Drop.019『 CocktailGlass〈Ⅰ〉』【2】
「ははは。そうか。――ありがとう」
桔流は、それにまたひとつ微笑み返すと、言った。
「でも、――という事は、――今って、ちょうど忙しい時期なんですね」
花厳は、少し考えるようにして紡ぐ。
「まぁ、そうだねぇ……。――でも、今はまだ、忙しいというほどではないかな。――本格的に忙しくなるとしたら、来月頃からだから」
桔流は、そう言うなりにこりと笑った花厳に、微笑み、言う。
「そうなんですね。じゃあ――、応援してますね」
花厳は、それに嬉しそうにすると、桔流の頬を撫でながら言った。
「うん。ありがとう」
そんな花厳に微笑む桔流は、先ほど泣き腫らした目元こそまだ赤らんではいるが、それ以外は、すっかりと普段通りの桔流であった。
花厳は、その事に安堵したところで、はたと思い、言った。
「あ。――ところで」
桔流は、それに首を傾げる。
「?」
花厳は、その桔流にひとつ微笑むと、続けた。
「そんなわけで、我が家には食材らしい物は無いから、俺はデリバリーでもいいんだけど……。――桔流君に希望はあるかな? ――近くの店ならまだ開いてるし、買い出しくらいは出来ると思うけど」
そんな花厳の言葉に、桔流は不満そうにした。
そして、半目がちに花厳を見上げると、口を尖らせながら言う。
「花厳さん……。この俺が居るのにデリバリーとか頼む気でいるんですか? そんな事したら、俺、また帰っちゃいますよ? ――ここは、買い出し一択ですっ」
すると、花厳は、悪戯に乗じるような様子で、わざとらしく言った。
「それは大変だ。今夜は流石に帰したくないから、――早速買い出しに行くとしようか」
桔流は、それに、半目がちなまま笑うと、言った。
「…………スケベ」
花厳は、楽しげに笑う。
「やだな。――そういう意味じゃないってば」
そんな花厳に、桔流も笑った。
「ふふ。冗談ですよ――それじゃ、行きましょうか」
「うん」
それに、花厳が頷くと、桔流は、ソファからコートを取り上げた。
そして、さっと着込むと、マフラーを巻き、買い出しの準備を整えた。
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その後。
花厳と共に、近場の店で買い出しを済ませた桔流は、帰宅するなり、すぐに調理に取り掛かった。
花厳は、色々な事があった後にも関わらず、いつも通りの様子で楽しそうに料理をする桔流に――、そんな桔流が“ここに居る”という実感に――、改めて安堵し、そして、大きな幸せを感じていた。
その中、少しすると、桔流お手製の料理たちが完成した。
それを合図に、買い出しで買ったワインのひとつを開封すると、二人は、久方ぶりのひと時を、存分に満喫した。
そして――、それからしばらくした頃。
ひと通りの食事を終え、ソファに移動した二人は、食後のワインを楽しみながら、深夜の穏やかな時間を過ごしていた。
「――そうだ。花厳さん」
その中、ワインをひと口味わった桔流は、隣に腰かける花厳に言った。
「よく、“指輪のプレゼントと云えば”――の定番ネタって、いくつかあるじゃないですか」
「うん」
花厳は、穏やかに頷く。
桔流は、そんな花厳の反応を伺うようにしながら、続ける。




