Drop.017『 Shake〈Ⅰ〉』【4】
「あ。――もしかして、どれも微妙?」
桔流はそれに、幾度かゆるりと首を振り、言った。
「いえ……。――どれもいいなと思って、迷ってます」
そんな桔流に、花厳は、楽しげに笑った。
「ははは。なるほど。――じゃあ、存分に迷ってもらっていいよ。ここに置いておくから。好きなのを飲んで。――もちろん、全部でもいいよ」
その中、三つの選択肢がドリンクホルダーに置かれると、桔流はまた首を振って言った。
「え。いや。それは流石に……――あの、良ければ、花厳さんが先に選んでください。――俺は本当に、どれも好きなので」
花厳は、それに、眉を上げて笑むと、首を傾げるようにして言った。
「――それは、奇遇だね」
「え?」
桔流も、つられて首を傾げる。
そんな桔流に笑むと、花厳は続けた。
「――俺も、どれも好き。――だから、君が先に選んでくれると嬉しいな。――知ってるでしょう? 俺、優柔不断なんだ」
(――本当に、この人は……)
桔流は、再び心で紡いだその言葉と共に、思わず眉間に皺を寄せた。
そして、その後。
散々と悩んだ桔流は、ふと、舌が甘味を欲しているように感じ、その中で最も甘味らしいホットココアを選ぶ事にした。
「――じゃあ、ココア、頂きますね。――ありがとうございます」
そんな桔流が、ホットココアを手に取りながら言うと、花厳は、
「うん。どうぞ」
と、笑顔で頷き、自身は、珈琲のボトルを手に取った。
桔流は、しばしココアのボトルで手を暖めると、ぱきりと開封した。
そして、ボトルから香る芳醇な甘い香りに、ほっと心が癒されるのを感じながら、桔流はココアを頂く。
それに並び、花厳もまた、珈琲に口をつけると、言った。
「――ところで、桔流君。話をするのは、車の中で大丈夫だったかな? ――外だと流石に冷えるし、かといって、お店で話すのも、ちょっと落ち着かないかなと思って、ここに停めたんだけど。――もし、桔流君がお店の方が良ければ」
桔流は、そんな花厳の言葉をやんわりと制するようにひとつ息を吸うと、言った。
「――花厳さんの家が、いいです」
それに、一瞬だけ驚いたように黙した花厳は、
「――……分かった」
と、言うと、その理由などは特に言及せず、
「じゃあ、とりあえず、このまま家に戻るね」
と、続けた。
桔流は、それに、
「はい。――お願いします」
とだけ紡ぎ、自身の膝元に視線を落とすと、ボトルにひとつ口をつけ、甘味で心を温めた。
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「――どうぞ」
その後。
心地よい運転に揺られ、無事に花厳の家までやってきた桔流は、花厳に丁寧に招かれると、久方ぶりの想い人の家に、足を踏み入れた。
そんな桔流は、玄関口にあがりながら、
「有難うございます。お邪魔します」
と、礼節を払うと、花厳に言った。
「――あ。俺、ブーツなので。花厳さん、お先に」
花厳は、それに、
「あぁ。分かった。――ゆっくりでいいからね」
と応じると、丁寧に靴を脱ぎ、廊下へとあがった。
そして、そのまま廊下を歩みながら、桔流を振り返り、
「とりあえず、何か温かいものでも……」
と言ったところで、花厳は、言葉を切った。
そんな花厳は、伺うようにして、桔流に問う。




