#1 第1話 空にきらめけ!ドリームスピカ誕生!(前編1)
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一応変身ヒロインもの……のはず。長くなったので前後編にします。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
辺りに絶叫が響き渡る。
焼け焦げた黒い大地と、稲妻の走る紫色の空が広がっている不気味な場所で、私はただただ走り続けていた。
どうしてこんな所にいるのかの心当たりはない。ついさっきまでは自分の部屋にいたはずなのに、気が付いた時には何故かここにいた。
足が痛い。息が苦しい。いつから走っているのかも分からない。
それでも、足は止められない。何故なら……。
「何あれ!?なんで追いかけて来るの!?」
そう、私は今追われている。
黒い体と吊り上がった赤い瞳、鋭い爪と長い耳を持った、犬のような、あるいは兎のような姿の奇妙な怪物達に。
ギラギラと輝くその目からは感情を読み取るのが難しいけれど、何となく怒っているように見える……気がする。
大きさは四つん這いになった大人の男の人くらいで、その数は、1、2、3………駄目だ、多過ぎて数えられない。正確な数は分からないけれど、軽く50体くらいはいると思う。たぶん。
それらが群れを成して、こちらに向かって雪崩のように押し寄せてくる。今ここで足を止めたら一瞬であの中に飲み込まれてしまいそうだ。
それで、どうして私があいつらに追われているかだけれど……実のところ、理由は全く分からない。
あの怪物と出くわしたのはここに来てすぐのこと。右も左も分からなくて、とりあえず辺りを調べてようとした時に奴らは急に現れた。
そして目が合った瞬間、爪を振りかざして襲ってきたから思わず逃げ出して……そうしたらいつの間にか、追っ手の数がどんどんと増えていって今に至る、という訳だ。
いつまで逃げ続ければいいのだろうか。どこまで行っても景色はそう大きく変わらないし、あいつらが諦めてくれそうな気配も感じない。このままこうしていたところで、元の場所に帰れる保証だってない。
そう思うと心が折れそうになる。
「もうやだ、早く帰りたい……」
終わりの見えない状況に耐えかねて、思わず弱音が零れたその時。
『あかりさん』
不意に誰かに名前を呼ばれた気がした。
一瞬その場で立ち止まりそうになったのを抑えて、走りながら辺りを見渡す。
しかし、周囲に声の主らしき存在の姿は見当たらない。空耳だったのかな。
『早乙女あかりさん、聞こえていますか』
……違う、やっぱり空耳じゃない。今度はさっきよりもはっきりと聞こえてきた。
一体誰なのだろう。落ち着いた、大人の女性のような印象を受けるけれど、私はこの声に全く聞き覚えがない。
「はーい、聞こえてます!あなたは一体誰なんですか!?」
『もし聞こえるなら、どうかお願いします。私達のことを助けてほしいのです』
「……あれ?」
試しに空に向かって呼び掛けてみるも、返ってきたのは私の質問と噛み合っていない答えだった。こちらの声は聞こえていないのだろうか。
相変わらず声の主の姿も見えないし、これでは何も分からない。
仕方が無い。これ以上私の方からは何も出来なさそうだし、ここは大人しく話の続きを待ってみよう。
『今、この世界には危機が迫っています。あなた達だけが頼りなのです』
世界の危機……?
唐突というか、想像以上に話のスケールが大き過ぎてピンとこない。
けれど、深刻そうな声の様子からして、嘘をついている訳ではないことは何となく分かった。
困っているのなら力になってあげたいけれど、一体何をすればいいのだろう?
『このまま彼らを放っておけば、世界中が悪夢に支配されてしまうでしょう』
彼ら、というのは、後ろに迫る怪物達のことなのだろうか?
