Drop.017『 Shake〈Ⅰ〉』【5】
「桔流君? どうしたの?」
花厳が、そうして問うたのは、桔流の様子がおかしい事に気付いたからだ。
先ほどまで、ブーツを脱ごうとしていたはずだった桔流は、未だ、ブーツを履いたまま、玄関に佇んでいる。
その上、そんな桔流は、少しばかり俯いている。
その様子に、花厳は今一度、桔流の名を呼んだ。
「桔流君?」
すると、桔流は、俯いたまま、静かに紡ぎ始めた。
「――……花厳さん。――俺、花厳さんに、尋きたい事が、あるんです……」
花厳は、それに、優しく応じる。
「……なんだい」
だが、敢えてしばし離れた桔流との距離を、詰める事はしなかった。
今、下手に距離を詰めれば、桔流はまた、あの扉の向こうへと逃げ出してしまうような気がしたのだ。
だからこそ、花厳は、その場を動かず、桔流に応じた。
桔流は、ぎこちなく紡ぐ。
「俺が……、花厳さんの話をちゃんと聞かずに帰った――あの日に……、花厳さんが俺に見せた、“あの贈り物”って……、――“前の”と……同じやつですよね……」
声が、震える。
(駄目だ……頑張れ……)
ここで己の感情に負けては、花厳から本当の答えを聞けないかもしれない。
ほろほろと哀しみを伝わせる桔流に、あの花厳が情を抱かないわけがない。
だからこそ、今はまだ、自身の感情に耐えなければ――。
桔流は、再び決壊を始めようとする涙腺を今一度窘めると、静かに黙し、天井の照明を映した廊下を見つめながら、花厳の言葉を待った。
そんな桔流に――、そんな桔流の問いに――、花厳は、ゆっくりと紡いだ。
「――……うん。――ごめん」
今の桔流が、最も聞きたくなかった言葉を――。
Next → Drop.018『 Shake〈Ⅱ〉』




