Drop.014『 LemonJuice〈Ⅰ〉』【3】
「えぇ。無神経よ。――でも、無神経かどうか、というのは、今はどうでもいい事ね。――それより大事なのは、アナタがどうしたいか、だわ」
「どう……したいか……」
「そう」
法雨は、深く頷く。
「アナタが何かアクションを起こしたいなら起こしたらいいわ。――でも、アナタから何かしたいと思わないなら、このまま待ってみたらどうかしら。――前にも言ったでしょ? ――人はね、本当に大切なものであれば、何があっても必ず取り戻しに来るものなの。――アタシ、花厳さんは、特にそういうタイプだと思うわ。――だから、桔流君。――花厳さんがアナタを取り戻しに来る前に、アナタも、花厳さんは本当にアナタが身を委ねてもいい人なのか、――これを機に、少し考えてみたら?」
その法雨の言葉を、桔流はゆっくりと復唱する。
「“考える”……」
法雨はそれに、またひとつ頷き、続ける。
「そう。――それに、これを機に、花厳さんがアナタをどこまで想っているのかも、ちゃんと知る事が出来ると思うわ。――そして、アナタはアナタで、こうして離れていても、アナタもちゃんと、花厳さんの事を想い続けられるのか。アナタが花厳さんをどれくらい好きなのか。――それも確かめてみなさい。――で、その中で、どうしても自分から動きたくなった時には、アナタから動いてみたらいいわ。――ね」
そんな法雨の言葉に、桔流はゆっくりと頷いた。
「……分かりました」
すると、法雨はひとつ、桔流の頭を優しく撫でた。
✦
それから、数日が経過したとある日。
桔流のスマートフォンに、花厳から、謝罪のメッセージが届いた。
しかし、そのメッセージを最後まで読みこそしたものの、桔流がそれに返信を打つ事はなかった。
それは、決して、その謝罪内容が不満だったからではない。
また、花厳に怒りを感じているから、というわけでもない。
ただ単純に、何故だか、返信をする気になれなかったのだ。
返信をしなかった理由は、ただ、それだけであった。
そして、そんな謝罪文を受け取って以降は、花厳からも、新たなメッセージが送られてくる事はなかった。
勿論、店に姿を見せる事もなかった。
その中、桔流はふと、
(もう、忘れよう)
と、思うようになった。
このまま、自分が何もしなければ、花厳はきっと、また別の人を好きになる。
花厳が、前の恋人の次に、自分を好きになったように――。
(だから、ゆっくりでもいいから、もう忘れていこう。――すぐには忘れられなくても、時間が経てば、ちゃんと忘れていけるはずだから……)
何より、花厳も、自分のような変わり者の相手をするより、普通の恋が出来る相手と結ばれた方が良いに決まっている。
(だから、花厳さんとは、もうこれきりで――)
そして、考えを転じ、ひとつの結論に至った桔流は、その日から、花厳の事を忘れてゆくことにした。
勿論、始めのうちは悶々とする事もあるだろう。
だが、そんな悶々とした気持ちも、日々忙しくし、仕事に集中していれば、徐々に消えてゆくはずだ。
桔流は、そう思った。
そう、――思っていた。
しかし――。




