Drop.019『 CocktailGlass〈Ⅰ〉』【3】
「――で、その中のド定番と云えば……、――“いざ、その指輪をはめようとしたら、指のサイズと合わなくてぶかぶかだった、入らなかった”――なんてのが、ありますよね」
対する花厳は、それにも、変わらず穏やかに応じた。
「あるね」
桔流は、今度、それに悪戯っぽい表情を浮かべると、さらに言った。
「“その事”に関して、花厳さんは、――自信、ありますか?」
すると、それにも表情ひとつ変えることなく穏やかに笑んだ花厳は、頷いた。
「うん。――あるよ」
そんな、予想と異なる花厳の反応に、桔流はしばし目を丸くした。
そして、すぐにその瞳を好奇心に煌めかせると、わくわくとした様子で問うた。
「ほんとですか?」
花厳は、それにもにこやかに応じる。
「ほんと」
その余裕っぷりに、桔流は、
「凄い……。――自信満々じゃないですか」
と、より一層とわくわくした様子で身を乗り出すと、ソファ近くに置いていた手荷物の中から手早くリングケースを取り出すなり、ソファにそっと置いた。
そして、そのままやんわりと左手を差し出すと、桔流は言った。
「じゃあ、はい。――どうぞ」
すると、そんな桔流に、花厳はきょとんとする。
「え?」
それに、桔流も不思議そうに言った。
「“え”って、――自信、あるんですよね? ――なら、ほら。証明してもらわないと」
花厳は、やや驚いた様子で、その桔流の瞳を見つめ返し、問う。
「えっと……。もしかして――、指輪、してくれるの?」
すると、桔流は首を傾げるようにして、にこりと笑んだ。
「ふふ。もちろんですよ。――指輪は、指にするためのものなんですから」
そんな桔流に、花厳は嬉しそうに言う。
「確かに。そうだね。――でも、そう言ってもらえて嬉しいよ」
そして、桔流に渡された化粧箱からシルバーリングを丁寧に取り出すと、
「じゃあ、失礼して……」
と言い、桔流の手を優しく取るなり、その美しい指にリングを通した。
桔流は、その様子を見届けると、小さく歓声をあげた。
「わぁ……」
そんな桔流の瞳は、凛と佇むリングを映しながら、感動に煌めいていた。
「ほんとにぴったり……。――凄い……」
「ふふ」
花厳は、それに満足そうに笑う。
花厳の自信通り、リングのサイズ感は完璧であった。
そのあまりの完璧さに、桔流はしばらくその瞳を煌めかせ続けた。
しかし、その中、はたと気付くと、桔流は、再び悪戯っぽい笑みを浮かべ、花厳を見た。
「ねぇ。花厳さん?」
そんな桔流の思惑に気付かず、花厳は穏やかに応じる。
「なんだい?」
桔流は、その様子に一層によによとしながら、本題を紡いだ。
「指輪が、俺の指にぴったりはまって凄~く満足そうですけど……」
「?」
「この指輪が、――“この指”のサイズにぴったり合ってるって事は、この指輪、――わざわざ“この指”のサイズに合わせて作ったって事ですよね?」
花厳は、そこでようやっと桔流の意図を悟り、ハッとした様子で言った。
「え……、あ……。――あ~……、ははは……。その……、――…………つい」
そして、花厳が苦笑すると、薬指のリングをひとつ撫で、桔流は言った。




