Drop.017『 Shake〈Ⅰ〉』【3】
(それだけは、嫌だ……)
だからこそ、例え、その行動によって本当にすべてが終わるとしても、桔流は、自分から行動を起こす事を選んだ。
(――どうせ、終わりになるなら、――ちゃんと、すべてを知った上で、終わりたい)
今一度、強く思った桔流は、手元から視線を上げると、そのまま、夜空を見上げた。
(ちゃんと話して、――……終わろう)
夜空は、星々を隠し佇みながらも、そんな桔流の視線を、穏やかに受け止めた。
それに、ひとつ息を吐けば、夜空を覆う暗い雲に向かい、真っ白な靄がふわりと昇った。
その靄を見送っている中、桔流の身体がひとつ震える。
桔流の身体は、店でたっぷりと暖まっていたはずだった。
しかし、その夜の寒気は、たった数分ほどでも、大いに体温を奪うほどの冷気を纏っていた。
それに、ひとつ身震いした桔流が、
(さっむ……。――やっぱ、どっか入るか……)
とひとつ思うと、そんな心を察したかのように、スマートフォンが着信を報せた。
その報せに応じ、桔流は手早くスマートフォンを確認すると、通話ボタンを押した。
「――はい」
イヤフォンからは、再び花厳の声が伝う。
『――待たせてごめん。着いたよ』
桔流は、その声に心動かされながら、応じる。
「いえ、大丈夫です。――車、どこに停めてますか?」
花厳は、それに、近場の駐車場に停めている旨を示した。
そこは、花厳と距離を置くまでの間、花厳との待ち合わせに幾度も使っていた駐車場であった。
桔流は、それに、胸が詰まるのを感じながらも、
「分かりました。――すぐ、行きますね」
と言い、通話を切ると、足早に花厳のもとへと向かった。
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桔流が駐車場に足を踏み入れると、車の外で、車体に寄りかかるようにしていた花厳は、桔流に向かい、穏やかに微笑んだ。
そして、軽く頭を下げた桔流が、足早に花厳の元へと向かうと、花厳は手慣れた様子で助手席を開け、
「お疲れ様」
と、言った。
その洗練された動作に、桔流は思わず、
(おぉ……流石……)
と、心で感嘆を漏らした。
そうして、まるで映画で見る専属の運転手や執事かの如く、桔流を出迎えた花厳は、桔流を助手席へと誘うと、
「ちょっと待っててね」
と言うなり、丁寧にドアを閉め、その場から離れて行った。
そして、それを不思議に思いつつも、桔流が暖かな車内で暖をとっていると、数分もしないうちに運転席のドアが開いた。
宣言通り、すぐに戻ってきた花厳は、そのまま運転席へと腰かけると、コートのポケットから何かを取り出し、桔流に言った。
「待たせてごめんね。――桔流君は、どれがいいかな? 紅茶と珈琲、ココアがあるけど」
どうやら花厳は、桔流の身体が冷えている事を察してか、近場の自販機で温かい飲み物を買ってきたらしい。
(――この人は……)
桔流は、その手際の良すぎる花厳に、妙な懐かしさを感じ、心の内で苦笑した。
そして、花厳が示した三つの選択肢を眺めながら、しばし黙した。
「――……」
その様子に、花厳は穏やかに問う。




