白薔薇の騎士 -4-
◇
運命は繰り返されるのか?
輪廻は断ち切られたと、信じていたけれど。
『定めだよ』
かつて王に、まじない師はそう言った。
『すべては定め。選ぶのは我らじゃない。導くのはすべて』
神の思し召しのままに。
「……カイン・ウォルツ。ここにもって、そなたに白薔薇の剣を授ける」
大歓声が見ている。
動けぬ王に代わり、武大臣グレンが剣を彼女に差し出す。
白銀の鎧をまとった彼女は、2人の前に跪き短く返事をしてそれを受け取った。
グレンは口の端を強く結び、一瞬彼女の小さな肩を労いたいという衝動に駆られたが、必死に抑えた。
――今この場にて、この光景を見ているのは国の規模から思えば極々僅か。
だがすぐに国全土に知れ渡ろう。ここで繰り広げられた戦い。そして〝白薔薇の騎士〟が生まれ出る過程。
おろかな事だと王は思う。だがもう退けぬ。
これが定めだというのか。
(お前が男だったなら)
ずっとそう思っていた。だが同時にこうも思っていたのだ。
姫でよかったと。
だが。
「これはそながた選んだ路。その剣を持つ事が何を意味するか、そなたはそれを、これから思い知るであろう」
オヴェリアは顔を上げた。そして初めて口を開いた。
「心得ております」
知れ渡るぞ。〝白薔薇の騎士〟が女であると。
(愚か者)
剣など持って欲しくはなかった。
(そなたの母上は、)
「カイン・ウォルツ――いや、オヴェリア・リザ・ハーランド」
その名に、聴衆はどよめいた。だが王は構わず続けた。
覚悟を決めろ。その思いは誰へ向けたものか。
「白薔薇の剣を手にしたそなたに、最初の任を与える」
そのために、この会は催された。
知っていただろう? 剣を手にした者が何を課されるか。何のためにここに戦士が集められたのか。 求められているのが贄だと。
もう後戻りはできぬのだ。
――王は、搾り出すかのような声で。
大臣たちは固唾を呑んでいる。
ただ一人、武大臣のみはじっと冷静にオヴェリアを見つめ。
「……北の国境ゴルディアに、黒き竜が現れた話は聞いておるな」
「はい」
「災いをなしている。このままでは直に、竜はこの国を焦土と化そう」
オヴェリアはじっと王を見た。
王が愛したただ一人の女性と同じ瞳で。
王はそれに見つめられ、決意した。
「白薔薇の騎士オヴェリア・リザ・ハーランド。黒き竜討伐を命ずる。竜を仕留められるのは並みの剣にあらず。王家に伝わりしその剣でもって、必ず打ち倒せ」
「――仰せのままに」
白い薔薇は、ふさわしい者を選ぶ。
そして彼女は選ばれた。運命と宿命に。
オヴェリア・リザ・ハーランド。
ハーランド建国史上初の女性騎士にして。
――最後の〝白薔薇の騎士〟。
その戦いがここに、幕を開ける。