Drop.016『 LemonJuice〈Ⅲ〉』【4】
「――……」
(――なら、やっぱりあれは……。――……いや、でも……)
もし、法雨が言うように、花厳が桔流への配慮から“気まずそうな顔”をしていたのなら、今すぐにでも花厳に連絡をとり、真相を確かめるべきだ。
だが、桔流は、そうである可能性があったとしても、その場では、意を決する事が出来なかった。
恐ろしかったのだ。
(もし、その希望にかけて、――また、先生と同じ結果になったら……)
そのような事になれば、今度こそ、二度と立ち直る事は出来ないだろう。
しかし、悩む桔流に、法雨は言う。
「まぁ、悩むのは分かるわ。――でもね、桔流君。――アナタはきっと、どちらにしても逃げきれないわよ」
それに、桔流はやや困惑しながら言う。
「“逃げ切れない”って……。――別に、あっちは追ってこないですよ」
すると、法雨は、そんな桔流の前に置かれた空のグラスに、ロックアイスを丁寧に入れながら、言う。
「アラ。それはどうかしら? ――アタシの勘は、“逃げ切れない”って言ってるわ。――だって、アナタ。確認するどころか、花厳さんの言葉を最後まで聞かないで飛び出してきたんでしょう? ――最後まで聞くのが、怖かったから」
「う……。――は、はい……」
桔流が応じると、法雨は、
「そうよね」
と、言い、続ける。
「いい? 桔流君。――花厳さんは、今、追う気がなくて追ってこないんじゃないわ。――花厳さんはね、ハンターはハンターでも、とっても忍耐強いハンターなの。――それでいて、思考力もあるハンターだから、分かってるのよ。――“余裕がない状態のアナタをすぐに追うのは、逆効果だ”って。――だから、一切の連絡もせず、お店にすら顔を見せずに、ただ静かに様子を伺ってるのよ」
「“様子を”……?」
桔流が尋くと、法雨は頷く。
「そう。――だって、アナタの事をよく分かっている人なら、誰だってこう思うもの」
法雨は、紡ぎながら、カラカラリとブランデーの蓋を回す。
「――もし、まだ、アナタが自分を想ってくれているのならば、――アナタは、アナタ自身の気持ちさえ整えば、アナタの方から何かしらのアクションを起こす、ってね」
「………………」
そんな法雨の言葉に、桔流は黙した。
その桔流の前では、琥珀色の滝がとくとくと注がれ、グラスの中の氷を溶かしながら海を成してゆく。
その中、法雨は言う。
「好きなんでしょう? 花厳さんの事。――だって、アナタ。彼が復縁する事になったんだって思い込んで、それが辛くて逃げてきたのに、――まだ忘れられないで、延々と悩んでる。――それは、アナタが、花厳さんに対する希望を捨てきれてないから。――そうでしょう?」
「………………」
それにも、変わらず黙したままの桔流は、煌めく琥珀色を、ただ見つめる。
その桔流に、法雨はさらに紡ぐ。
「そりゃあそうよ。――だって、本当の事は、まだ何も分かってないんですもの……。――ねぇ、桔流君。――アナタは、伝えたの? アナタが本当はどう思っているか、花厳さんに、ちゃんと伝えたの? ――まだよね? ――相手の事を憶測だけで判断して、相手に勝手に遠慮して、そうやって本心を隠したままでいたら、そのまま、――すべて終わるわよ」
「――………………」




