不発弾を見るような目で、ブシガイトを見ていた。思いのほか祖父母が彼に甘かったので、思惑通りに運ぶかハラハラしてはいたが。


 彼は数日にわたって寝込み続け、いい加減病院に連れて行った方がいいかという話も持ち上がった。流石の祖母も思案した様子があって、ほっとした物だ。出費は高いが、ある意味では体のいい厄介払いだからである。そう考えられるのは、社会に出ていない少女の考え方なのか。


 だがその時、予想外の事が起きた。先述した『非常時』が訪れたのである。


「ごめんねぇ~、ローレル。どうしても外せない用事があって、今日は家を空けなきゃならないの」


「済まないが、ローレル。杖屋の方で、少し貴族様の屋敷に行かなければならんようになっちまった。ばあさんもいないが、何とかやってくれ」


「……え?」


 家の中。一人……ではない。二人。それも、片方は一人では起き上がれない程の重病人である。


 幸い朝食は祖父母が彼に食べさせたらしいのだが、逆に言えば彼は一人でご飯も食べられない程であるという事の証拠でもあった。ブシガイトが寝込んで以来彼と会っていないローレルだが、そこまでひどい状態であるのか。


「……不覚です。こんな事が起こるなんて夢にも……」


 看病が必要な人間を見捨てるような真似は、ローレルには出来ない。これは生来の物で、曲げることの出来ない性分だ。


 殺してやりたいほど憎んでいる相手でも、その人物が瀕死で、自分がそれを救えるとしたら、彼女はやはり救わざるを得ないのだ。


 損な性格だと、自分でも思っている。


「……食事は別にいいとして」


 どの程度の世話を見てやれば十分なのか、彼女には掴めなかった。必要最低限が望ましいのだ。ブシガイトが不便や苦痛を覚えない程度の水準である。


 どうしたものかと考えて、とりあえず様子を見に行くことにした。足音を潜めながら二階に上がり、扉を開ける。まず聞こえたのは、荒い息である。次に、暗く湿度の高く感じられる室内。病人が居る部屋特有の雰囲気。


 寝ているのだろうと推測し、さらに慎重にベッドに忍び寄った。顔が赤い。指先で額に触れると、熱く感じた。額を冷やす物は必要だろう。


 別に、面倒とかではないのだ。そもそも看病が無ければ小説を読み返すくらいしかやる事が無かった彼女である。看病だけなら、構わない。問題はそれをブシガイトが知って、この家にいる事に慣れてしまう事だ。


 今はまだ、彼はこの家に慣れ切っていないとローレルは見ている。自分が彼と碌に話さず防波堤の様になっているのだろう。それが狙いでもあって、その為に彼女は頭を悩ませていた。自分の信念と目的のせめぎ合いである。ボーダーラインは何処に。


「これでいいでしょうか」


 冷蔵庫から熱救急シートを一枚取出し、鋏で半分に切った。再びそろりそろりと階段を上る。ドアを微かに開け、寝ているかを探った。息は、先ほどよりも落ち着いている。今だ! と踏み出した瞬間だった。


「あれ……おばあさん……?」


 弱々しい声にピタッ、とローレルの動きが止まった。ただ寝言のようでもあって、それが余計に少女の動きを抑止する効果をもたらした。


 奇妙な体勢のまま硬直するローレル。ブシガイトは侵入者が少女であると気付いていないのだろうままで、弱々しく言葉を続ける。


「また、世話をしに来てくれたの……? いいって。僕はそこまで弱ってないし、恥知らずでもない。カバラ関連で用事があるんでしょ? そっちを優先しなよ……」


 少女は口を開かないまま、カバラ……? と眉を寄せた。カバラとは一体何だろう。しかし、ひとまず、ブシガイトがいまだ家族に対して引け目を感じていることが分かった。


「……『神よ、偽りの光を与えたまえ』」


 変装の聖神法である。ブシガイトが来てからと言うもの、彼女は杖を手放したことが無い。祖母の外観をまねて作った幻影を身に纏い、ローレルはゆっくりとブシガイトに近づいてその額に熱救急シートを貼った。少しだけ彼の表情が解れる。とはいっても、無表情だ。彼は自分の前では表情を作る。気を遣われている事は知っている。


