Drop.014『 LemonJuice〈Ⅰ〉』【2】
一人暮らしの桔流は、家に帰れば、文字通り“一人きり”になる。
だからこそ、桔流は、“外”に居たかった。
外に居れば、少なくともそこは、“他の誰かと共有している空間”という認識から、一人よりは大いに気が楽だったのだ。
さらに、この店のそばに居られれば、なお安心できた。
この店には、法雨をはじめ、この店で働く同僚たちが居る。
桔流にとって、この店は、酷く温かい、もうひとつの“帰る場所”だった。
だからこそ桔流は、昨晩。
今は誰も居ないと分かっていても、縋るように、この店に来てしまったのだ。
だが、だからといって、法雨は、凍え死ぬかもしれないようなヤケを起こす事を、よしとはしなかった。
そんな法雨は、桔流に言う。
「――前にも言ったでしょ? 独りがヤな時は、まずアタシに連絡なさい。――連絡さえくれれば、例え熱く抱かれてる最中でも、すぐに来てあげるから」
その法雨に、――本来ならば、素直に礼を言うべきところだが、後半の言葉が気になりすぎてしまった桔流は、ぎこちなく言った。
「え。い、いや。――そこまではちょっと……」
すると、その応答に満足そうにした法雨は、ひとつ笑った。
そんな法雨が、再び桔流の両頬をその手で温め、やんわりと目元を撫でては、
「ふふ。少しだけど、顔色良くなってきたわね。――まったく。イケメンがこんなに目腫らすほど悲しい目に遭うなんて駄目よ。――イケメンっていうのはね、ベッドの中で攻められてる時にだけ啼くので十分なの。――分かった?」
と言うと、やはり後半が気になってしまった桔流は、次に黙した。
「………………」
法雨は、それに、半目がちに迫る。
「ちょっと。何黙ってるの。――そこはハイって言うんでしょ」
「ハ、ハイ」
そして、桔流が素直に従うと、法雨はまた満足そうに微笑み、安心したような面持ちで、桔流の頭を撫で、言った。
「さて。――それじゃあ、今からホットミルク作ってきてあげるから、それ飲んで体の中も温めなさい。――甘いものは心の栄養よ」
桔流は、それに素直に頷く。
「はい。――ありがとうございます」
そんな桔流に、法雨はにこりと笑う。
「いいえ。――じゃ、ちょっと待っててちょうだい」
「はい」
そうして、その場から法雨が離れると、桔流は、法雨の手の温もりの余韻を感じながら、柔らかなブランケットたちで、その身を温めた。
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「――そう……」
法雨は、温かい紅茶に口を付けながら、桔流の隣に腰かけ、静かに言った。
桔流は、法雨お手製のホットミルクが入ったマグカップで手を温めながら、黙して頷いた。
桔流は、昨日の花厳との出来事を、法雨へと打ち明ける事にした。
そして、一通りの話を聞き終えると、法雨は、しばし考えるようにしてから言った。
「――そうねぇ。――その感じなら、アタシとしては、アナタの“早とちり”に賭けたいけれど……。――とはいえ、“あの時”と同じ物を出してくるっていうのは、どちらにしても無神経ね」
「………………です、かね……」
そんな法雨に、桔流が迷いながら言うと、法雨はひとつ苦笑し、言った。