声の言っていることはどこか不明瞭で、話の全貌がよく分からない。
まるで、決まった時間の中で最低限の情報だけを記した録音音声のようだ。
『ああ、もう時間がない……どうか、彼女達と共に世界を……』
最後にノイズのような音が一瞬混じった後、声がぷつりと途切れる。
「えっ、ちょっと待って……わっ!?」
声の方に気を取られていたせいか、それとも疲れが溜まっていたのが仇となったか、足がもつれてバランスを崩し、その場に倒れ込んでしまう。
立ち上がろうとしても、何故か腕に力が入らない。まるで何かに上から押さえつけられているみたいだ。
『グギャァァァッ!』
後ろで、怪物達が一斉に咆哮を上げる。
その声に慌てて振り向くと、おびただしい数の怪物が勢いよく私の方に飛び掛かってくるのが見えた。
奴らの動きがやけにスローに目に映る。磨かれた刃物のように鈍く輝く爪が、私の眼前に迫ってくる。
……あ、終わった。
直感でそう理解し、もう駄目だと思って目を瞑る。
私の意識はそこで途絶えた。
「……はっ」
ぱっと世界が切り替わる。
少しぼんやりとした視界に映るのは、先程のおどろおどろしい景色とは違う、馴染み深い白い天井。
私の部屋だ。ということは……。
「さっきまでのは、夢……?」
重い身体を起こし、ほっと胸を撫で下ろす。
窓のカーテンを開けるとまだ少し薄暗い空が見え、ガラス越しでも外の空気の冷たさが伝わってきた。
ううっ、4月に入ったといっても、朝はまだまだ肌寒い……。
枕元の目覚まし時計の針はぴったり6時半を差している。休みの日の起床時間にしては、いつもよりちょっと早いけれど……何となく、あんな夢を見た後に2度寝をする気にもなれなかったので、もう起きてしまうことにした。
ベッドから降りて、タンスの引き出しから胸元に星のマークが入った桃色のトップス、それからクリーム色の短めのボトムスを取り出す。
それから着替えて軽く髪を整えた後、1階のリビングへと向かった。
「お母さん、おはよう……あれ?」
挨拶をしながら扉を開けるも、返事は返ってこなかった。
それどころか、部屋の電気もついておらず、いるはずの家族の気配もない。いつもなら、この時間には起きてきているはずなのに。
珍しいな。何かあったのだろうか。体調を崩して寝込んでいるとか?それとも、今日はただ少し起きるのが遅いだけなのか。
少し様子が気になったので、寝室の扉を軽くノックして呼び掛けてみた。
「お母さん?」
中から返事はない。まだ寝ているのかな。
「……入るよー?」
なるべく音を立てないように扉を開けると、ベッドに横たわり、すやすやと寝息を立てているお母さんの姿が目に入ってきた。
ぱっと見特に異常はなく、近くに行って軽く頬を突いてみても少し身じろぐだけ。完全に熟睡しているみたいだ。
そういえば、最近仕事が忙しいと言っていたような。疲れてるのだろうか。それなら無理に起こすのもなんだか気が引けるし、そっとしておいた方がいいのかも。
静かに寝室を後にして、キッチンの冷蔵庫を開ける。
食パンは……ある。これなら朝食はどうにかなりそうだ。
トースターに食パンを入れてつまみを回す。
食卓の椅子に座って焼き上がるのを待っている間、ふと、今朝見た夢のことを思い出した。
知らない場所で恐ろしい怪物に追い掛けられる、やけにリアルに感じたあの夢。普通なら、ただの夢で済ませられるはずなのに。
どうしてだろう。あれが普通の夢だとはどうしても思えなかった。
その理由は自分でも分からないけど、底の見えない大穴を覗いているかのような、漠然とした不安感を覚えてしまう。
それに、あの声の言っていた『世界の危機』という言葉がどうしても心に引っ掛かる。
もしも、あれがただの夢ではなかったとしたら?世界に危機が迫っているという話が本当だったとしたら?
そんな嫌な考えが頭をよぎる。
……って、流石に考えすぎだよね?