 目は瞑っていて、やはり寝言だったのだと思った。


 ローレルは、再び音を殺しながら部屋を出た。事が上手く運んだと、小さく握り拳を作る。扉を閉めた後、居間で時間を見た。十一時。一、二時間後に、また彼の部屋を訪れなければならない。しかも、今度は起こさねばならないのだ。難しい課題である。そんな風に考えながら、少女はひとまず読み返す本を選び出す。


 小説の再読は、当然初読の時に比べて進みが早い。その上選んだ本は薄かったのも手伝って、読み終わる頃でも十二時丁度を回ったところだった。ローレルはソファーから立ち上がり、エプロンを着る。これが彼女のスイッチなのだ。


「ブシガイト君は日本人だから、味には五月蝿いでしょうし……。手堅い料理にしたいですね」


 とはいえ病人。無難なのと言えば、チキンスープだろうか。野菜は新鮮なものをみじん切りにして加えれば、治りも早かろう。


 小食なローレルだから、自分のも同じものでいいかと手抜きをする。手早く作って、二階に持っていった。あらかじめ祖母に化けるのも忘れない。


 一つ問題があるとすれば、声までは祖母の物にすることが出来ないという事だ。姿は鏡を見てもバッチシだったが、如何にして声を出さずに食事を摂らせるか――


 そのように考えながら、扉を開けた。寝たままのブシガイトが、こちらに上気した顔を向ける。


「あ、おばあさん。さっきはおでこのこれありがとう。……アレ? おばあさんじゃなくてローラ? 何で変装してるのさ」


 声を出すとか出さないとか、そういう段階ではなかったらしい。


「……何でわかったんですか?」


 聖神法を解きながら問い返すと、「バレバレだよ」と笑われた。少しむっとしたローレルは、ちょっとだけ雑な態度で「昼食です。どうぞ」とだけ言ってベッド傍のチェストにスープを置いた。そのまま足早に去ろうとすると「ごめん。ちょっと上半身を起こすのだけでも辛いんだ。手伝ってくれると嬉しいのだけれど」と困った声で言ってきた。


 先ほどの寝言の遠慮はどうしたのだ。と少女は怒りを覚えた。ローレルは聖人ではない。目論見がことごとく外れた上に馬鹿にされれば、腹だって立つ。だが断る事は信念に反していた。だから、せめてもの抵抗に仏頂面で食べさせてやろうと考えていた。


 その目論見さえ外す言葉を、ブシガイトは発した。


「大丈夫だよ、心配しなくて。僕はこの家に馴染んだりしない。治る……というのがよく分からないけど、時期を見てすぐに出ていくから」


 頭が、冷えるような思いをした。怒りはするりと手の内から零れ落ちて、呆然とした声だけが、彼の言葉に応答した。


 ローレルは、しばし混乱の最中に在った。注意深くブシガイトにスープを飲ませながら、彼の心の内をずっと考えていた。その時、初めて気になった。彼がここに辿り着くまでの軌跡が。


 スープを飲ませ終えて、その事にローレルはしばらく気が付かなかった。ブシガイトに名を呼ばれ、はっと我に返る。慌て気味にそそくさと皿を回収して部屋から出ていったが、それまでの視線がまるで幼子を見るような温かい物であることも気になった。


 気にし始めると、彼の一切が謎に包まれている事が発覚した。


 不発弾に悩むのは、御免だというのに。


「……三時……」


 恨めしそうな目つきで、ローレルは時計を見る。三時。一日の一区切りの内の一つとも考えられる。昼食から二時間強経った。そろそろ、水分が足りないとブシガイトが苦しんでいるかもしれない。


