Drop.002『 Recipe choice〈Ⅱ〉』【1】
瑠璃色の忘れ物が、桔流達のバーに身を置き始めて一週間。
それだけの日々が過ぎ去っても、店にあの男からの連絡が入る事はなかった。
瑠璃色の忘れ物が店に滞在する事になった当時。
流石に翌日には連絡がくるだろうと思っていた桔流は、それから一週間も連絡がない事にしばし動揺した。
しかし、それから更に数日が経過したある日。
あのクロヒョウ族の男は、何の前触れもなく、再び桔流達のバーを訪れた。
― Drop.002『 Recipe choice〈Ⅱ〉』―
休憩を終え、一度フロアに出た桔流は、早々にスタッフエリアへ引き返すと、その足で事務所に向かった。
ドアのノックすると、事務所内からは法雨の声が返ってくる。
桔流は、それに応じて足早に入室するなり法雨に言う。
「――あの、法雨さん」
「アラ。どうしたの?」
その様子から急用と判じた法雨は、穏やかながらも手早く応じた。
桔流は、そんな法雨に声量を抑えつつ要件を告げる。
「実は、この前の――“指輪を忘れたお客様”がいらっしゃってて」
あの瑠璃色の忘れ物の中身が本当に指輪なのか――。
それは、未だはっきりしていなかった。
しかし、バーのスタッフ全員が認識しやすいよう、その瑠璃色は、あの日から“指輪”という通称を与えられ、今日まで大切に保管されてきた。
そんな“指輪”の忘れ主が、今しがた、ようやっと現れたのである。
その事実を知らされた法雨は、
「まぁ」
と言って眉を上げると、すっと腰を上げた。
そして、忘れ物専用の保管棚から例の瑠璃色を丁寧に取り出すと、それを桔流に手渡しながら言った。
「はい。じゃあこれ。――まずは、こちらが本当にお客様のお忘れになったお品かどうか――から、確認してらっしゃい。――それで、もし間違いないなら、そのままお返しして差し上げて」
手渡された瑠璃色は、保管中に汚れたりせぬよう、紙袋全体がすっぽりと入るほどのビニール袋に収められていた。
桔流は、そんな瑠璃色を優しく受け取ると、
「はい」
と、静かに頷き、足早にフロアへと向かった。
◆
フロアに出た桔流は、念のため、カウンター内から今一度あの男の顔と容姿を確認した。
端正な顔立ち、金色の瞳に、漆黒の毛並み。
襟足をやや長めに整えた艶のある黒髪と、左目を覆うように片側だけ前髪を伸ばした印象的な髪型。
高身長でがっしりとした体つきの――、クロヒョウ族の男。
(間違いない。――あの人だ)
男の容姿を一通り確認し、確かにあの男であると確信した桔流は、意を決して男のテーブルへと向かった。
そして、男に丁寧に一礼し、桔流は言う。
「――あの、お客様。大変失礼いたします。少しよろしいでしょうか」
すると、男はきょとんとした様子で、
「――はい」
と言うと、次いで愛想よく微笑み、
「なんでしょう」
と、首を傾げた。
桔流は、そんな男に再び軽く一礼し、続ける。
「恐れ入ります。――実は、こちらのお品についてなのですが……。――私の記憶違いでなければ、こちらは先日、お客様がお忘れになられたお品ではございませんでしょうか」
すると、男はそれに、
「え……?」
と、不思議そうにした。
しかし、次いで桔流の手元に視線を落とし、その瑠璃色の紙袋をはっきりと認識すると、途端に表情を消し、
「あぁ……」
と、無感情に言った。
そして、何かを考えているのか、それから男は黙してしまった。
そんな男の様子に困惑し、桔流は遠慮がちに尋ねる。




