Drop.017『 Shake〈Ⅰ〉』【1】
その年もまた、例年通り、よく冷えるクリスマス前夜となっていた。
そんなクリスマス前夜も、街中や各所の飲食店は、大変な賑わいをみせていた。
無論、それは、桔流たちの店も同様で、――店内は、カップルや夫婦、友人同士から一人客も含め、様々な客たちで大いに賑わっていた。
そのうち、一人客たちは主にカウンター席に座ると、初対面の隣人との会話に華を咲かせていた。
そんなイヴのカウンター席では、翌日のクリスマスを共に過ごす相手探しが行われるのが、この店の恒例行事ともなっていたのだ。
店のバーテンダーたちは、そんな恒例行事の行方も見守りつつ、その晩も、客たちへと、美味と最高の笑顔を振る舞っていた。
― Drop.017『 Shake〈Ⅰ〉』―
「ねぇねぇ桔流君~。――桔流君は今年のクリスマスもお店に居る~?」
店内が大いに賑わう中、カウンター席に座るほろ酔いの常連客が、桔流に言った。
それにひとつ笑むと、桔流は応じる。
「えぇ。勿論。――もしかして、明日もいらしてくださるんですか?」
常連客は、その桔流の言葉に、
「桔流君もいるなら来る~!」
と、嬉しそうにしたが、すぐに口を尖らせると、耳を下げながら言った。
「――今年のクリスマスも、ま~たひとりぼっちでさ~……」
そんな常連客に、桔流は、にこりと笑む。
「――じゃあ、“今年も”、僕らとお店で過ごしましょう。――明日も、いらしてくださるのを楽しみにしてますね」
それに、常連客は酷く嬉しそうにした。
「えへへ。必ず来るね~」
そんな常連客に、またひとつ笑顔を返すと、桔流は一度、厨房へと向かった。
その時。
すっと桔流のそばにやってきた法雨が、こそりと言った。
「桔流君。――明日、休みにしてあげてもいいわよ?」
桔流は、それに、思わず動揺しながら言った。
「えっ。――き、来ますよ……っ」
法雨は、その様子にによによとすると、
「そ。――じゃ、“アタシも”、楽しみにしてるわ」
とだけ言い、上機嫌にフロアへと出て行った。
その後ろ姿を見送ると、桔流は、己の心の臓をしばし宥める。
そんな、その年のクリスマス前夜も、桔流は、普段よりも早く退勤する事になっていた。
クリスマス当日は、開店準備にやや手間をかけるため、ベテラン組である桔流も、法雨と共に早出組に入っているのだ。
それゆえ、クリスマスイヴにおいては、夜九時の退勤が、桔流の毎年のスケジュールとなっていた。
「――お疲れ様です。お先、失礼します」
「は~い。お疲れサマ~」
その中、あっという間に退勤時刻を迎えた桔流は、更衣室に向かう前に事務所の法雨に声をかけ、退勤の挨拶を交わした。
そんな桔流が、それから更衣室へと向かおうとすると、
「桔流君」
と、法雨に呼ばれた。
「はい?」
桔流がそれに振り返ると、法雨は、周りに誰も居ない事を確認すると、足早に桔流のそばまでやってきた。
そして、不思議そうにする桔流に微笑むと、法雨は、その温かな両の手を桔流の頬に添えるなり、ひそりと言った。
「頑張ってらっしゃい。桔流君。――それと、また“子猫ちゃん”したくなったら、今度こそ、ちゃんと連絡するのよ」
桔流は、その温もりから伝わる法雨の深い愛情に、やんわりと眉根を寄せて笑むと、ひとつ瞬きながら頷いた。




