Street girl
「壊しちゃえばいいじゃん。ぜーんぶ」
その少年に初めて出会ったのは、暗い森の中だった。
身長は私とほぼ同じくらい、体のラインもほっそりとしていて、はじめ見たときは暗いこともあって女の子かと思った。
「何を悩んでいるの?」
その少年は、なぜだか楽しそうな声で言った。
「悩んでる? 私が?」
内心、男の子の声がして驚いていたが、私はそう返した。
「そうだよ、君の心が何かを欲しているのが分かるんだ」
少年はクスクスと笑う。
こいつは何を言っているのだろう、とそう思った。
「私が何かを欲しているだって? そりゃ、人間なんだし欲しいもののひとつやふたつぐらいあるよ」
「例えば?」
「えっと……今はとりあえず服が欲しいかな」
「そうじゃない」
「えっ」
気づくと、少年は私の目の前に立っていた。
「君が欲してるのはそんな曖昧な物じゃない、もっとハッキリしたものだろ?」
闇の中から暗く、重い二つの光が私を見つめている。
もう何がなんだか分からない。
そもそも、さっきからこの少年は何を言っているのだろうか。
私はなぜこんな森の中に居るのだろう。
様々な疑問が私の頭の中をグルグルと回りだしたとき、少年はまたクスクスと笑って「まあ、そう焦らせなくてもいいか」と呟いて私から離れてもりの中へ歩き出していった。
「君は起きな。もう朝だよ」
少年の背中は、もう闇の中に消えて見えなくなっていた。