おかしいな……。普段だったら、変な夢を見てもここまで気にならないのに。疲れてるのかな、私。
まあ、気にしていたって仕方ない。出来ることだって何もない訳だし。
あれはただの夢、そういうことにしておこう。なんだか釈然としないけれど。
後で外の空気を吸えば、気分も少しは晴れるだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、何やら焦げ臭い匂いが鼻をついた。
はっとして立ち上がり、慌ててトースターを止めると、所々が黒ずんだ食パンがひょっこりと顔を出す。
「あー、やっちゃった……」
ずるずるとその場に崩れ落ちる。
ただでさえ暗かった気持ちが、更に暗くなったような気がした。
結局、お母さんは暫く待っても起きて来なかった。
一言言ってから出掛けたかったのだけれど、こればかりは仕方が無い。
とはいえ、何も伝えないで出て行くのもよくないとは思うので、代わりにリビングの机の上に書き置きを残しておくことにした。
目立つところに置いておいたから、きっと気付いてもらえるはずだ。
「それじゃあ、行ってきます」
小声で呟き、家を出る。
外は明るくて暖かく、朝の澄んだ空気が心地良い。モヤモヤした気持ちも吹き飛ぶような絶好の散歩日和だ。
さて、今日はどこへ行こうか。少し遠くまで行ってみるのもいいし、近くの公園などでのんびりするのもありかもしれない。とりあえずは少し歩いてみようかな。
軽く伸びをしてから歩き出す。
日曜日の朝だからだろうか。辺りに通行人の姿は1人も見当たらない。
それにしても、今日は本当に良い天気だ。
こういう良い天気の時はつい気分も上がって、スキップなんかもしたくなってしまう。
中学生になってからは他人に見られるのが恥ずかしくてやっていなかったけれど、周りに誰もいない今なら人目を気にせずに出来そうだ。
「……よし」
タタン、タタンと地面を蹴る。リズムよく軽快に、夢中になって進んでいけば、暗かった気持ちもどこかに吹き飛んでしまった。
身体が羽のように軽い。今なら空だって飛べてしまいそうだ。
ついつい楽しくなって鼻歌まで歌い始める。
上機嫌なまま、その場でくるりと一回転をした所で……。
「あ」
少し口を開けて私の姿をまじまじと見つめる、1人の女の子と目が合った。
思わず足がピタリと止まる。
……見られてた。恥ずかしい。
全身の熱が顔に集まっていくのを感じ、耐えられずに両手で顔を覆う。
とてもじゃないけど直接顔を合わせる気にはなれない。
けれど何となく、今目の前にいる女の子がどういう人物なのかが気になって、恐る恐る指の隙間から相手の姿を覗いた。
その女の子は、どこかふわふわとして掴みどころのない、ミステリアスな印象を受ける子だった。
毛先が丸まった白い髪をお下げにしていて、頭にはウサギの耳のようなリボンの付いた水色のカチューシャを付けている。
服装は、白とラベンダーの丈の長いワンピース。襟や裾にはフリルが飾られていて、全体的にガーリーで可愛らしい雰囲気だ。
そして、眠たげに細められた目からは月光のように淡く輝く金色の瞳が覗いていて、ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな程に綺麗だった。
背丈は私よりほんの少しだけ小さく見える。同い年くらいなのかな。というか、どこかで会ったことがあるような…?
その子は最初はぽかんとして私を見つめていたものの、恥ずかしさのあまりに固まっている私の姿を見て微かにクスリと笑った。
それを見て何だかいたたまれなくなり、逃げるようにその場を立ち去る。今更ごまかしても仕方がないとは思うけれど、何事もなかったかのような風を装って。
暫く行って辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、もう一度顔を覆って大きく溜息をつく。
「………はぁ………」
辛い。ちょっと……いや、かなり傷付いた。
確かに、道で浮かれながらスキップしている人を見かけたら思わず笑ってしまうのも分かる。分かるけれども、それでもかなり心に来た。
……。
………。
……まあ、いつまでも気にしていたって何かが変わる訳じゃないし、とりあえずさっきまでのことは全部忘れよう。うん。
あと、やっぱりスキップをするのはやめておくことにしよう。何処で誰が見ているのか分かったものじゃないし。




