Drop.019『 CocktailGlass〈Ⅰ〉』【1】
その晩――。
抱き締め合った桔流と花厳が、その久方ぶりの温もりをたっぷりと満喫した頃。
花厳が、言った。
― Drop.019『 CocktailGlass〈Ⅰ〉』―
「――ごめん。寒かったよね。――このままだと風邪ひかせちゃいそうだから。とりあえず、あがって」
花厳の腕の中、桔流は、それに楽しげに笑むと、言った。
「ドラマとか舞台みたいに、暗転はしてくれなさそうですもんね」
花厳は笑う。
「ははは。うん。――現実は、なかなかね」
そんな花厳にまたひとつ笑うと、桔流は、花厳からそっと身を離し、ブーツに手をかけた。
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その後――、改めて花厳の家へとあがり、花厳に続きリビングまでやってきた桔流は、ひとつ断りを入れると、丁寧にコートを脱いだ。
その間、何か思い出したらしい花厳は、申し訳なさそうに言った。
「――あぁ。そうだ。桔流君」
コートを脱ぎ終え、ソファに荷物を置かせてもらった桔流は、それに首を傾げる。
「はい?」
そんな桔流がふと見れば、花厳は、冷蔵庫の前に居た。
花厳は、その場で続ける。
「その……、桔流君が俺の胃袋を掴もうとしてくれたのは嬉しいんだけど。――実は、今の我が家には、一切まともな食材がなくて……」
その花厳の言葉に促され、花厳のそばまでやってきた桔流は、促されるままに冷蔵庫内を覗く。
そして、示された冷蔵庫内を一目見た瞬間。
桔流は、眉間に皺を寄せた。
そんな桔流は、半目がちに言う。
「花厳さんって……酸素が主食だったりします?」
花厳は、苦々しく笑う。
「いやぁ、ははは……。――普段はついデリバリーに頼っちゃって……」
桔流は、それに、無感情に言った。
「アーラオカネモチー」
そんな桔流に、またひとつ苦笑いを返すと、花厳は冷蔵庫を閉じた。
桔流は、何気なく問う。
「花厳さんって、料理出来ないわけじゃなかったですよね? ――簡単な調理でも面倒くさいとかですか?」
花厳は、それにひとつ唸り、言う。
「う~ん。そういうわけじゃないんだけど……。――演者としての仕事がある時は、家で時間を使う事も多くてね……。――演技指導の仕事なら、ほぼ現場だけで完結するようなものも多いんだけど」
桔流は、それに納得したようにして言った。
「あ。そっか。――俳優さんとかって、家で台本読んだりするんですもんね」
花厳は頷く。
「そう。――だから、家に帰ってきてからの時間も、出来れば仕事に充てたい事が多くてね」
「なるほど……」
それならば、確かに、デリバリーで済ませてしまう方が、都合が良いだろう。
(なら、仕方ないか……。――無理に料理しても、疲れちゃうだけだろうしな)
桔流は、花厳の事情を聞き、彼の食事情について改めて納得した。
その中、ふと思い出すと、桔流は花厳に言った。
「そういえば、次の公演、二月ですもんね」
花厳は、それに微かに眉を上げると、少々照れくさそうに笑んだ。
「うん。よく覚えてたね」
桔流はそれに、満足げに笑むと、言った。
「ふふ。まぁ、俺 に と っ て は ――、大切な予定でしたからね」
そんな桔流に、花厳は嬉しそうに言う。




