Drop.014『 LemonJuice〈Ⅰ〉』【4】
(なんで……)
来る日も来る日も、法雨に頼み込み、許される限りの時間を仕事に費やした。
だが、どれだけ忙しくしても、桔流は、花厳の事をまるで忘れることが出来なかった。
とはいえ、幸い、その花厳に関する葛藤が、仕事に影響を及ぼす事はなかった。
しかし、背丈のある黒髪の客や、クロヒョウ族の客が来店する度に、店の入口を見てしまう――といった事は、度々とあった。
(おかしい。――簡単に忘れられると思ったのに……)
そして、そんな苦心の日々が続き、桔流が悩みに悩んでいた、とある日。
仕事を終えた桔流が、更衣室で着替えをしていると、
「桔流君。この後、ちょっと付き合いなさい」
と、法雨が声をかけた。
“付き合いなさい”、というのは大抵、閉店後の酒の誘いである。
そんな法雨の言葉に、桔流は素直に頷いた。
ここ数日、酷く悩み抜いていた事もあり、その日の桔流も、ちょうど、酒の力に頼りたいところだったのだ。
そのような事もあり、桔流は、それから手早く着替えを済ませると、私服の状態でフロアへと向かった。
すると、フロアのソファ席に法雨が居た。
そんな法雨は、桔流がフロアに出てくるなり手招きをした。
「いらっしゃい」
「はい」
桔流は、それに応じると、法雨のもとへと向かう。
そして、そのまま法雨の隣へと腰かけると、法雨が言った。
「あれから、どう?」
“あれから”――というのは、花厳と気まずい別れ方をしたあの夜から――、という事だろう。
そんな“あの夜”の翌日には、法雨に大いに迷惑をかけた。
だからこそ、法雨には、これ以上、迷惑も心配もかけたくない。
そのような思いから、桔流は、さっぱりとした笑顔を作り、
――もう大丈夫です。
と、言いたかった。
しかし、
「………………」
それは、叶わなかった。
何せ、大丈夫――どころではないからだ。
桔流は、花厳を忘れようと決めた。
そうであるにも関わらず、それからの進展は皆無だ。
そのような状態を、心配をかけたくない法雨に、果たしてどう伝えろと云うのか。
「駄目――みたいね」
「すいません……」
そして、結局心配をさせてしまう結果となった事から、桔流は耳を下げながら謝った。
すると、法雨は桔流の肩に手を添えて言った。
「ヤダ。謝らないでちょうだい。責めてるんじゃないんだから。――それどころか、アナタはむしろ、もうちょっと塞ぎこんだら――ってくらい、仕事もきっちりこなしてる。だから、謝る事なんてひとつもないわ。――でもね、“だからこそ”尋いたのよ」
「え?」
それに、桔流が首を傾げると、法雨は真剣な面持ちで続けた。
「無理してる。――そう、思ったから」
「………………」
そんな法雨に、見事に自身の状況を当てられた桔流は、言葉がなかった。
法雨は、紡ぐ。
「ねぇ。桔流君。――アタシね。今回の事があったからってだけで、こんなに心配してるんじゃないの」
「え? どういう事ですか?」
それに、桔流が首を傾げると、その桔流と向き合うようにして、法雨は言った。




