Drop.018『 Shake〈Ⅱ〉』【1】
桔流の問いに、花厳は確かに頷き、はっきりと謝罪の言葉を述べた。
それが、すべての答えであった。
桔流の予感通り、やはり“あれ”は、以前のものと同じ、あの“瑠璃色”であった。
つまり、花厳と例の元恋人は、何かしらの経緯の果て、復縁する事になったのだ――。
― Drop.018『 Shake〈Ⅱ〉』―
――実は、俺。
――今度、改めてプロポーズするんだ。
あの晩。
桔流が遮った言葉の先に紡がれるのは、そんな告白であったのだろう。
――だから、もう君とは居られない。
さらには、そんな言葉も添えられたのかもしれない。
「――………………」
桔流の視界は白く染まり、眩暈を生じた。
真っ白なヴェールの隙間から覗く廊下は、微かに揺らぎ始める。
桔流は、その中、なんとか溢れそうになる感情を堪えた。
(なんだ……。やっぱりこうなるんじゃねぇか……)
運命に弄ばれ、つい希望を抱いてしまった悔しさに、桔流は奥歯を噛みしめる。
(好きになんて……、なるんじゃなかった……)
どうせ、誰かを好きになっても、こうして辛い結末を迎えるだけなのだ。
希望など、抱くものではないのだ。
(もういいや……。答えは出たし、全部終わった。――もう……帰ろう……)
桔流は、大きな落胆の中、この場から立ち去るため、振り返ろうとした。
だが――、出来なかった。
(何してんだよ……。――もう、全部終わっただろ……)
桔流は、溢れそうになる想いを必死に堪えながら、振り返ろうとする。
しかし、桔流の身体は、指先ひとつすら、桔流の意志に従おうとしない。
(なんだよ……。希望なんて、もう残ってないんだよ……)
先ほど紡がれた、花厳からの言葉で、真相もすべて解明されたのだ。
そして、桔流が、もう、この家に居て良い存在ではなくなった事も、はっきりと分かったのだ。
そうである、はずなのに――、桔流の中には、未だ、諦めの悪い花厳への希望が、粘り強く居座り続けていた。
そんな希望に対し、桔流は退席を促す。
(もう……、全部終わったんだって言ってんだろ……)
希望をもつという事は――。
期待をするという事は――。
先々に良い未来がない場合、心の傷を酷くするだけの猛毒にしかならない。
桔流は、それをよくよく分かっている。
しかし、宿主がそれを分かっていても、桔流の心は、希望をひしりと抱いて離さない。
その心は、桔流に訴えるのだ。
まだ、花厳は、すべてをはっきりとは言っていないではないか。
だからこそ、まだ、希望が失われたわけではない。
もしかすると、花厳は、この後。
“でも”――と紡ぎ、さらに続くその先の言葉で、桔流を、絶望の淵から救ってくれるのかもしれない。
もうすぐ、花厳は、この沈黙を破り、救いの言葉を紡いでくれるのかもしれないのだ――。
桔流は、そう必死に訴える心に、そこでまたひとつ、抵抗した。
(そんな事……あるわけ)
その時。
しばらくの沈黙を破り、花厳は静かに紡いだ。
「本当に、ごめん……」
だが、そうして新たに紡がれた花厳の言葉は、やはり、桔流を落胆させるものだった。
桔流は、吐き捨てるようにして思う。




