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第一話:犬が一匹

 注意事項。

R15は念のため、残酷な描写は出てくる予定です。

とはいえ作者が未熟なためたいしたものではないと思います。が、苦手な方は注意してください。

あと異種間恋愛ものです。こちらも苦手な方はご注意下さい。では、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


目が覚めたら、人間じゃなかった。


この事実に気付いた当初、俺はショックのあまり宥めようと手を差し伸べていた召使いA(♂)を、天に召してしまった。

その事実にもまた愕然とし、恐怖した。そして、だだっ広い部屋に引きこもった。


これが、俺が生まれて一週間目の出来事である。




人間じゃなかったお陰か、俺は特に困ることもなくだだっ広い部屋で過ごしていた。これがまた、以前の部屋の何十倍だ!と言いたくなるほど広い。

部屋は全体的に暗い紫色だ。

ベッドも何か、ゴツゴツ?いや、ドクドクしてやがる。

脈打ってやがる。


初めはそのおぞましさにベッドを降りた。生後一週間で歩けるのか普通?と思うだろうが、俺は普通じゃない。むしろ人間じゃない。

いいか、人間じゃないんだ。


そうしてベッドを降りたはいいが、三秒で死が隣に迫っていると確信した俺はその気持ち悪いベッドに戻るしかなかった。


何だってんだ。一体全体さっぱりわかんねぇ……。俺が人間じゃねぇ以前に、どこなんだここは。

何かもう、禍々しいんだよ。内装が。

特に壁から生えている魔物?みたいな奴。実際に目にしたら気持ち悪いとしか言えないそれが、ムンクの叫びさながらの形相で壁に生えてんだよ。こう、頭と手首だけ生えてんだよ。赤ん坊を宥めるつもりが微塵たりとも感じられないんだが、どうなってんだ。逆に泣き出すぞ。

俺だって、初めて目にした時は泣くかと思った。いや、泣いてねぇよ?

むしろ乾いた笑いがこみ上げてきたから。くふ、っていう。

鼻から笑いました。みたいな。


んなことどうだっていい、ってか?

ははは。今そう思った奴、後でこのムンクの口の中に放り込んでやるから、覚悟しとけ。




……はー、虚しい。

一人で脳内会話してる俺、すっげー痛い。痛さを通り越して寂しい奴だぜ。

だってしょうがないだろ。誰もいないんだ。

いたけど、ほらさっき、天に召しちゃったから。そこでスプラッタ映画も真っ青な惨状で転がってますから。生まれて一週間で、俺は人生を詰みましたから。

まぁ、人間じゃなかった時点で詰んでるけどな。


改めて、見える範囲で俺は自分の身体を見た。

フッサフッサだ。

最近、髪が薄くなってきたのをやたら気にしていた親父に、分けてやりたい。親父、どう考えてもここにいないだろうけど。いても、頭が紫紺色になるからノーだろう。それ以前に人間の毛じゃねぇし。

どこかに俺の今の姿が見られるものはないかと、広い部屋を見回した。ーーあった、鏡だ。

まだこの気持ちの悪いベッドを降りられないが、目がいいお蔭で難なく鏡に映る今の姿を見ることができた。


一言でいえば、凛々しい犬である。

うん、格好いい。なかなかイケメンだ。イケてる犬だ。

ああ、犬だ。何度見ても、俺は犬だ……犬だが、ただの犬じゃないだろう。

生まれて一週間であんな真似ができる犬。殺傷能力がパネェ犬だ。

しかも以前の記憶付きとか、とんでもねぇ弊害つきじゃねぇかっ!俺がこんな得体のしれない犬でも、せめ記憶さえなければ、パニックにならずに済んだかもしれない。召使いAを天に召さずに済んだかもしれない。