「会いたくない。会いたくない……けど、人を苦しむのは見過ごせません」


 冷蔵庫の中から大型のペットボトルを取出し、水をコップに注いでから階上へ向かう。今日は何度も階段を上り下りしていて忙しない。全く、それもこれも、全てブシガイトの所為だ。彼が寝込まなければ、自分はずっと本を読んでいられたのに。


「……まぁ、それはそれで飽きそうですが」


 軽く四回、扉をノックする。ノックが四回というのは、仕事など距離感の遠い間柄の作法である。近しい相手だと三回、トイレが二回だ。


 返事は無く、寝ているのかと推察した。こっそりと開けて部屋を覗き見ると――先ほど電源を切っていった自分が言うのもなんだが――暗い。息は整っている。もしかしたら明日には治るのかもしれない。


 ベッド間際まで忍び寄り、チェストにコップを置く。そのまま寝顔を見た。息は整っていたが、表情は大丈夫だと言い難い。辛そうな顔だと思った。何かに、耐えているような。


 よく見れば、唇が微かに動いているようでもあった。ローレルは耳を寄せてみる。二文字の何かが聞こえる。そして、その他にも音があった。べたついた水音のようなそれだ。


 少女は聞き取ろうと尽力したが、結局はよく分からずに終わった。聖神法の教科書を見ればそれ用の呪文が載っているのだろうが、今から行って戻って来るまでずっと彼が寝言を止めないとも限らない。


 というか止めていなかったら軽く恐怖だ。


「……はぁ。本当、貴方は一体何者なのですか、ブシガイト君。鋭い洞察力があったり、その割に遠慮深かったり。何を隠しているのか、私にはさっぱり分かりません」


 聞こえていない、と思えば、このくらいの言葉は軽く出て来るのだ。そもそも、ローレルは無口でもなんでもない。喋りたい時は喋るが、家の外ではその機会が少ないだけである。


 今日一日で、妙に彼に親近感を持ってしまったと、少し自分に呆れた。起こさないような小声で「では、私はもう行きます」と告げ、ベッドから立とうとする。


 するとローレルは、ふと、彼の頬を伝う何かに気付いた。


 血だ。ローレルは、息を呑んで瞬きする。すると、勘違いであった事が知れた。透明の滴である。酷く寂しげな表情で、ブシガイトは涙を流していた。


「……」


 声は出さない。ただ、無意識のうちに手が伸びた。涙を拭こうとしたのかもしれない。水滴に触れたのだけは事実で、その先は分からなかった。


 というのも、その瞬間に彼が目を覚ましたのだ。悪夢から目覚めるような起き方だった。ローレルは怯み、手を遠ざけて反射的に謝りかけた。だがブシガイトは、手を掴んだまま、泣き出した。


「っ……!」


 少女は、その姿を見て何も言えなかった。寝ぼけているのだろう。それは、考えるまでもない事だった。しかし、何が彼にそうさせたのか。それを考えると、底知れぬ恐怖を感じた。


 彼の泣き方は、母親に捨てられた子供にそっくりだった。弱々しく縋って、すすり泣くのだ。少女はそれを見て、自分の表情までもが歪む感覚を覚えた。筋違いだと、自分を叱咤する。彼は、受け入れてはならない相手だ。それが、不思議な泣き方をしたくらいで同情してしまうなど、許されない事なのだ。


 しかし、手を振り払う事が、ローレルにはついぞ出来なかった。どうして母親を求む子供を見捨てることが出来よう。気付けば彼女は少年の手を強く掴んで、彼と包み込むようにして泣いていた。自分の姿を自覚しても、我に返ることが出来なかった。そして、そのまま泣き続ける。


 それは、ローレル・シルヴェスターという少女の人生が、大きく捩じれた瞬間だった。


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