Drop.013『 WhiteCuracao〈Ⅱ〉』【3】
その、久しく目にする“瑠璃色”の上品な佇まいは、桔流の心地よい火照りを一瞬にして凍てつかせた。
しかし、当の花厳は花厳で、何かを考えているらしく、桔流の心が酷く凍てついてしまった事に気付いていないようであった。
そして、そんな桔流の心模様に最期まで気付く事ができなかった花厳は、目を伏せたまま、気まずそうに言葉を紡ぎ出した。
「桔流君。――その……こんなタイミングで……前置きもせずにで、申し訳ないんだけど……。――実は、俺」
「なぁんだ……」
しかし、そんな花厳の言葉が聞こえていないかのような様子で、花厳が言い終えるのを待たず、桔流は言った。
「――結局こうなんのか」
その桔流の声は、これまで花厳が聞いた事もないような――、酷く酷く冷たい声だった。
対する花厳は、その桔流の反応が予想外だったのか、驚き動揺した様子で桔流を見た。
「……え?」
しかし、そんな花厳に構わず、桔流は吐き捨てるような口調で続けた。
「結局、繰り返し。――だから嫌なんですよ。――好きとか、恋愛とか」
そんな桔流に動揺しながらも、なんとか状況を理解しようと、花厳は、桔流の名を呼ぼうとした。
「桔流く」
しかし、
「帰ります」
それも、桔流に届く事はなかった。
そうして、散々と花厳の言葉を払いのけた桔流は、そう言って席を立つと、コートやカバンを乱暴に手にするなり、足早に玄関へ向かう。
花厳は、そんな桔流を引き留めようと、咄嗟に桔流の腕を掴んだ。
「桔流く――」
だが、
「もう十分ですから!!」
花厳は、その桔流の声を聞き、桔流の状態を完全に理解し、言葉を失った。
花厳に背を向けたまま張り上げられたその声は、確かに震えていた。
その中、花厳が言葉に窮していると、桔流はそのまま、その震えた声を掠れさせながら言った。
「もう……やめてください……。もう、いいですから……。――………………手、離してください」
「――………………ごめん」
「………………」
何に向けて紡がれたのかも分からないような謝罪の言葉と共に、花厳は、桔流から手を離した。
すると、桔流は、黙したまま、静かに花厳の家を後にした。
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静かに玄関ドアが閉まると、そこには、静寂がしんと舞い降りた。
自分は一体、何に謝ったのか――。
彼は何故、怒り、悲しみ、泣いていたのか――。
――結局、繰り返し。――だから嫌なんですよ。――好きとか、恋愛とか。
彼は何故、そのような事を言ったのか――。
花厳には、そのすべてが分からなかった。
だが、今の花厳に、その真相を知る術はない。
理由を尋ねられる唯一の想い人は、もうここには居ない。
彼を、強引にでも引き止め、振り向かせて、ちゃんと理由を尋けば、それで済んだのかもしれない。
泣いている彼を抱きしめる事くらい容易だ。
慰める言葉も、いくらだって思い浮かぶ。
しかし、それが出来るのは――、それで彼を慰められるのは――、“自分ではない他の誰か”のせいで――彼が泣いている時だけだ。