こんな、生まれて一週間で胸糞悪い思いをしなくて済んだ筈だ。


神様とやらがいるなら、俺はそいつに延々と呪詛を唱えてやる。

あ、やべ。神様とか、思っただけで気持ち悪ぃ。吐きそうだ。

もう、神……の野郎なんざどうだっていい。それよりも、いい加減に誰か来いよ。いや、俺が引きこもったんだけどな。

正確には、誰も来るな!って思ったら唯一あった扉がバタンと閉まって、開かなくなったらしい。らしい、とはまぁ、外でドンドン叩いているからだ。途中で爆発音なんかも聞こえてきたが、知らねぇ。

ついでに悲鳴も聞こえた気がするが、知らねぇ。空耳だ、空耳。



つーか、俺が引きこもって結構な時間が経った。召使いAが干からびていらっしゃるので、間違いない。俺も、何かあれだ。デカくなってるし。


しかし、本当に誰も来ねぇ。ここの奴らは根性なしの集まりか。ここがどこだか知んねぇけど。


いい加減、じっとしているのにも飽きてきた俺は、身体を起こした。

今なら、この気持ち悪いベッドから離れても大丈夫な気がする。そう直感して、俺はぐっと前足に力を込めて扉目掛けて頭から突っ込んだ。

扉が壊れる音、そして壊れたついでに吹っ飛んだそれに巻き込まれた誰かの悲鳴。


それらを煩く感じながら、俺は地面に着地した。

頭に扉の残骸がついていたら嫌なため、ふるふると二、三度頭を振って顔を上げる。すると、目を丸々と見開いた――訂正、元から目がデカいらしい骨と皮だけの猿のようなモノと、目があった。……三秒ほど、見つめ合ってしまった。最悪な気分だ。


さて、出たはいいがどうしたものか、と悩んでいた俺の目の前で、そのメデカ(目がデカいという意味だ)は飛び跳ねた。


『キキィー!キキキ!キキー』


何言ってんのかさっぱりわかんねぇ……。


『キキ!キッ!キキキィキィ!』


俺の周りで飛び跳ねんな。何の儀式を行ってんだ。余りの鬱陶しさに俺がうなり声をあげると、メデカは笑えるほどの素早さで俺から離れ、扉の残骸の影に隠れた。

あのメデカ、俊敏だけレベルMAXなんじゃねぇ?


とりあえず、鬱陶しいものがいなくなってくれて良かった。言葉もわからないなら、邪魔でしかない。と、メデカのいる場所から視線を逸らしたところでガラガラと崩れる音がした。ついで、男の声。


「いたた、まさか扉をぶち破ってこられるとは……」


おお!言葉がわかる。だが、ここで俺が喜び勇むと思ったら大間違いだ。ここがどこなのかわからない間は、警戒して損はないだろう。


扉の残骸を押しのけて現れたのは、人だった。いや、人の姿をしてはいるが人間ではないだろう。

短髪の黒髪、目はワインのように赤く、尖った耳と犬歯が特徴的だ。服は、真っ黒な軍服で背には大剣を担ぎ、腰にも細剣を帯剣している。何よりそいつの纏うオーラのようなものが、酷く禍々しい。

とはいえ、俺はその禍々しさが嫌いではなかった。

ツカツカとそいつは軽い足取りで俺へと歩み寄りながら、1mほど手前で膝を折った。


そして、良く通る声でこう言った。


「お初にお目にかかります、俺はシュタイン・アグナー。アジュール・デッド・ケルベロス様――あなた様の第一の臣下です。どうぞ、お見知りおきを」


は?臣下?

何事だ。いや、つーか何て言った今。

ケルベロス?ケルベロスってアレか?地獄の番犬で有名なケルベロス?


犬になったと思ったら、犬は犬でもケルベロスだったのかよ……。


地面についた大きな足を見下ろして、俺は空を仰ぐ。

ああ、空の色まで禍々しい。

ここはつまり、地獄なのか?俺は何、地獄行きだったの?

言わせてもらうが、俺は性格が決して、決して良くはないし、口も悪いし若さという漲るパワーに任せてやんちゃもしたが……したが、だ。

地獄に堕ちるような真似をした覚えは微塵もない。これが神の采配だというなら、やはり神の野郎に向かって呪詛を延々と唱えるしかないだろう。

とりあえず、いるかもわからない神の野郎に罵詈雑言を胸中で呟いてやった。


胸がスッとしたところで、俺は顔を俺(犬)に跪く男に向けた。

こいつ、シュタインって言ったか。俺の臣下って言ってたが、つまり何だ。

俺>シュタインってことか。

ケルベロスが地獄の番犬ってことしか知らねぇから、正直こんな顔よし、身長高い!みたいなイケメンに跪かれる理由がさっぱりである。

どうすっかなぁ、と悩んでいるとシュタインはいきなりうなだれた。


「やはり、俺をまだお認めになって下さらないか……」


はぁ!?

いきなりネガティブになられても対応に困るんだが。何だ、何か言えばいいのか?でも犬だぞ。

もし、ワン!と俺の口から出た場合、俺はどうすればいい。今は犬だが、俺は元人間なのだ。人間だった頃、どう間違えても犬の物真似なぞしない、そんな奴だった。ゆえに、ワン!と俺の口から出た場合、俺の自尊心はズタボロである。

だから、まぁネガティブなシュタインを励ますつもりはない。以上。


『キキキキィー!!』


と、俺が扉をぶち破って出た部屋の中でメデカが叫んだ。

いつの間に移動したんだ。まったく気付かなかった。シュタインはそんなメデカの声にハッと我に返ったようで、俺を一瞥し深々と頭を下げる。『見てまいります』とメデカのいる場所へと向かっていった。

一瞬だけ、メデカの評価が俺の中で上がって――下がった。

あの部屋では、召使いAが干からびているのだ。

隠すつもりはなかったが、すっかり忘れていた。

あーあ、終わったな 。俺の犬の人生が、今日で終わりを迎える事は間違いない。


「これは……そうか、ケルベロス様が」


はい、そうです。

俺がやりました。やったっていうか、ピカッと光って気付いたらそうなっておりました。言い訳がましい?すみません。

現場検証を終えたらしいシュタインが、暗い顔をして現れた。ゆっくりと口が開かれていくのを、俺は覚悟を決めて待った。


「ケルベロス様。今から魔王様の元に参ります。俺に着いてきて下さい」


しかし、シュタインは思っていたのとは違うことを口にした。

魔王?

閻魔大王。略して魔王ってことか……?いや、閻魔大王って仏教だっけ?

ケルベロスって西洋って感じだしな、閻魔大王はねぇよな。


つまり、やっぱ悪の親玉。ゲームで言うとラスボス的な魔王か?地獄だと思ったけど、魔界だったりすんのか、ここは?

まぁようするに、親玉の目の前で俺の人生が終わるんだな。


「では、参りましょうか。魔王城まではそう遠くありませんから、ご心配なく」


何の心配をしろと。俺の命は心配するまでもなく、デッドエンドなんだが。

シュタイン、お前は優しそうな顔をしていながら、とんでもないドS野郎だったか……。


メデカの奴も魔王城に着いてくるようで、シュタインの隣で猿みたいに飛び跳ねている。因みにメデカの大きさは、ちょうどシュタインの腰くらいだ。俺はメデカのそのテンションにイラッとしながら、大人しくシュタインの後ろをのそのそと追いかけた。


「しかし、残念です。ケルベロス様の側に付いていらした次期魔王様がお亡くなりなって……もう、仕方のないことですが」


……ん?

いま、何かとんでもない事を聞いたような……。


「魔王様にご報告申し上げるのは心が痛みますが、ケルベロス様のご心痛を察すれば俺の苦痛など対したことではありませんが」


待ってくれ。話について行けないんだが。

え?なに?召使いAだと思っていたのが、え、魔王?

次期魔王様、だったってことなのか?


え、俺はつまり、次期魔王を殺っちゃったってこと――?


マジか。



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